第壱話 魔の交差点(Ⅲ)
17:30――
晶の要請通りに警察官20数名と5台の救急車が待機している。
行き交う人々は一体何があったのかと、好奇の視線を送りながらも足早に立ち去って行く。
「不動院準教授・・・」
「何でしょうか?」
「以前にお聞きした事ですが・・・」
平泉萌の狙撃事件の時、隼人は神酒から不動院家の事を聞いている。
だが、霊能者という家系を認めず科学の道へと進んだ事も・・・・
「どのようにお考えですか?」
「先ほど説明した通りです。蒸発現象と人的要因により誘発された事故、ただ件数が多いだけです」
「私も、そう思いたい・・・」
「陣内警部補、心霊現象などあり得ません。この世界の全ては科学で証明できるのです」
複雑な表情をして2人の会話を見守る范。
「それにしても遅いな!」
いら立ち時計を見る神酒。
腕時計の針は17:45を差している。
「あいつはいつもそうだっ!」
憎々し気に言い放つ神酒。
更にしばらくして・・・
「皆、お揃いのようだな」
晶の声が聞こえ振り向くと、先ほどまでそこには誰も居なかった場所に晶が立っていた。
「17:55、遅刻寸前だな」
「いや、5分も前だ」
「18時前に待ってろと言ったのはお前だぞっ!」
「だから、18時の5分前だ」
「人と待ち合わせる時は最低でも15分前には到着して・・・」
「無駄な時間がそれほどあるとは、何とも羨ましい」
「貴様っ!」
「そんな格言に惑わされているから真実が見えんのだ!」
「格言じゃないっ! 常識でありマナーだっ!」
「天下の往来でそんな大声で叫ぶのは、常識やらマナーに反しないのか?」
「くっ!」
「まぁ、いい。それよりも・・・。始まるぞ!」
晶の手にはいつの間にか水晶の数珠が握られている。
「よく見ておけ。俗人どもっ!」
時計の針が18:00、丁度を差そうとしたその瞬間・・・
信号が変わり、車が動き出そうとする。
その交差点の中心部の空間が、僅かに歪んだように見えた。
(やはり、蒸発現象・・・)
誰もがそう思った瞬間、歪んだ空間の中心に黒い点が現れ瞬時に暗闇となって広がる。
「ノウマク・サンマンダバザラダン・カンッ!」
晶の口から不動明王小咒が発せられた。
広がろうとしていた暗闇が動きを止め、この世のものとは思えぬ絶叫を伴って吸い込まれるように消えて行く。
ウォオォォォォッ、アァッアァァァァ、ギャアァァァァッ
ガッシャーン!
交差点に進入していた自動車2台とバイクが衝突した。
ハッと我に返る隼人達。
「早く、救助と安全確保をっ!」
晶の声に警察官達が走り出す。
「大丈夫ですか?」
「こちらの方を急いで病院へっ!」
遅れて救急隊員達もストレッチャーを押して駆けつけて来る。
「怪我人だけ・・・」
隼人が思わず呟いた。
この交差点での事故は全員が即死状態だった事を思い出す。
「怪我人だけで済んだ事を喜ぶのも不謹慎だと思うが?」
不敵な笑みを浮かべる晶。
「不動院さん・・・。あれは?」
隼人が尋ねているのは、一瞬現れ瞬時に消えた暗闇の事である。
「あれは・・・。黄泉路だ」
「黄泉路?」
黄泉路とは、黄泉の国へと繋がっていると言われている道の事である。
黄泉の国(死者の国)は、簡易的にあの世という呼ばれ方もしている。
古来より現世とあの世とは死んだ者だけが通っていける一方通行であるが、時としてその理を破ろうとするものが現れる。
日本神話のイザナギ・イザナミ物語、ギリシャ神話のペルセポネのように生者があの世へと行く悲劇があるように、その逆も有り得るのである。
「晶・・・。説明して貰おうか」
「お神酒にも見えた筈だ。黄泉路が開いたのが」
「私は・・・、認めない」
「相変わらず、頑固だな」
フッと晶が笑った。
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