第一話 三期生、入学する(Part 2)

「さてと。自己紹介も終わったし、これから学園を案内しますね」

アキを先頭にして、3期生達は大食堂へと向かう。


「ここでは、和・洋・中と何でも揃っていて食べ放題です。作ってくれているのは、それぞれの一流シェフですから味は保証済みですっ! それと、隣にはベーカリーもありますよ!」


厨房からは美味しそうな料理の匂い、隣からは焼き立てパンの香ばしい香りが漂ってくる。


「わぁ、いい匂い」

「かぁーっ、うまそう」

生徒達から歓喜の声が上がっている。


「朝食は7:00~9:00、お昼は12:00~14:00迄。晩御飯は、18:00~20:00ですから時間は守って下さいね。あっ、それとベーカリーはテイクアウトとデリバリーもやってます」

「はーい」

生徒達が揃って元気よく返事をする。


「じゃあ、次は・・・」

アキ達は大浴場へと向かう。


「ここが当学園自慢のお風呂。24時間いつでも入り放題なのよ」

「うわぁ・・・。広い・・・」

「さすが・・・、【テルマエ学園】・・・」

浴槽から立ち上る湯気を見ながら、アキは自分が初めてここに来た日の事を思い出す。


(ここで皆と一緒にお風呂に入って・・・。お互いの身体にある痣の話になって・・・。もう、2年も前なんだ・・・)


ボーっとしているアキに湊帆が叫ぶ。

「温水先生っ! 皆、行っちゃいましたよーっ!」

「えっ!?」

急に我に返るアキ。

「あっ!はいっ!」

どちらが先生でどちらが生徒なのか分からない・・・




入学式の前日の事である、学園長室を1人の男性が訪れていた。


無精風にアゴヒゲを生やし、でっぷりとした腹を左右に揺らしている。


「毎度っ!学園長っ!新しい制服出来ましたでっ!」

そう、【テルマエ学園】第一期生の大塩八郎である。

今は、アイドルグッズ商社の【GreatSalt】の社長でもある。

「ここに運んでやっ! 丁寧にやでっ!」

八郎に指示された従業員が一人分の制服を運んでくる。

「大塩君・・・。いや、大塩社長自ら、御足労頂くとは・・・」

「何を仰いますねん。今期から【テルマエ学園】の制服を全部。【GreatSalt】に発注して頂いてますねんから当然ですわ」

八郎は顔中をほころばせ、揉み手で弾へと擦り寄る。

「何でも、留学生が来はったってお聞きしましたけど?」

「あぁ、ロシアから急に話が来てね。それで、急いで追加させて貰った訳だが・・・」

「・・・? 何でっしゃろか?」

「ふっ・・・。まさか、当日中に持って来るとは」


卒業式の翌日にいきなり制服のデザインを持って学園長室に押しかけ、強引に弾に売り込んだ八郎。

弾にしても新しい【テルマエ学園】を作るという思いがあり、ここに普段はあり得ない確率の偶然が起きたのであった。


「【テルマエ学園】あっての大塩ですわ」


第一期生随一の問題児であった八郎。

様々な事件を思い出すと弾の頬も自然と緩む。


「もうすぐ、温水先生も来ると思うから・・・。少し、話でもしていったらどうえ?」

自分での気付かぬうちに京都弁を話す弾。

気心の知れた旧友との再会といった所だろうか。


「アキちゃんでっかぁっ?  わぉっ、卒業以来やなぁ」

八郎が喜々としているとノックの音が聞こえた。


コンコン コンコン


「どうぞ」

学園長室の重厚な扉が開き、アキが入室する。


「アキちゃんっ! 逢いたかったわぁっ! 元気やったかぁ?」

すかさず八郎がアキに飛び付く。

「えっ!? はっ、八郎っ!?」

既の所で八郎から身を躱すアキ。


「何や、つれないまぁ。それにしても・・・」

ジロジロとアキを見る八郎。

「アキちゃん。髪の毛、伸ばしてんなぁ。女っぷりが上がったでぇ」

そう言いながらも、視線はアキの豊かな胸へと向けられている。

「八郎こそ、社長の貫禄たっぷりで・・・。でも、ヒゲ剃った方が良いよ」

アキは笑いながら八郎のアゴヒゲを剃り忘れと思って指摘する。

「何言うてんねんな。これはファッションやで」

「え~っ!? 似合わないよ!」


(ついこの前の事やと思うとったけど・・・。何や懐かしい気ぃするわ・・・)

アキと八郎の会話を目を細めて見ている弾。


しばらくアキとの楽しい会話も続いただろうか、八郎がふと時計を見る。


「ア、 アカン! もう小一時間も過ぎてもうとるわ・・・」

時が過ぎるのも忘れ話し込んでいたのである。


「そろそろ、失礼せんと・・・。名残惜しいけど、アキちゃん! 担任、頑張りやっ!」

「うんっ、ありがとう。八郎」

「ほんなら、学園長。また、よろしゅうにっ!」

バタバタと慌ただしく退室する八郎。

アキは束の間の八郎との再会に心を和ませたのであった。




さて、話を戻そう・・・


一通りの学園案内を終えたアキ達は教室へと戻って来た。


「オリエンテーションも終わった事だし・・・」

アキの瞳は期待の色に染まり、キラキラと輝いている。


「じゃあ、これからさっきの大浴場で懇親入浴をしましょうっ! あっ、勿論ですが男子と女子は別々にねっ! 先生も一緒に入っちゃいまーすっ!!」


超ハイテンションのアキ・・・・

だが、教室はシーンと静寂に包まれた。


(あ、あれっ!? ここで、『えーっ!?』とか大騒ぎになると思ったんだけど・・・。やっばり、ゆかり先生みたいに上手くは行かないかぁ・・・)

アキは努めて明るくしたつもりだったが、予想に反して生徒達の反応が鈍く、ついテンションが下がってしまう。


(温水先生・・・)

見かねた湊帆がわざとらしく大きな声で皆に話しかける。

「わ・・・っ。わぁっ、嬉しいなぁっ! み、皆で着替えて大浴場に全員集合だぁっ!」

完全な棒読み・・・


その様子を見ていた龍麗が立ち上がる。

「じゃあ、男子の方は僕が面倒を見るよ」

「皆、行こう!」

鈴麗も続いて立ち上がる。


ガタッ

ガタッ


1人ずつだが、席を立ち教室を出て行く生徒達。

概ねは了解したという事だろうか。


「さっ、温水先生もっ!」

湊帆がアキの肩をポンッと叩く。

「あ、ありがとう・・・。塩原さん・・・」

アキの顔がパッと明るくなる。

それを見た湊帆もクスクスと笑い、アキもつられて照れ笑いする。


(温水先生って、何だかトイプードルみたいで可愛い・・・。だから、お姉ちゃんも・・・)


生徒に助けられるアキであった。


教室を出ると、歌声が聞こえた。


「温泉っ! 温泉っ! 楽しいなっ!」

一人嬉しそうに歌っていたのは・・・


「あ・・・、水城さん」

「えっへぇ、湊帆ちと一緒に行こうと思って待ってたんだ」

無邪気な笑顔を見せる果凛。


どうやら、本心は皆が楽しみで仕方なかったのであろう。



さて、その後の大浴場・女湯では・・・


「うほほーいっ!」


ドボーンッ!


いの一番に湯舟に飛び込んだのは、果凛である。

バシャバシャと手の平で湯面を叩いてはしゃぎまくる。


「ちょっとっ! 何やってんのよっ! あんた、お湯が掛かるじゃないのっ!」

大声を出して果凛を睨みつけているのは、紬である。


その果凛のすぐ側を走り抜ける者が居た。

「果凛ちゃん、面白そう! わちもやる~っ!」

紬の真横を駆け抜けて、杏南が湯舟へと飛び込んだ。


わいわい・きゃっきゃっと2人で大はしゃぎしている。


「果凛さん! 杏南さん! 先に体を流してから湯舟に入らないと・・・」

透桜子が最もらしい事を言っても、耳に入る気配は無いようだ。


「湊帆ちゃ~! 早くう、こっち!こっちぃ!」

入口で立ち止まっていた湊帆をあまねが呼んでいる。


「うんっ! ア、アリスさんも行こう!」

湊帆が隣に居るアリスに声を掛けると、黙って頷く。


そんな生徒達をアキは楽しそうに眺めていた。

(そう・・・。ここで皆と一緒に入ってから、色々な事が・・・)



一方の男湯では・・・


ガラガラッ!


扉を開けて龍麗と鈴麗が大浴場へと入り、謙匠と玄四朗もその後に続く。


大浴場は湯気で真っ白・・・、ともかく視界が悪い。


「んっ・・・!?」

謙匠が何かを見つけて目を凝らしている。


(僕達4人しかいない筈なのに・・・)

謙匠の視線の先には、湯船の中にぼうっと浮かぶ人影・・・

「うわっ!わわわっ! ユーレイっ!?」

ビビりまくる謙匠。


「何っ!? 幽霊だとっ!?」

幽霊と聞き一歩踏み出したのは、玄四朗である。

「私はまだ本物を見た事がない。これは、千載一遇のチャンスだ!どこだっ!何処にいるっ!」

両目を爛々と輝かせ、周囲をキョロキョロと見回す玄四朗。

その後ろで謙匠は身を隠している。


「幽霊なんて・・・」

「兄さん、でもここにはボク達しか・・・」

龍麗と鈴麗も目を凝らし、湯船の中の影を見つめる。


「遅かったですな。待ちくたびれましたわ」

湯煙の向こうから声が聞こえ影が近づいて来る。


「が・・・、学園長っ!?」

そこには、弾が4人を見て微笑んでいたのだった。




※本話は、【東京テルマエ学園】の『第1話 ようこそ、テルマエ学園へ!!』とリンクしております ※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る