― 混沌の系譜 ― (テルマエ学園α)
和泉はじめ
第一話 三期生、入学する(Part 1)
うららかな春の日差しが講堂内に降り注ぐ。
風に舞い散る桜吹雪の中、【テルマエ学園】第三期生の入学式が執り行われているーー
「新入生の皆さん、入学おめでとう!」
壇上で爽やかな声を上げているのは松永弾である。
前ミネルヴァから学園を引きついだ弾は、文部科学省との関係を構築し今までは専門学校としての認可であった【テルマエ学園】を学校教育法に基づく学校へとシステムを変えていた。
これにより中高一貫校+専門学校としての両立が可能となり、13歳以上であれば義務教育期間中であっても卒業単位を取得させる事が可能となったのである。
無論、このシステムは弾一人の発案によるものでは無い。
実例としての堀塚音楽スクールの存在と早瀬コンツェルンのバックアップがあってこそ、この短期間でこれだけの変革を遂げたのである。
その早瀬将一郎も来賓として招かれており、堀塚梨央音も姉妹校の理事長として招かれている。
「この学園では温泉ビジネスを学ぶ事中心に、皆さんに人間的成長をして頂く事が私達の願いです」
弾の学園長としての振る舞いも少しずつ板についてきているようだ。
(松永弾・・・。若いがなかなか骨の有る男だ。先が楽しみだが・・・)
ホワイトナイト・クラウンジュエルの一件以来、弾を見る目が変わっていた将一郎は隣に座る梨央音をちらりと見る。
式典の始まる少し前、挨拶を交わした弾と梨央音。
その後に将一郎が梨央音に意味ありげに話しかけたのだった。
「どうだ、梨央音。なかなかの若者だろう?」
そんな将一郎の言葉に梨央音は、またか・・・というような表情を見せて言った。
「伯父さま、確かに魅力的だとは思いますが・・・。私、年下には興味がありませんの」
「そっ、そうか・・・。年下の男も良いものだぞ、現に私もだな・・・」
「式典が始まりますわよ」
軽く微笑みさっさと歩み出す梨央音。
「やれやれ・・・」
将一郎の気苦労はまだまだ続くであろう。
「続いて、新入生の担任を紹介します。温水先生、どうぞ」
舞台袖に控えていたアキが、パンパンっと両頬を掌で叩く。
(緊張しない・・・。笑顔、笑顔・・・)
ブツブツと呟きながらスーツ姿のアキがゆっくりとした足取りで舞台中央へと進み演壇の前に立つ。
「新入生の皆さん。入学、おめでとうございます。担任の温水アキです。宜しくお願いします」
笑顔を残したまま、アキはペコリと頭を下げる。
そして、ゆっくりと顔を上げると並んでいる新入生達の顔を順に見ていく。
王龍麗・鈴麗の兄弟が微かに微笑みを返す。
そして・・・
次に視線に入った1人の女子生徒にアキの視線が留まった。
(あれっ、おの娘・・・。もしかして・・・)
塩原穂波の妹、湊帆であった。
一方、湊帆も・・・
(温水アキ先生って、確か・・・)
アイドル甲子園の中継で見ていたアキが今、目の前にいるのだ。
(お姉ちゃん・・・)
姉の友人であり【ムーラン・ルージュ】のリーダーであったアキの姿を見つめ続ける湊帆。
また、別の視線もアキをずっと見ている。
梨央音である。
(渡のお気に入りのアキちゃんか・・・、少し背が伸びたかしら。それにしても、可愛らしい先生ね・・・。うちの七瀬の方が大人っぽいけど。でも、渡・・・。ぼやぼやしてると・・・)
謎めいた朗笑の梨央音。
アキを中心とした数奇な宿命と因縁の渦が、周囲を巻き込んで勢いを増そうとしていた――
入学式を終えた新入生達はアキに連れられて教室へと入る。
(ちょっと・・・。懐かしい・・・かな)
ふと、自分達がここで生徒として教えられていた風景を思い出すアキ。
(でも、今は・・・っ!)
「はいっ! それじゃあ、席について」
皆がガタガタと音を立てながら着席する。
「先ず、女子から自己紹介していきましょうか。じゃあ、貴女から」
アキが先頭に座っている女生徒を促す。
「わち、黒崎杏南。島根の湯の川温泉の出身だがぁ」
「あたい、弓座あまね。湯布院温泉のある福岡から来たばってん・・・。『あまねっち』って呼ばれとった」
「私、嘉納透桜子です。新潟・月岡温泉の出身です」
「わたしは、八重樫紬よ。滋賀の雄琴温泉老舗旅館の跡取りで華族の家柄よ!」
「うち、水城果凛っちゃ。富山・神通温泉から来たっちゃよ!」
「あ、あたしは、塩原湊帆です。岡山・・・、湯郷温泉出身です」
皆、それぞれに特徴を持った娘達だと感じるアキ。
「じゃあ、今度は男子ね」
アキの視線が龍麗へと向けられた。
「僕は、王龍麗。中国から来ました、宜しくっ!」
「ボクは王鈴麗。兄の龍麗とは一つ違い。宜しくお願い致します!」
「私は京極玄四朗、山梨の石和温泉出身。趣味はオカルティックな事。何か不思議な事が起きたら、いつでも呼んでくれっ!」
「えーっと、僕は天羽謙匠。福井県のあわら温泉から来ました。レブタイルに興味があるなら、丁寧に指導するよ」
男子もかなり個性的なメンバーが揃ってしまったようだ。
生徒達の自己紹介が一通り終わった所で、オリエンテーションに入ろうかとしていたアキを後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「温水先生!」
アキが振り返ると、弾が居る。
「学園長・・・?」
弾の隣には、1人の金髪女性・・・
(留学生かな・・・。それにしても、凄い美人・・・)
アキはその女性を見て微笑むが、冷淡な笑顔が返された。
「彼女はロシアからの留学生です。」
弾が金髪女性を紹介する。
「ミス・アリス・ペカラスキー。こちらが担任の温水アキ先生です。では、後は頼みましたよ」
一通りの紹介の後に弾は直ぐに姿を消す。
アリスは腕を組み、アキを頭から足の先までジロジロと品定めをするように見つめている。
戸惑うアキ・・・
「あの・・・?アリス・・・?」
思わず声を掛けたものの、話が続かないアキを見たアリスが急にニッコリと微笑む。
「私、ロシアから来ました。アリス・ペカラスキーです。よろしく、温水先生」
「よ・・・、よろしくね。アリス」
そう言うのが精一杯のアキ。
軽いウェーブのかかった金髪に湖底のように澄んだ碧眼の美人留学生。
(温水アキ・・・。この娘が・・・)
アリスの呟きはアキには聞こえていない。
だが・・・
「兄さん・・・」
「鈴麗、まだ分からない事だ・・・」
アリスを見つめる龍麗と鈴麗はわずかに震えていた。
※ 本話は、【東京テルマエ学園】の『第34話 八郎からのプレゼント』とリンクしております ※
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