武智五山は笑わない
糸坂有
第1話 宿命
仁は震えた。彼の中で、完全に時は止まっていた。
夢か現か。それすらも判別出来ないまま、ただその人を見つめた。
呼吸が止まった瞬間、音は消え、背景すら消え、仁はその人に釘付けになった。颯爽と現れたその人は、まるで神業のごとく、いとも簡単に悪鬼を退治してしまったのである。
ああ、何てことだ。
驚愕、興奮、尊敬、憧憬、恐怖、期待。仁は、己にこれほどまで溢れんばかりの感情があることを、初めて知った。震えるほどの感情の波に飲まれる経験は、生まれて初めてだった。
その人の姿を目に焼き付けた仁は、そこから時間が経つことを己に否定した。このままでいられたら、どれほど幸福だろうか。
仁は、感情の渦に飲み込まれて行く。それは、彼にとって極上のひと時であった。
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