第7話 過去
あれから悶々とした日々を過ごしていたハナ、
ただ気になっていたのは、やはりダイさんのその言葉……
「知ってたな?」
って、どういうこと?
心当たりは無いけど、一つだけ、もしかしたらと思いついた。
それは、アタシの出生か、記憶をなくしている幼少期の事……
そう、アタシには6歳位までの記憶が綺麗さっぱり無い。
10年前だし、小さい頃の記憶は失われるものと思っていたけど、
3歳位までならいざ知らず、6歳までを覚えてないのは、やはりおかしい。
それに、その頃はお父さんが行方不明になった時期に一致する……
お婆ちゃん曰く、お父さんは騎士だったと、
10年前の遠征で行方不明になったきりだと聞かされてきた。
当時の仲間や、真実を知る人達がいるとしたら?
それがリコさん達だったとするならば、
ダイさんの言葉に合点がいく……
でも、なんの脈略もない話だし、
いきなり「アタシの過去を知ってますか?」
なんて、聞けるわけもない。
アタシは気まずいまんまも嫌だったけど、
リコさん達にまた会いに行ける口実を探していた……
そんなあくる日の学校で、
教官「え~、来月、野外訓練を行います。
皆さん、マスターギルドで仮免許の申請をしておいてください」
(え、野外訓練?なにそれ……聞いてない~)
※正しくはハナが聞き逃していた。
【野外訓練】とは、
王都に仮免許申請している冒険者見習いでパーティを組み、
数日間、城外で活動をするという、実戦訓練である。
もちろん出現したとしても低級の魔物しか出ないような場所なのだが、
”擦り傷程度しか癒せない治癒師”として参加するハナの重圧は底知れない。
(こ、これは大問題だぁ~)
相談するなら、やっぱりリコさん達しかいない……
次の週末、意を決してリコさんのギルドハウスを訪れた……
ノックをして、出迎えてくれたのはリコさんだった、
しかし、次の瞬間!
ムギュゥ~~っと
思い切り抱きしめられた。
(当然、顔は真っ赤である)
「ハナちゃん!ごめんね、ごめんね!」
何度も謝るリコさん。
「り、リコさん……大丈夫です……それより放して……」
窒息しそうだった。
「あぁっ!ごめんね」
パッとハグを解くリコ。
ゴホッ……ゴホッ……
咳き込むアタシの背を撫でてくれるリコさん。
本当に優しい人だ……
落ち着いてから席に座り、温かい紅茶を淹れてくれて、やっと話ができそう。
「それで……今日はどうしたの?」
なんとなくアタシの雰囲気が違うことを察しているようだった。
「えっと……学校で来月、野外訓練があるんです……」
本業の冒険者さんに相談するには、場違いすぎて恥ずかしい。
「野外訓練か~懐かしいなぁ~~、私も訓練学校卒なの」
ちょっと遠い目をするリコさん、
きっと、当時の出来事を思い浮かべているんだろう……
「それと……その……ダイさんが言ってた”知ってたのか?”って言葉……」
切り出そうか迷ったけど、今はリコさん一人だったみたいだから、思い切った!
やっぱりそう来たかぁっていう顔をするリコ、
「そうだね……ハナちゃんには言わないとだよね……」
神妙な面持ちになるリコ……
「ちょっとだけ長い話になるけど、聞いてね。
私たちは、ある人の想いを受け継いでギルドを立ち上げたの。
その人の名は”オズ・ネーデルハイド”
そう……ハナちゃん、あなたのお父さんね」
「え?!」
「当時、王立騎士団の騎士団長だったオズ隊長が、独自に選抜して編成したのが
”騎士団長近衛騎士団”だったの、私もダイもそのメンバーだった。
私は訓練学校の一兵卒だったのに、何故か誘われて入っただけなんだけど、
オズナイツなんて言われてもいたわ。
ナイツ結成からメンバーとも大分打ち解けてこれた頃、
あの事件が起こった。皆が知る”魔族の大進行”よ。」
ハナは色々と驚きを隠しきれなかった。
お父さんが騎士だったことは知っていても”騎士団長だった”とは聞いていない。
「そして、あの悲劇が起こった……
敵も味方もかなりの数で、乱戦になってたわ、
そしてついに、魔族のリーダーとオズ隊長が一騎打ちの場面が来たの。
私やダイは目の前の魔物に必死で、あまり見てなかったんだけど……
魔族の力は絶大なもので、かの騎士団長でさえ、窮地に追いやられてしまった……
でも、その時に形成を逆転する者が現れた」
(現れた??)
「それがあなた、ハナちゃんよ」
「え?」
何を言われているのか解らない。
「ここからは私の憶測だけど、窮地に追いやられた隊長を察知して
ハナちゃんは父親のピンチを救いに来た、多分、それだけの事だったと思うの、
突如、上空に光と共に現れた若干6歳の少女が
高出力の神聖魔法で辺り一面の魔物を一瞬で排除してしまったの。
残るは魔族のリーダーだけとなった時……
悟った魔族は隊長を巻き添えにして、闇に逃げてしまった……
ハナちゃんは魔法力の限界なのか、すぐにまた消えてしまったわ、
これが、私の知る限りで、あの時に起こったことなの……」
「それ……本当にアタシの話なんですか?」
(高出力の神聖魔法って……、擦り傷しか治せませんけど……)
「話したことは本当よ……黙っててごめんね……」
その”ごめんね”はお父さんについて知っているのに言わなかった事も含まれている。
そう感じてしまったハナには、もう、なにも言い返すことなんてない。
「いいえ、ありがとうございます。リコさん」
この人がお父さんの最期を知る一人で良かったと、心から思った。
「ところで私、すんごい魔法使ってるみたいですけど、
今、擦り傷しか治せませんけど……」
「え?!!! うそっ?!」
リコさんの目が点になった顔は、後世忘れることはないだろう。
続く。
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