港街シャルムーズ 花売姫綺譚

その一、デラルト、船を迎えるの事

　よこらせっと。

　おっと、すまねぇな。今日はちょっと波が荒れてるな。接岸も難しかったろ。

　岸壁から見てたんだが、お前さんたちなかなかいい腕してるじゃねぇか。

　当然だろ？　月に何隻の船を家捜ししてると思ってるんだよ？

　船の痛み具合や接岸の手際で大抵はわかるぜ。腕の良い船乗りが乗ってる船は見れば判るんだ。

　おうよ！　そいじゃあとで一杯やろうぜ。丘に上がったらいい飲み屋教えてやっからよ。検閲が終わるまでちぃっと辛抱してくれな。

　さて船長！

　早く上陸して一杯やりたいだろうが、今少し辛抱してくれ！

　俺はパルフィア王国、王都シャルムーズ港湾部外国船区画出入国税関の上級検閲官のデラルト＝キニキスだ。

　上陸の際の諸手続きのためにやってきた。

　よろしく頼むぜ。

　それじゃ、ここでの上陸前の決まり事を済ませちまおうぜ。

　まずは船長は、書類一式頼むぜ。船舶登録に船員名簿、出港地での積み荷の通関証明だ。

　それから航海長は航路記録だ。

　船医は――いるな？　医療行為の記録があればそれも出してくれ。

　まずは確認だ。

　登録船名は〝征濤丸〟、船籍登録国は〝エントラタ〟

　ほう？　お前さんがた、えらい遠いところから来たんだな。東の最果てじゃねぇか！

　外国船籍ということは通訳も乗ってるんだろ？

　おう、アンタか。服装が他の船乗りと違うな？　もしかして学者か学生か？

　よく通訳や航海士を兼ねて乗るやつが居るんだが、お前さんもその口だろう？

　念の為、書類に追加記載する。名前は？

――マミヤ・マシュウ――

　雇われでも学生でも、通訳は他の船員と同じように扱われる。後でみんなと一緒に説明を聞いてくれ、いいな？

　よし、ではまた後でな。

　積み荷名目は〝商業用商品〟

　あー、あれか、目的地で商談結果に応じて、その都度変わるってやつだな？

　書類上はコレで構わないが、一応、積荷そのものを目視確認させてもらうぞ？　別途詳細資料があれば出してくれ！

　それと、火薬を含む武器兵器類、麻薬を含む医療用薬物、課税対象となる高級品や酒類は必ず申告してくれ。農作物は積み荷以外にも個人の物も審査対象となる。幾つかの動植物は我が国の自然環境に影響を与えるから発見次第に没収焼却処分となる。

　これに関しては一切例外は認めないし損失補償も行わない。全ての船舶に課している規定だからな。貿易協定の結ばれている諸外国にも通達済みだ。

　出港地のお役人から聞いてるだろ？

　わかっていればいい。規定を守るなら我が国の港は君たちを歓迎する！

　それと人間以外の生きてる生き物は乗せてないか？　居ないな？　すまないが生きている鳥と犬は原則として出港地の証明がないと上陸ができない決まりになっている。以前に鳥と犬が原因で流行病が出てからの慣例だからな。

　書類はコレで良しとあとは――

　よーし、全員出て来たな？　頭数は揃ってるな？

　ダバスは書類の確認、アッシュは２名ほど連れて名簿と船員の照らしあわせ頼む。他は積み荷と船内の確認だ。よし行け！　

　それじゃ、船員たちを全員集めてくれ！

　シャルム－ズ税関名物の名乗り口上を始めるぞ！