第60話 パーティー結成

「父さんが災害龍の材料になったってことか?」

「そうなる」

「……」


 リグは顎に手を当てて黙った。色々と思うところがあるらしい。

 俺からかけられる言葉はそう多くはないが……でも、リグの気持ちは分かる気がした。


「まだ生きているかもしれない。俺はシルヴァを助けようと思うけど――リグはどう思う?」

「……どう思うか、か。重傷の身体に鞭打ってここに来たのも、僕は父さんと話したかったからだ。今まで、父さんを喜ばせるために色々やってきたけれど……結局俺は父さんに疎まれていたと知ったからな。それでも、もう一度本心を聞いてみたかった」

「……」


 リグの気持ちは痛いほど理解できた。俺も家族に認められるために頑張って実力をつけて来たのだが……。結局、俺も追放されてしまった。

 それが悲しいんだか、割り切るいい機会になったんだか、今でも分からないけど。それでも、あの時は心が空しくなったことを覚えている。


「でも、結局父さんを分かることは無理だとも思ったが」

「無理じゃないと思うけどな」

「――お前に何が分かるんだ?」


 リグの鋭い視線が俺を貫いた。完璧にリグの気持ちを理解することはできない。でも、やっぱり俺とリグは似ていると思った。


「俺も……親父に縁を切られたからな。キリア・フォン・アルファルド。それが、俺の本名だ。みんなには秘密だけど……」

「……!」


 リグが静かに目を見開いた。そこに、俺がオメガニアに連なるものであるという驚き以上のものがあった気もするけれど、子細は分からなかった。


「そうか。お前が」

「……?」

「いや。僕の話だ。気にするな」

「俺も、親父には家族の縁を切られたけど、まだ諦めちゃいない。それに、シルヴァを助けることが雷龍を倒すことに繋がると、俺は考えてる」

「……どういうことだ?」


 俺は話した。

 雷龍を構成しているのは龍の心臓とシルヴァだ。首を落としても、龍は絶命せずに復活したことからも、多くの外傷は既に何の意味もないことだって分かる。

 だとすれば、コアとなる心臓とシルヴァ。そのどちらか、あるいは両方を龍から剥奪することで雷龍を打ち倒すことができるのではないかということを。


「だが、どうやってそれを雷龍から奪う?」

「クシフォスだ」

「ワイルドハントのガキか……。雷龍そのものを破壊することはできないが、龍の心臓や、その接続部なら断ち切れる……ということか?」

「ああ、恐らく」

「……面白い。乗ってやる。その作戦にな」


 リグは一つ頷いて、不敵に笑った。

 強力な仲間ができたところで、この体内から逃げる必要がある。さて、転移魔法で逃げるか? それとも、置換魔法で何かと置換するか?

 なんて俺が策を張り巡らせていると、そんな俺を嘲笑うようにリグが大剣を引き抜いた。


「ん……?」

「なんだ、魔法の小細工で腹から逃げるつもりだったのか? 甘い。甘すぎるな。僕を丸呑みしたことを龍には後悔して貰わないとな」


 そう自信満々な表情で大剣を目一杯振りさげれば、凄まじい風圧と共に壁に亀裂が走った。


「クラノスでもできたんだ。僕でもできるだろ」


 納得できるようでできない理屈を引っさげつつ、リグはそのまま何度も何度も剣を振り続けた。流石の雷龍も内部からの攻撃には弱いのか、およそ十回ほどの斬撃をリグが放ったところで、身体が崩れ光が見えた。


「行くぞ」


 俺の首元を引っ掴んで、リグは飛んだ。

 飛び出した瞬間、雷龍の姿を見て驚いた。雷龍は既に骸骨ではなく、肉を持った魔物になっていたのだ。

 その勇ましさや雄姿は在りし日の姿を俺たちに思い出させる。


「……ほう、肉がついているじゃないか」


 着地して、リグは雷龍を見上げてそう言った。


「メイム、それにリグも。やっぱ生きてたか!」


 俺たちの元に駆け寄って、クラノスが豪快に笑った。その後ろから、サクラとクシフォスも姿を見せる。

 感動的な再会というような雰囲気だけど、今はそんなことをしている場合じゃない。俺は今し方リグにした作戦を三人にも伝えた。その間にも、雷龍の攻撃が降り注ぐので適宜クラノスやリグに守って貰いつつ……。


「なるほどな。クシフォス、できそうか?」

「うん。多分。場所さえ分かれば」

「弱点を露出するわけもないから、多分雷龍自身が弱点を隠してると思う。だから俺たちの攻撃でまず弱点を露出させる」

「で、それが出てきたらクシフォスにぶった切って貰うってわけだなッ!」


 クラノスの言葉に俺は首を縦に振ることで返事をした。


「よっしゃー。やること決まったら、分かりやすくていいなっ!」

「まぁ、僕とクラノスが基本的な火力役らしい。足を引っ張るなよ?」

「こっちの台詞だ。バカが」


 バチバチと火花を散らす二人を尻目に、俺はサクラにも大切な役割を指示する。


「サクラはクシフォスがタイミングや攻撃に集中できるように護衛をお願いできるか?」

「は、はいっ! 任せてください!」

「俺はクラノスとリグのサポートに専念する」


 持ってきた道具を準備して、俺たちは構えた。

 戦闘にクラノスとリグ。中陣を俺が一人で担当して後衛にサクラとクシフォス。即席パーティーも随分と様になってきたように思う。


「よし、じゃあ……やるか!」


 本番の火蓋が切って降ろされた。

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