第一話 下ネタという概念しか存在しない低俗な高校
四月初旬。俺は着慣れない学ランに身を包み、見慣れない校門の前に一人立っていた。
花団高校。それがこれから三年間お世話になる高校の名前だ。
県唯一の男子校であり、偏差値も…確かそこそこまあまあ高かったはず。
本当は幼馴染の楽と仲良く公立高校に行く予定だったのだが…あと一歩俺の頭が足りず、滑り止めで受けていたこの花団高校へ入ることになった。
だがまあ、元々「楽が受けるなら俺も受けようかなー」と軽い気持ちで受験した高校だったので、そこまで未練はなかった。
そういえば「高校生活は人生の絶頂期だけど、最初に躓くと三年間地獄になるから覚悟しな」と目の死んだ姉が言っていたな。
……なんだか少し緊張してきた。
誰も知り合いのいない空間で、俺は上手くやれるのだろうか。
友達百人とは言わないので、せめて恋を応援してくれるような優しい友人が一人欲しいところだ。
まあ、別に好きな人いないんですけど。
そんなことを校門の前で考えていると、撮影会が終了したのか、撮影会を開いていた生徒たちが玄関口前へと移動していた。
玄関口でも撮影会をされては大変困るため、俺は少し急ぎ足で教室へと向かうのだった。
一年B組と書かれたプレートのぶら下がる教室の前で、俺は少しだけ躊躇していた。
クラスになじめなかったらどうしよう。やばい奴に絡まれたらどうしよう。ペンを指の間に挟んで「ウ〇ヴァリン!」とかやっているやつがいたらどうしよう。
高校生活を楽しく過ごすための第一歩。ここは慎重に行かなければ…。
俺は軽く深呼吸すると、ゆっくりと教室の扉を開く。
『エロ本と端的に言うがその世界はとても広く広大なものだ。例えば足フェチと一口に言うがその実くるぶしフェチ足の指フェチ匂いフェチマニキュアフェチと多岐に別れ…』
『あぁあ良い!そのロリガキが××××に〇〇〇〇〇〇〇されるシーンとか最高だよ!』
『ウルヴァ〇ン!』
俺は軽く深呼吸をすると、ゆっくりと教室の扉を閉める。
…何だ今のは?
俺は額に手を当て今見た光景の解明に思考を巡らす。
とてもじゃないが、中学から上がったばかりの連中とは思えない光景だった…。というか本当にウル〇ァリンがいた気が…。
いや、きっと緊張のせいで見間違えてしまっただけだろう。
そうに違いない。というかそうであってくれ。
俺は先程の光景を忘れ、再度深呼吸をする。
そしてゆっくりと教室の扉を開いた。
『やぁ、君もその本を読むんだね。なら僕たちはとっても気が合うのかもしれないね』
『この前甥と遊んだけど、やっぱり小さい子は元気がよくて良いよね』
『〇ルヴァリーン!』
おや?どうやら本当に見間違いだったようだ。
皆礼儀正しく友人作りに励んでいる。教室のどこにも猥談をしている不埒な輩はいない。
ウルヴァリ〇はやはりいたような気がするが、きっと気のせいだろう。
安心した俺は意気揚々と教室に入る。
黒板に貼ってある席順を確かめ、自分の席へと向かった。
真後ろから二番目の窓から三番目。将棋で言う3の二だ。
俺は席へと座り緊張と腰を落ち着かせる。
大丈夫、きっと馴染めるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、また深呼吸をした。
何回か深呼吸をして緊張をほぐしきった俺は、まずは一人クラスに友人を作るため、席を立とうと僅かに腰を浮かせた。
だがそんな時、後ろの方からこんな会話が聞こえてきた。
「い、嫌だ!ぼ、吾輩は男だ!無礼だ無礼だー!」
「貴様みたいなのが男なわけあるか!いいから○んこを見せろ!」
「そ、そそそそんな恥ずかしい事、僕できない!」
「ぼ、僕っ子だと!これは売れる!いいから私と手を組もうじゃあないか、写真集の取り分は半々でどうだ?」
少年の様な可愛らしい声と低いくずの様な声による喧嘩の声だ。
俺は嫌な予感がするものの、好奇心には勝てず恐る恐る後ろを見る。
するとそこには、涙目でズボンを必死に抑える白髪童顔の男の子と、鬼の形相でズボンを下そうとする黒髪ショートの男がいた。
白髪童顔の少年はタレ目を涙で濡らし、マントのようなものをバタバタさせながら必死にズボンを押さえている。
それに対し目つきの悪い黒髪ショートの男は長い身長を折り曲げ、煌びやかな指輪をはめた手で必死にズボンを下ろそうとしていた。
……ふと、姉の言葉が脳裏に浮かびあがる。
「最初に躓くと三年間地獄になるから覚悟しな」
なるほど。
姉が言っていたのは、初日に仲良くなる人物はよく選べよという事に違いない。
ならばここは姉の忠告に従い、この場から静かに逃げ出すことが賢明——
「あーあーそこの!そこのお前!助けろ!助けろください!」
「あぁ?貴様、まさか私の商売の邪魔をする気か?」
——すみませんお姉さま。どうやら俺は、平穏な高校生活を送れないようです。
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