内臓の夢

こんな夢をみた。


私の目の前に居る彼は、彼自身の内面について語り続けていた。自身の外側の世界でなく、内側の世界に興味があるのだという。


私はそれを聞いて思った。彼が物憂げな表情を見せるときはいつも、彼はその胃や腸について思案していたのか、と。私だって時々はそうやって自身の内臓に思いを巡らすが、あまり考え過ぎるとその生々しさに気分が悪くなり、すぐに考えを止める。だから私は自分というものに程々にしか向き合わない。


もし私が自分の内臓に向き合うことがあるとすれば、それが痛みを発しているときだ。そう考えると、彼の胃とか腸というのは元からあまり具合が良くないのかもしれい、と思った。


彼がいつも物思いに耽るのは、その腹の痛みのせいだったのか。慢性的な腹痛。生まれついての体質。まさに気の毒としか言いようがない。彼の痛みを思うと、私は胃腸の仕組みを知ろうとは思わないまでも、その痛みを抑える方法について興味をもった。


私の経験から言えば、痛みというものは意識すれば意識するほどその強度を増す。したがって根源的な治療法がない限りは、患部から意識をそらすことが一つの対症療法となるものだ。彼の内面には溢れんばかりの痛みがあるのだ。彼の外に痛みがあれば、彼が持たない器官が痛めば、彼の内面の痛みは多少は和らぐのかもしれない、と私は思った。


私は彼に向かってこう言う。「私は胸が痛いのです。あなたが持たない私の胸です。あなたが私の胸について考えない時、私の胸は痛くなります」


彼の痛みは少しは和らいだだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る