ホムンクルスの夢

こんな夢をみた


20xx年、内閣法が改正され、日本の総理大臣の職に就いたものは、24時間365日、国民幸福スーツを身につけることが義務化された。


この法改正の機運を作ったのは、いうまでもなく、いまや日本国民のほとんどが装着しているスマートグラスの普及にある。


スマートグラスは、脳波計測から得られた装着者の幸福度/不幸度を毎秒単位でサーバに送信してくれる。それらの情報は、国民幸福スーツという一種の全身タイツにマッピングされ、総理の皮膚下のマイスナー小体といった神経細胞を刺激する。


この仕組みにより、例えば農業の不作などによって北海道に住む国民の不幸度が高まると、総理は頭痛に襲われることとなり、中四国に住む国民の幸福度が高まると、総理の膝はくすぐったく歩いていられなくなる、といったこととなる。


頭痛に参った総理は、北海道経済の振興施策を光の速さで打ち出す一方、うどん屋が出す排水は公害問題だとして、厳しい規制が敷かれることとなった。


ある時どこかで自然災害が起こった際には、総理はとても苦しそうな表情で記者会見に臨み、閣議では怒声を飛ばして閣僚や官僚を災害対策に走らせた。


政治のスピード感は人類史上かつてなく高まり、国民の幸福に直接的に繋がらない無駄な政策が無意味に続けられることも無くなった。総理の訴える各地域の窮状は、どんな国会議員よりも、説得力があった。


それからしばらく経ち、大きな自然災害も起こらず全国的な不幸度が低下し始めた頃だった。国民は、総理が最近始めた近畿地方に対する過剰な優遇施策に、疑念を抱き始めた。そのころ、報道番組に映る総理の顔は、どこか、だらしなく見えた。


国民幸福スーツの仕様が何者かによってリークされ、近畿地方が総理の下腹部に対応していることを知った多くの国民は、なるほど納得と言わんばかりに、近畿地方に移住を始めた。


あっという間に近畿地方の人口密度は跳ね上がり、様々な公害や事故、事件といった弊害が生じ始めた。近畿地方に住む国民の幸福度はみるみる低下、不幸度は日々上昇していく。しかしそれでも、総理はなかなか近畿地方の惨状を改善しようとはしない。


内閣法の改正時、マゾヒストが総理になるなんて、誰が想像しただろうか。

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