第41ワ シルビアの目を掻い潜って。
魔王達はまるで嵐が去った跡のようなセパールの街を行く。
先頭を剣聖、その直ぐ後におっさん、さらにその後方に魔王とバドラが並び、おっさんを中心に挟むような形で歩を進める四人。
「あのー」
振り返りそう声を掛ける剣聖。
「なんだ?」
「勇者の母君に見つからないようにと言うのはまだしも、グリンデートの騎士からも出来るだけ避けよと言うのは無理があるのでは?」
「いいから言われた通り、あの女の警戒だけしてればいいんだよ!」
そう怒鳴られた剣聖であったが、空を見上げ憂いを話す。
「しかし、こうして騎士の目を気にして回り道をしていては、いつたどり着ける分かりませんよ?」
剣聖にそう言われると、少し考えるような素振りを見せるおっさん。
「それに、街を出るなら一度は大通りを通らなねばいけません」
「……分かった。騎士の方は妥協してやる」
「……(妥協してやるって、別に私はどうでもいいのだが。何故この男はこんなにも偉そうなんだ!)」
「ただ、一つ条件がある。若そうな騎士だったら構わないが、それ以外は出来るだけ避けてくれ」
「若いとはいったいどのくらいの? それにその様に変装されているのなら、あなただとは気付かないのでは?」
布を頭から被り、顔がはっきりと見えないように口元を布で覆い、さらに何処からか持ってきたかも知れないリュックまで背負い、旅商人のように扮しているおっさん。
「……あー、もう分かった。面倒くせえ、騎士の方はいい、ただあの女が視界に入ったらすぐさま俺に知らせろよ?」
「心得ました……(面倒くさいのはこっちの方だ!)」
「お前もだぞ!」
おっさんは振り返ると、後ろの魔王にもそう語気を強めて言い放った。
「お、おお」
◇
あれから四人は、時折騎士とは擦れ違がいながらも、シルビアとは遭遇せず、順調に歩を進めていた。そんな折、バドラは隣を歩く魔族の男に声を掛ける。
「あのー、魔……マオ様」
「なんだ?」
「私が気を失っていた間に何があったのでしょうか?」
そう言いながら、通りを進むバドラの視界には、アンデットの残骸が通り過ぎて行く。
「……まあ、なんだ。時が来たら話そう」
「そうですか。分かりました……」
心なしか肩を落とす素振りを見せたバドラを尻目に、魔王の視線はおっさんの背中を凝視していた。
魔王には疑問に思う事があった。
それは、何故おっさんが勇者の母親から逃げる様な素振りを見せているのか、そして逃げるならさっさと逃げればいいものの、わざわざ徒歩と言う手段を使っている点だ。
おっさんほどの力を持っていれば、街の外に出るのくらいは容易いはずなのである。
魔王はこのもやもやを解決すべく、前を歩く男に言葉を投げかける。
「一つ聞いてもいいか?」
「ダメだ。お前はしっかり警戒してろ」
振り返りもせず、そう即答されると魔王の疑問は一瞬で闇に葬りさられた。
「……分かった(うっぜぇ! こっちは貴様の我儘に付き合ってやってる身だと言うのに、訳ぐらい聞いてもいいではないか!)」
◇
現在四人は、見通しのいい大通りの脇で物陰に隠れている。
この、大通りを抜ければ後は街外れまで人目に付きやすい通りはない。
先頭で通りの様子を窺っていた剣聖は、おっさんに腕を叩かれ振り返る。
「どうだ、大丈夫そうか?」
「はい、騎士の方はちらほらと見受けられますが……あの女性は見当たりませんね」
「よし、じゃあ早歩きで抜けるぞ。お前はちゃんと後方を警戒しておけよ?」
「……」
振り返りそう告げられた魔王は、おっさんの視線から顔をそっぽに向け不満げな顔を見せた。
「なんだ、その不服そうな顔は?」
「いや、なんでも(そりゃ、不服にもなるは。訳すら話さない男に、何故魔王である我が従わなくてはならんのだ)」
「そうか、ならいくぞ」
四人は、通りの騎士から不思議そうな視線を向けられながらも大通りを進む。
おっさんは誰とも視線を合わさぬよう俯いていた。
すると、突然おっさんの視界には前を歩く剣聖の足が止まったのが映る。
「おい、どうした?」
「騎士が一人こちらに向かってくるのですが、どうします?」
おっさんは顔を上げ、前方を確認した。
すると、彼の視界にはバックスが歩いてくるのが映った。
「ああ、アレなら大丈夫だろう。多分俺の顔を見ても分からねぇはずだ」
おっさんの言葉に剣聖は不思議そうに眉を動かす。
「まあ、俺の事を聞かれたら旅商人とでも言っとけば納得するはずだ」
「分かりました」
剣聖はおっさんがそう言うので、とりあえず了解した。
バックスはそんな彼らの前まで来ると誇らしげに両腕を広げる。
「どうですか? 道中アンデットはご覧になりましたか?」
「いや、確かに鎮圧されたようだ。改めて礼を言おう」
「いえいえ、それよりシルビア様をお見かけしませんでしたか?」
「いや、見てないな」
剣聖にそう答えられ、「そうですか……」と困ったように鼻から息を吐いたバックスであったが、彼の後で俯き如何にも怪しい人物が目に入ると、その人物を確認しようと身を乗り出す。
「おや、そちらの御仁は?」
「あっ、ああ、こちらは旅商人の方で現在護送している最中なんだ」
「そうでしたか。しかし、困りました。シルビア様はいったいどこに……」
◇
バックスと別れた後四人は、裏路地を駆使して出来るだけ人目に付かぬよう街外れまで歩を進めていた。
「あそこの関所を抜ければ街の外に出られます」
路地に身を隠しながら指をさす剣聖はおっさんにそう言った。
「見たところ人気もないようですし、我々はここまででよいでしょうか?」
「ああ、助かった」
これで解放されたと誰もが気を抜き、おっさんが足を踏み出そうとしたその時、
「あら?」
突然の女性の声におっさんはピクリと動きを止め、振り返った魔王の目にはシルビアが映った。
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