第19ワ 最後の四天王。
「私に話って、何かしら?」
「その、お願いがありまして」
「お願い?」
「はい」
勇者は、さっきエノに話した訳の分からない理由を、凄く真剣に話すと玉座に座る許可を求めた。
「そう言う訳で、許可を貰えないでしょか?」
「………シュティ、私、まだ脳みそが寝てるみたいだは。この男が何を言ったのか翻訳してくれないかしら?」
「ごめんなさい。私にもこれは、翻訳出来ないは」
勇者は真剣だった。そして的外れな事を質問する。
「あれ? 僕の言語って魔族と違ったりします?………でも、今までは通じてましたよね?」
と、そこまで黙って話を聞いていたエノが、何とも言えない表情を向け勇者の質問に答える。
「レイ。君はもう、喋らないほうがいいかもしれない」
「どうしてだよ? これは大事な話なんだぞ?」
イリスは可怪しくなりそうな頭を必死に納得させ、問う。
「あの、まさかとは思うけど、その話をするために、わざわざ私を起こした訳じゃないわよね?」
「へ? そうですけど」
「そう」
イリスは笑顔だった。彼女は魔法を使おうと魔法陣を展開させる。彼女を中心に、魔法陣が床に浮かび上がると、勇者の身体に標準を合わせ両手を伸ばす。
「あ、あれイリスさんその魔法陣は?」
目の前の男が何か言っているが、そんな事はどうでもいい。
とりあえずコイツに一撃喰らわせなければ気が済まない。
しかし、イリスはすぐ隣にいる友人からただならぬ雰囲気を感じそちらに顔を向ける。
「あの、レイさん。一つお伺いしますが、急な用とはそのお話のことですか?」
「はい。そうですが?」
室内が揺れだした。
「ん? 地震か?」
辺りを見回し、そんな脳天気なことを言っている勇者に、シュティは腕を伸ばす。
『
すると勇者の首を取り囲むように無数のナイフが切っ先を首に向けて展開された。
「あ、あの、シュティさん。こ、これはいったい?」
「レイさん。今から二つ選択肢を与えるのでどちらか選んでください」
「な、なんでしょう?」
「一つ、今ここで首を串刺しにされるか。二つ、一度外に出て中庭で消し炭になるか。さあ、どちらか好きな方を選んでいいですよ」
「あ、あのシュティさん」
「なんでしょう?」
「どちらを選んでも、僕の生存ルートが存在しないんですが?」
勇者は近くにいるエノに目で助けを求めるが、エノは初めて見る魔族の魔法に興味津々で目を輝かせている。
「さあ、早く選んでください」
「そ、それじゃあ、三つ目の許して貰うでお願いします」
切っ先が首筋に触れる。
「ちょ、ちょっと待って! これじゃあ首が黒ひげ危機一髪になっちゃう!」
「安心してください。頭は飛ばないので」
「別の意味で飛んじゃう!」
──勇者が魔王城で串刺しの危機に陥っている中、魔王城から北に位置するとある城では、二人の魔族が別名『土の魔将』と言われている四天王を訪ねていた。
「ヴァイアス、久しぶりだな」
「はい。魔王様、お久しぶりです。で、今日はどういったご用件で?」
「実は……」
魔王は自分の城で起きた出来事を話した。
「そう言う訳なんだが、お前の領地でも何か変わった事は無いか?」
「そうですね……」
そう言うとヴァイアスは、顎に手を当て考える素振りを見せる。しかし、魔王はその姿を見て不信感を抱く。
と、言うのもヴァイアスには表情が無い。
目はどこか遠くを見ている様で、常に真顔なので何を考えているのか分からない。
そして姿を見れば浅黒い肌に、きらびやかな白い服、どこかの民族衣装ぽい。
服装だけ見れば明るいイメージなのだが、顔の表情と合わさるとなんとも不気味な雰囲気だ。
この性別不明の人物が魔王は若干苦手である。
「申し訳ございません。魔王様のお役に立てる様な情報は存じ上げません」
「そうか……」
わざわざヴァイアスの所まで来たが、一向に手掛かりすら掴めない。
すでに、城を出て三日は経っている。早く戻らないとイリスに何を言われるか分からない。
と、そんな事を考えているとヴァイアスの方から声が掛かる。
「そういえば……」
「ん? どうかしたか?」
「最近、とある人間の国が何者かによって滅ぼされたと、風の噂で聞いたことがあります。詳しい詳細は存じ上げませんが、どうでしょう? 何か関係ありそうですか?」
「滅ぼされたとはどういう事だ? それに『何者かに』とは、まさか一個人にやられたのか?」
「申し訳ございません。詳しくは」
情報が無さすぎる。しかし、何か手掛かりを掴めるかもしれない。そう思った魔王はヴァイアスに訊いた。
「そうか、その人間の国とはどこだ?」
「私の領地から西に進んだセパールと言う国です」
そう聞くと、魔王は後ろで話を聞いていたであろう密偵の少年に身体を向ける。
「ネロ、城に戻ってイリスに現状を報告して来てくれないか?」
「承知しました。魔王様はどうなさいますか?」
「我は、そのセパールとか言う人間の国に行ってみようと思う」
「お一人では危険ではないでしょか?」
「何言ってんだ、我はこれでも魔王なんだぞ?」
「しかし……」
と、そこで二人の会話を聞いていたヴァイアスが口を挟んだ。
「それでしたら私の部下を一人お貸ししましょうか?」
「それは助かる。これなら心配ないだろネロ?」
「……了解しました」
ネロの了解を取ると、魔王はヴァイアスに訊く。
「早速なんだが、そのセパールまでの地図を貰えないか?」
「承知いたしました。しかし、道中は部下に案内させますので地図は不要かと」
「そうか、それなら心配は無いな」
ヴァイアスは近くの下僕に声を掛ける。
「バドラさんを呼んできて貰えますか?」
「畏まりました」
ネロは、早速報告に戻ろうと別れの挨拶を魔王に告げる。
「それでは魔王様、僕はイリス様に報告して参ります」
「ああ、頼んだ」
「では、お気おつけて」
そう言って城を後にしようと、身体を部屋の出口に向けた。すろとヴァイアスが声を掛けた。
「ネロさん」
「はい、何でしょう?」
「コレをどうぞ」
ヴァイアスは小さい水晶の様な物を手のひらに乗せ、ネロに見せる。
「それは何ですか?」
「コレは、私の魔力を込めた魔導具です。万が一、何かあった時はこの魔導具が輝き、貴方を助けるでしょう」
「……そんな、貴重な物頂けないですよ」
ネロがそう言うと魔王はネロの肩にポンっと手を置いた。
「お前を心配してのことだ、受け取っておけ」
「ですが…」
「ネロ、こうゆう物はありがたく貰っておいても
「分かりました」
ネロはヴァイアスの元まで歩き答えた。
「ヴァイアス様、ありがとうございます。それでは頂きたいと思います」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」
きっと優しい笑顔で渡してくれたんだろう。しかし、表情が無いのでなんとも不気味だ。
正直に言うと、僕はヴァイアス様が苦手である。決して悪い人では無いと思うのだが、どうしても表情が無いせいで、不気味に感じてしまう。
「では、これで僕は失礼します」
ネロが部屋を出て暫くすると、ヴァイアスが呼んだ人物が姿を現す。
「魔王様、今回はこちらの者に、案内役を任せたいと思います」
「初めまして魔王様。バドラと申します」
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