第17ワ イリスを探して……。


 勇者とエノが魔王城に到着してから1日、彼等はシュティに客室を一室あてがわれ、そこで一泊した。

 

 エノは不気味な笑い声に目を覚ます。

 眠い瞼を擦り、枕元に置かれた時計に目を向ければ時計の針は7時を指している。

 

 こんなに朝早くからなんだ? そう思い声の主の方に顔を向けると、勇者が窓辺に置かれたベットの側に立ち、手を前に出し何かのポーズを取っている。

 そんな彼を確認すると、突然誰も居ない窓辺に向かって彼が声を発した。


「フハハハ! よく来たな魔王。どうやらここまで順調にたどり着いたみたいだが、貴様はここで俺に倒される運命なのだ!」


 それだけ言うと彼は腕組みをして「うーん」と、唸ったあと暫くの沈黙へて呟く。


「ちょっと違うなあ。もうちょっと声を低くしてテンション低めでいくか」


 そう呟くと「んっ、うん」と、喉の調子を確かめるように喉を鳴らし、ベットに足を組みながら座ると、頬杖をつき誰も居ない壁に向かって話しかけた。


「クックック。よく来たな魔王。ようこそ我が城へ。どうだ? 今から絶望に打ちひしがれる思いは?」


 エノはたまらず声をかける。


「レ、レイ、君は何をしてるの?」


 声の発生元に顔を向けると、エノが何とも言えない表情でベットの上でうずくまり、顔だけ出して毛布を被っている。


「ごめんごめん、起こしまったか」

「う、うん。そんな事より何をしてるのレイは?」


 エノにそう訊かれた勇者は、恥ずかしそうに頭をかき話しだす。


「いやー、ほら俺っていつも挑む側じゃん?」

「ん?、うん……?」

「でも、今回は魔王が魔王城に来る側だから、俺も挑まられる側のセリフ用意しておかなきゃと思ってさ」

「?????」


 何を言っているんだこの男は? そんな事を思い、顔を歪ませているエノを余所目に、勇者は思い出したかのように口を開いた。


「あっ、そうだそうだ。イリスさんに話しておかないと」


 そう独り言を言うと、部屋の出口に向かいドアノブに手を掛ける。そして顔だけ部屋の中の方に向けてるとエノに声をかけた。


「エノ、悪いんだけどちょっと用事があるから、留守番しといてくれ」


それだけ言うと勇者は、エノの答えを待たずにドアを『バタン!』と閉め部屋を出ていった。


 勇者は長い廊下を進み、昨日イリスとシュティがいた部屋の前までくると軽くノックをした。


「すいませーん、イリスさんお話があります」

『…………』


 応答がない。

 勇者はそれから暫く反応を待ったが、一向に室内からは反応が無い。

 そんな様子に痺れを切らし、今度はさっきよりも強めにノックをした。


「すいませーん! お話があるんですけど!」

『…………』


 尚も室内からは反応が無い様子に、勇者は悪いとは思いつつドアノブに手をかける。


「すいませーん、開けますよー?」


 そう言うと室内からの反応を待たずに勇者は扉を開けた。


「失礼しまっ」


 勇者は室内に入り中を見渡したが、そこにはイリスは疎か人の気配すら感じられず、ただ静寂のみが存在していた。


 どうやらこの部屋には居ないらしい。

 そう思った勇者は部屋を出て別の部屋を目指す。


 暫く歩き、お目当ての部屋を目指していた勇者だが、城内が広いのと、いくつもある部屋の扉の数に、今自分がどの辺にいるのか分からなくなってしまっていた。


「まずい……完全に迷った。……魔王が帰ってくる前にイリスにさんに了承して貰わないといけないのに」


 そんな独り言呟き、曲がりくねった廊下を進んでいると、ある一つの部屋から物音が聞こえ足を止めた。


 どうやら中に誰かいるみたいだ。

 ちょうどよかった、中の人に聞こう。そう思った勇者は物音が聞こえた部屋をノックした。


「すいませーん、少しお伺いしたいのですが」

『…………』


 反応が無い。この部屋じゃない? そう思い別の部屋をノックしようとしたところ、室内から物音が聞こえ扉が開かれた。


「うーん、何か問題でもありましたか?」


 そう言って扉を開けた人物を見ると、寝癖が付いた長いえんじ色の髪色をした女性が眠そうに立っていた。


「ああ、すいません。大広間まで行く道を聞きたいのですが」

「大広間?…………!」


 俺の言葉を聞いたその女性は眠そうな瞼を擦り、俺の事をじっと観察した後、驚いた様子で口を開いた。


「な、なんであなたが私の部屋を!? なんの用ですか!」


 突然驚いた様子でそう言われた女性をよく観察して見ると、小さいネコのマークが沢山入った服を着ている。

 そして顔の方に目を向けると、寝癖が付いた髪に整った顔立ち………どこかで会ったことがあるような……


「もしかしてシュティさん?」

「そうですよ! 知らないでノックしたんですか!?」

「すいません。道を聞こうと思ってつい」


 そう聞くとシュティはため息を少し吐き、額に手を当てた。


「何ですかこんな朝早く?」

「あのー、イリスさんにお話があって、大広間にならいるんじゃないかと思って、探していたんですが、途中で迷ってしまいまして………」

「それで道を聞こうとノックしたと?」

「はい」


 シュティは深いため息を吐く。


「そもそもイリスは大広間には居ないですし、その話はそんなに急を要する事なんですか?」

「はい。魔王が帰ってくる前にイリスさんに了承して貰わないといけない事なんです」

「?…………」


 勇者の目的が分からない答えにシュティは顔をしかめたが、急を要するとの事なのでとりあえず勇者に一声かける。


「分かりました。少しそこで待っててください」

「?」


 そう言うと彼女は扉を閉めた。そう言われたので部屋の前で暫く待っていると、彼女が部屋から出てきた。


「お待たせしました」


 部屋から出てきた彼女を見ると、髪は綺麗に結ばれ普段のポニーテールになっていた。

 そして、服装はさっきのネコのパジャマから打って変わり、綺麗な赤色のドレスのような物を着ている。


「シュティさん、その格好は?」

「? イリスに会いに行くんじゃないんですか?」

「もしかして案内してくれるんですか?」

「ええ、不本意ですが急を要するとの事なのでの」

「ありがとうございます! 助かります」

「それじゃあ付いてきてください」


 そう言われたので勇者はシュティの後に続いて歩き出した。

 そんな道中シュティは突然止まると、勇者の方に振り返った。


「な、なんですか?」

「先程の格好ですけど、アレは忘れてください」

「は、はい? なんでですか?」

「いーから! 分かりましたか?」


 拒否したら怖そうなので勇者は了解した。


「わ、分かりました」

「そうですか、では行きましょうか」


 そう言って歩き出したシュティだが、直ぐに歩みを止めて勇者に振り返る。


「ま、まだ何か?」

「一つ言い忘れてましたが、寝起きのイリスは凄く機嫌が悪いので、あまり怒らせるようなことは言わないでくださいね?」

「は、はい。分かりました」


 そして勇者とシュティは、イリスの部屋を目指して歩き出した。

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