第4ワ 炎の魔将ザレン。


 魔王はいつものように玉座に座り、勇者が来るのを待っていた。

 すると、玉座から真正面に位置する扉が開き一人の人物が堂々と入ってくる。

 魔王は待ってました、と言わんばかりに席を立ったが、その扉を開けて入ってきた赤髪の男は勇者ではない。


「よう! 久しぶりだな。お前、どうやら勇者と相討ちになったらしいじゃねえか」

「何しに来た!」


 この魔王とも対等な口調で話す男は魔王軍四天王の一人『炎の魔将ザレン』。


「お前が勝てない相手がどんなやつなのか興味が湧いてな、話を聞きに来てやったんだよ」

「あれは別に相討ちになったのではない! なんというか……強制終了させられただけだ」

「あん? なに言ってんだお前?」

「事実を言ったまでだ」

「意味わかんねえこと言って、勝てなかっただけだろ?」


 と、そこへザレンの後ろの扉が開き魔王が本来待っていた人物が入ってくる。


「魔王! 勝負だ!……って先客がいたか」

「待っていたぞ勇者よ」

「へー、あいつが勇者か」


 ザレンは魔族からしたら普通の人間に見える勇者を見て魔王に嫌味を言った。


「お前こんなのに勝てなかったのか?」

「だからあれは違うと言っただろ!」

「お前がなんと言おうと勝てなかった事実には変わりねぇ……そうだなあ……俺が少し遊んでやるか……」

「おい! 何をする気だ!?」


 ザレンは魔王の言葉は無視し勇者の前に手を伸ばした。


炎 の 竜 巻ファイヤストーム


 彼がそう唱えると突然勇者の目の前に巨大な炎を纏った竜巻が現れ、轟音と伴に地面を削りながら勇者の方へ進んでいく。


「なっ! いきなり何すんだ!」


 突然の攻撃に勇者も剣を抜き、自分の胸の位置で平行に構え防御姿勢をとる。


聖なる盾ホワイージス


 そう唱えると炎を纏った竜巻は、勇者の1メートルほど先で、何かにぶつかったかのようにそれ以上進めなくなりその場で消滅した。


「ほう、今のを防ぐか。ならお次はこれでどうだ!」

「「おい! やめろ!」」


 勇者と魔王の声を無視し、腰にある大剣を抜きザレンはその場で10メートルほどまで飛び上がった。


「おらァ! くらいやがれ『地獄の炎の斬撃ファイヤインフェルノ』」


 地上に向かって剣を振った。すると剣の周囲からは巨大な炎の斬撃が無数に出現し空間を震わせ落下していく。


「くっ! 『精霊の盾セイイージス』」


 勇者は迫り来る巨大な炎の斬撃に対し、剣の切っ先を上空に向けた。すると白く光る結界のような物が出現し彼を守った。

 しかし、その範囲外では落下してくる炎の斬撃によって地面は粉々に破壊されていく。


「……!(なんて破壊力だ、あと一発でも当たっていたら盾が危なかった)」

「今のを防ぐとは一応勇者ってだけはあるな……でもな! 防戦だけじゃ俺には勝てねえぜ?」

「俺は、お前とは戦う気は無い! これ以上、技を使うな!」


 ザレンの攻撃で部屋の隅にお追いやられていた魔王が声をあげる。


「ザレン! 我からも忠告する! これ以上、技を使うのはやめろ!」

「うるせぇな。なんだお前? そんなに勇者を倒されちまうのが怖いのか?」

「違う、この『やめろ』はそういう意味じゃない」

「あん? じゃあ、どういう意味だ?」

「もう手遅れかも知れんがこれ以上でかい音をだすな!」

「意味分からねえよ。お前勇者と戦ってどっか頭でも打ったのか?」

「ああ、打ったと言うより打たれた」

「ハァ?」


 二人の制止する声にザレンはもう、うんざりだとういう表情で口を開く。


「技を使うなだの、音を出すなだの、てめぇらそんなに戦うのが怖いか?……なら俺が戦いの手本ってやつを見せてやるよ」

「おい! ザレン、これ以上何をする気だ!」

「うるせぇ! てめぇはそこで大人しく勇者がぶっ殺されるを眺めてろ!」


 ザレンは、勇者に向かって不適な笑みを見せると、持っていた大剣を鞘に納め何やら呪文を唱えだす。

 すると彼の身体を炎が包み込み、その炎は激しさを増して巨大化した。そして最終的には彼を中心として巨大な炎の人形ひとがたの形で原型を固定する。


「勇者! 少しは楽しませてくれよ?」


 魔王城でザレンが暴れている最中、城から西へ約100メートルに位置するとある民家では、一人の人物がイラついた表情で独り言を呟いていた。


「ったく、うるせぇな。この前注意したのにあいつら全く分かってねぇみてえだな。……次でけぇ音がしたらぶっ殺しに行くか」


 そして、場面は戻り魔王城では、ちょうどザレンが勇者に攻撃を仕掛けている最中であった。

 ザレンは生成した炎の巨人に、炎で作られた巨大な剣を持たせ、勇者に向かって真横に振っていた。


 その攻撃に対し勇者は上に飛び上がりなんとか避けることに成功したが、あまりの剣の大きさ故に室内は無事では済まなかった。

 

 炎の剣は壁に激突すると壁を突き破り室外にまでその切っ先を見せる。しかし、それだけでは止まらず、まるでビルでも倒壊したかのような轟音を立てて、真横に壁を切り開き10メートルほどの切り穴をあけてようやく止まった。


 その様子を見ていた魔王は声を荒あげる。


「やめろザレン! 一応この城、我の家だからな!?」

「なんだてめぇ、城の心配してたのか?」

「今は、そうだけどそうじゃない!」

「……こりゃ本当に頭を打っちまったらしいな」


 と、そこに全員の意識を無視して爆発音と共に壁をぶち破り、魔王と勇者が憂慮ゆうりょしていた例のアレがやってくる。


「「っ! (ほら来ちゃたよー)」」

「……なあ、言ったよな? 次、でけえ音出したらぶっ殺すって」

「あん? なんだてめぇ?」


『さあ、お説教の時間だ』

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