第32話

 アリスは、獣人となったブルーノと共にエルフの谷に戻った。

「……レーンさん、戻りました」

 アリスの言葉に、レーンはホッとした表情を浮かべた。

「アリスさん、ブルーノさん! 無事でしたか! 水晶の涙は手に入りましたか?」

「はい。でも、ブルーノさんが……」

 アリスは涙ぐんで、俯いた。


「ああ、その姿は……ケンタウロスの血を……」

 レーンはブルーノの姿を見て察した。

「はい。私は……それでも……後悔はしておりません」

 ブルーノは寂しげに微笑んだが、その口元はもう獣の姿になっている。

「……ブルーノ様」

 アリスは、毛で覆われたブルーノの手をぎゅっと握った。


「なんだ!? 獣人か!? この谷を襲いに来たのか!?」

 エルフの青年がブルーノの姿を見て、大きな声を上げた。

「獣人!?」

 弓を持ったエルフが、ブルーノを狙った。

「やめなさい!」

 レーンの制止よりも早く、弓がブルーノに向かって放たれた。


「きゃあ!」

 アリスが叫んだ。

「……!?」

 ブルーノの服は弓の先で切れたが、ブルーノの肌は弓を跳ね返した。

「……ははっ。私はもう……人ではないのだな」

 ブルーノは落ちた矢を拾うと、レーンに渡した。

「ブルーノさん、後悔していませんか?」

「いいや。あの場でアリスさんを守れなければ、そのほうが辛い」

「……!」

 アリスはブルーノの言葉を聞いて赤面した。


「レーン様、獣人相手に何を笑っているのですか? 逃げて下さい!」

 エルフの青年は震えながら、レーンに進言した。

「大丈夫ですよ。この方は、ブルーノ様ですよ」

「え!? 以前、谷を救って下さったブルーノ様ですか!?」 

 レーンの言葉を聞いて、エルフ達が集まってきた。


 ブルーノは顔にまいた布を取り去って、微笑んだ。

「……ブルーノ様?」

「確かに少し面影はあるようだが……」

 エルフ達はざわつきながら、ブルーノを見つめていた。レーンはそれを見て言った。

「エルフでも、獣人を怖がります。ましてや人間達は貴方を迫害するかもしれません……」


 それを聞いて、ブルーノは困ったと言うように腰に手を当ててため息をついた。

「それはそうですね。……どうしたものか……」

 アリスは思い切って言った。

「……私の家で、一緒に暮らすのはどうですか? 森なら、人が来ることは少ないですし」

 レーンとブルーノは驚いた表情でアリスを見つめた。 

「アリスさん、そう言う訳にはいきません!」

 ブルーノは焦った様子で断った。


「……どうしてですか?」

 アリスは屈託のない笑みを浮かべてブルーノに問いかける。

「若い男女が同じ家で暮らすというのは……」

 ブルーノは、もごもごと何かを言っていたがアリスには聞き取れなかった。

「……でも、ブルーノ様は町には戻れないでしょう?」

 ブルーノとアリスのやりとりを聞いて、レーンは頷いている。

「ブルーノさん、アリスさんと一緒に暮らすのが良いでしょう」


「!!」

 ブルーノは腕を組んで、固まっている。

「レーン様もそう言っていますし、家に来て下さい」

「……分かりました」

 ブルーノはアリスの言葉に甘えることにした。

「それでは、エルバの森に帰ります」

「レーンさん、ありがとうございました」

 アリスとブルーノが礼を言った。

 レーンは谷の外れまで一緒に歩いて行き、二人を見送った。

 

 アリスとブルーノは、エルバの町に向かって歩き始めた。

「それでは、よろしくお願いします。アリスさん」

「はい、ブルーノ様」

 

 その頃、王子レイモンドの元に恐ろしい知らせが飛び込んだ。

「何? フォーコが生き返っている!?」

 

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