第11話
クリスマスから年末にかけて、アリスの家にくる町人は少なかった。
アリスは祖母の残していたコートを着て、森を歩いた。
「ねえ、貴方は魔物を見たの?」
アリスは井戸の傍に生えたリンゴの木に訊ねてから、ゆっくりと頷いた。
「そう、見かけては居ないけど、気配は感じているのね?」
アリスは、これ以上森の奥に行くのは止めようと思った。
「それじゃ、畑の世話をしましょう」
アリスは井戸でくんだ水を畑にまくと、雑草を摘んだ。
「ごめんね、痛いよね。でも、私が生きていくために必要なの」
雑草を取り終わると、いつものように作物を収穫した。
「いつも美味しい実をありがとう。果物もお野菜も、すごく美味しそう」
アリスはそう言って収穫を終えるとエルバの町に出かけた。
町は賑やかに彩られていた。
「あら、アリス様、こんにちは!!」
「イルさん、こんにちは」
「今日は買い物ですか?」
「ええ。それと、森で取れた新鮮な野菜と果物を売りに来ました」
イルはにっこりと笑った。
「ちょっと待ってて下さいね」
アリスが言われたとおりに待っていると、イルは自分の家からご馳走の入ったかごを持ってきた。
「アリス様、今年は沢山お世話になりました。よかったら、お持ち下さい」
「まあ、いいんですか? 申し訳ありません。大したことはしていないのに」
アリスがかごの中を覗くと、そこには何かのパイと鳥のももを焼いた物が入っていた。
「ありがとうございます。素敵なご馳走ですね」
アリスはイルに礼を言うと、イルは両手を横に振って言った。
「なんだか家の残りもので悪いんですけど、良かったら食べて下さいね」
「帰ったらゆっくり頂きます」
「それじゃ、良いお年を」
イルはそう言って、雑踏に紛れていった。
アリスは呟くように言った。
「これだけあれば、買い物はしなくても年を越せそうですね」
アリスはいつもの通り市場で森の畑の収穫物を売ると、パンと牛乳だけ買って家に戻った。
そして年越しの夜になると、町の方で花火が上がった。
「まあ、何て綺麗なんでしょう」
アリスは家の二階から花火とライトアップされた町を眺めて、イルから貰ったご馳走を食べた。
「ハッピーニューイヤー、アリスさん」
「ブルーノ様!! この寒い中、ここまで来て下さったんですか!?」
「ええ。元気にしているかな? と思いまして」
「はい、元気です」
アリスは慌ててブルーノを家に上げた。
「ホットココア、飲みますか?」
「いただきます。ありがとうございます」
アリスはココアを入れて、パンケーキを焼くとブルーノの座っている席の机に並べた。
「簡単な物だけで申し訳ありません」
「いいえ、よかったらこれをどうぞ」
そう言ってブルーノは、よく煮込まれた肉の塊と葡萄のジュースを荷物から取り出した。
「まあ、ありがとうございます。でも、なぜ?」
「貴方に喜んで欲しかったからですよ」
ブルーノはそう言って微笑んだ。
アリスはよく分からなかったが、礼を言い、もらった肉と持っていたパンを早速切り分けてテーブルに並べた。
「あの、一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいと思うので一緒に食べて下さい」
アリスの言葉にブルーノはにっこりと笑った。
「そうですね。頂きます」
アリスとブルーノはパンに肉を挟んで食べた。
「美味しい!!」
「そうでしょう? 町で一番のお店で買いましたから」
「ありがとうございます、ブルーノ様」
アリスとブルーノが昼食を終えると、外から日差しが差し込んできた。
「気持ちよく晴れましたね。今年も良い年になると良いですね」
「そうですね」
アリスは魔物のことをしばらく忘れて、ブルーノの笑顔に見とれていた。
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