第3話
エルバの町に着くと、アリスは呆然とした。
町、とは言ってもずいぶん寂れていて人々は痩せていた。
「アリスさん? どうしましたか?」
ブルーノの問いかけに、アリスはハッとした。
「いえ。あの、ずいぶん町が荒れているなと思いまして」
ブルーノは苦笑した。
「ああ、この町は緑の魔女が居た頃は、森の恵みでずいぶん栄えていたらしいのですが」
「緑の魔女?」
アリスはその言葉に反応して、体をびくりと震わせた。
「はい。昔、アリスさんが住んでいるお屋敷に住んでいたそうです」
ブルーノは目をつむって、何かを思い出している。
「そうそう、名前はマリー・スミスと言ったそうです」
「まあ、それは私のおばあさまです」
「それじゃ、貴方も緑の魔女なのですか?」
「それは分かりません」
アリスはブルーノにも気味が悪いと言われるのでは無いかと思い、植物と話せることは黙っていた。
「ところで、この荷物の中身は何ですか?」
ブルーノはアリスと持っていた大きな袋を、のぞき込んだ。
「これは、森で取れた果物や薬草、きのこです」
「え!? あの森は切り開かれて、もう林くらいに小さくなっていたはずでは……?」
アリスはしまった、と思ったが白状することにした。
「私が祈りを捧げたら、森は復活しました」
「やっぱり、緑の魔女の子孫なのですね」
ブルーノは黒い瞳を輝かせて微笑んだ。
「ところで、この果物や薬草、きのこを売りたいのですが、良い場所をご存じですか?」
「それなら市場へ行きましょう」
アリスはブルーノに手を引かれて市場へ行った。
そこには川魚の干した物や、しおれかけの薬草が並んでいた。
「じゃあ、ここで。ありがとうございました」
アリスはブルーノに別れを告げると、荷物から大きな布を出し広げた。
そしてその上に森で取れた果物や薬草、きのこを並べると、あっというまに人が集まってきた。
「りっぱな果物に薬草、きのこまであるのね」
「この辺じゃ、なかなか手に入らない物ばかりだ」
「昔は森で沢山取れたっていうけどね」
そう言いながら住民達が次々とアリスから商品を買っていった。
「ありがとうございます」
アリスはパンパンに膨らんだ小銭入れを袋に入れて、市場を後にした。
「パンとチーズが買えると良いんだけど……」
町の中を歩いていると、パン屋とチーズ屋が並んでいた。
アリスは三日分のパンとチーズを買って、家に帰っていった。
「ブルーノさん、元気になって良かった」
アリスは一人呟いた。
「市場も果物や薬草が売れるって分かったし。あとは家の掃除かしら」
アリスは湖の脇の家に帰ると、部屋を色々と開けて回った。
すると、書斎をみつけた。そこには古い魔法書や祖母の日記、料理のメモなどが置いてあった。
アリスは祖母の日記をそっと覗いた。
そこには、アリスが生まれた日のことがかかれていた。
<孫が生まれた。名前はアリス。元気な声で泣く、可愛らしい女の子だった。アリスが泣くと、花が咲いた。どうやらこの子には緑の魔女の血が濃く現れているようだ。幸せに育ってくれると良いのだけれど……>
アリスは優しかった祖母のことを思い出した。
「そういえば、おばあさまはよくカリンのジャムを作ってくださっていたわ。レシピがあると良いのだけれど」
書斎を探していると、祖母の手で書かれた森の食材を使った料理のレシピ集があった。
「これなら、色々作れそう」
アリスは買ってきたパンとチーズを食べて、森で取ったリンゴをかじった。
「……掃除は明日にしましょう」
アリスは寝室のベットに入ると、疲れて眠ってしまった。
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