第6話 早朝練習
カナダ大会の全日程が終わり、日本に帰国してから二日が過ぎた。
「う~ん……」
午前五時半、目覚ましのアラームを消して伸びをする。
自分の部屋を出ると廊下の方を覗くと、誰も起きてはいない。
「よし。これから行くか」
わたしは部屋着のまま部屋を出た。
うちが暮らしているのは小平市、西武線の沿線の五階建てのマンション。
家族は両親と社会人になっている兄が一人、でも兄は一人暮らしをしている。
両親は共働きで父がトラックドライバー、母は大学とその附属高校で韓国語を教える講師をしているんだ。
父が不規則な勤務時間のため、家族がそろってご飯を食べることは少ないけれどこれは仕方のないことだ。
高校から私立に行かせてもらって、フィギュアスケートもやらせてもらっているので頭が下がる思いだ。
わたしは両親を起こさないようにリビングからキッチンに入る。
朝食として夜のうちに父が用意してくれていたおにぎりとみそ汁を温め直す。
おにぎりを弁当箱、みそ汁を魔法瓶に入れて昼食用の弁当を用意して出かける。
服装は高校の制服、学校用のリュックにスケート用に使っているキャリーケースを持って行く。
東原駅に到着したのは午前六時前、これから一時間半の早朝練習が始まる。
早朝練習のリンクは一時間半くらいで終わるけど、一度キャリーバッグを家にいて自転車で高校まで行くことになっている。
「あ、
「
同い年の
でも、その代わり全日本の地方予選に集中することができて、激戦の東日本選手権で二位という好成績を収めて全日本選手権への出場を確実にしている。
もう一人は
二人は駅前のマンションに暮らしているので毎回早朝練習では一番乗りすることが多い。
「あれ? 佑李くんは練習に来たんだ」
「うん。早朝練習に出て、午後からは大学のクラブで」
佑李くんが通う
いまは同好会という形だけど、いまは東伏見のリンクで練習をしたりしているという。
いまはインカレの出場枠には学生がいて、みんなで切磋琢磨して練習をしているという。
専門的な指導者は東海林学館大学OBでコーチをしようとしていたは日野
主将は佑李くんでマネージャーに東原FSCのOGだった
それを聞いて進路を変更しようかなと考えているところだ。
「そう言えば……友香ちゃんはインターハイに出るの?」
「そうだ。出るつもりだけど、予選に出れるかどうか」
わたしの通う西多摩体育大学附属
同じく清華ちゃんは今月末にあるインターハイの地区予選に出場するらしい。
出場資格はバッジテストで六級以上を持っていること、これに該当するのは
「でも、うちはプログラムを作り替えないといけないんだよね」
「そうだね。ジュニアのプログラムに準拠だもんね」
インターハイは国際スケート連盟のジュニアの規定に準拠するという形になっているので、そのときにはジュニアの規定で作られたプログラムを使わないといけない。
でも、ジュニアのショートプログラムも課題という形で跳ぶジャンプが決められている。
単独はダブルかトリプルフリップ、ダブルアクセル、フリップ以外のコンビネーションジャンプが決められている。スピンも同様にレイバックスピン、足換えのコンビネーションスピンなどが決められている。
フリーはシニアが四分なのに対して、ジュニア女子は三十秒減っても、同じエレメンツをこなさないといけないので少し大変だ。
わたしはグランプリシリーズの二戦目がイタリア大会のため、かなり過密スケジュールで大会に臨むけど試合に慣れていかないと無理かもしれない。
「伶菜ちゃんはインターハイ、出るの?」
「出るよ。もちろん、バッジテスト七級に受かりたいし。試合数をこなしていくつもり」
伶菜ちゃんはバッジテスト六級を合格するのにかなりの時間がかかった。
バッジテストが行われて、結果がわかったときに言葉にならないLINEが送られてきたのを思い出した。
バッジテスト五級に受かったのは伶菜ちゃんが一番早かったけど、その先であるダブルアクセルに五年くらい苦戦していたんだ。それでかなり遅れを取っていたんだけど、そこであきらめなかったのはすごかったなと思う。
今年の夏合宿でダブルアクセルとトリプルジャンプにも成功して、その勢いで合格してしまったからすごいなと思っている。
いまは七級に合格するために練習を重ねている。
このまま七級にも年内に受かれば、インターハイだけではなく大学生になってインカレに出場することが可能になる。
「それじゃあ。ストレッチしてね」
「は~い」
わたしは練習着に着替えてストレッチをしてから、スケート靴に履き替えてリンクで練習をする。
インターハイに向けてのプログラムはあまり変わっていないので、意外と助かっている。
でも、
「あーあ……インターハイのショート、嫌だ……四回転封印とか嫌なんだけど~」
「うるさい! 千裕くんは腹式呼吸で言うから声量がでかすぎるんだよ」
「お前もうるさいわ! いつも返事とかよく聞こえんだよ」
「はあ⁉ それなら整氷時間のガチャの反応とかうるさいんですけど!」
あ~あ、始まったよ……伶菜ちゃんと千裕くんの言い争い。
あの二人は一つしか変わらないのに、昔からああやって言い争いをする。
それですぐに仲直りしてるから、不思議な関係だ。
ケンカするほど仲が良いって言うし、そんな感じなのかもしれない。
千裕くんは清華ちゃんとよく話しているイメージだけど、伶菜ちゃんとのバチバチしているのが強烈すぎてかすむ程度だ。
この二人を見ながら、佑李くんは苦笑しながら周りを周回している。
最終的に止めるのは清華ちゃんが多い。
「二人とも。ストップ! いまは練習しないと、ケンカは後で」
「ごめん」
ほぼ同時に清華ちゃんに言うと、各自練習を再開しているのが見えた。
こんな感じで早朝練習が終わったのは午前七時半を過ぎた頃、ここで朝ご飯タイムだ。
「あ、友香ちゃんのおにぎり、おいしそ」
「お父さんの手作り。ありがたいよね」
「へえ……うちは普通に母さんの」
そのときに観客席の同じ列に座っている佑李くんはサンドイッチだった。
「うまそう! 佑李くんのやつ」
「うん。自分で作ってるんだよね。大学でスポーツ栄養学を勉強したから」
佑李くんは東海林学館大学の人間生活学部のスポーツ健康学科で勉強していて、ときどき大学で勉強した知識を自分で使ったりして復習を兼ねているみたいだ。
千裕くんは内部進学でそこへの進学が決まっていて、高校に引き続いて先輩と後輩になるんだ。
「すごいよね。コーチを目指してるの?」
「引退したらね。まだ決めてないけど……これからの自分に必要だなって思って」
確実に将来を決めている人もいるけど、決めていない人もいる。
「伶菜ちゃんはどうするの? 進路」
「ああ……うちは千裕くんと同じルートの予定。清華ちゃんは受験でしょ?」
伶菜ちゃんも内部進学で東海林学館大学へ進学することになっているみたいだ。
一方の清華ちゃんは唯一の都立高校に通う二年生で、東原高校は特に近所でも頭が良いと言われている学校だ。
「うちは今シーズンと来シーズンの成績を良くしないと……学校推薦は行けないかな~。出席日数とかもいろいろネックになることもあるし。できなかったら、公募推薦か一般受験、夏休みにある総合選抜試験に行くしかない」
「そうだよね……友香ちゃんは? そのまま西多摩体大に進学?」
それを聞かれて、思わず頭を抱えてしまった。
「いや……西多摩体大に進学するか迷ってる。東海林学館の方が興味のある学科が多いし」
正直、東海林学館大学のパンフレットをもらったときに、自分が勉強したい分野が多かった。
でも、大学でスポーツでの特待生を使って一部学費が免除してくれる制度を使うつもりだ。
「それじゃあ。中高生は解散~、お疲れさまでした」
「お疲れさまでした!」
わたしはすぐに学校へと自転車に乗っていった。
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