血の血脈
親と子
手伝って欲しい事がある、そう言った
「どうせ派閥争いの話だろ? 悪いが手伝う気は無いぜ」
「派閥の事じゃ無いわ」
「じゃあ何だよ? 俺に出来る事はあんたにも出来るだろう?」
「……
「血狂いだと!? 一体誰が!?」
「
花、その名を聞いた真咲は目を見開いた後、辛そうに顔を歪めた。
「花は……佳乃はどうしてる?」
「始末をつけるって一人で出ていったわ……どう、手伝う気になった?」
「血狂いは何処にいる?」
「この街の港近くの何処か、ぐらいしか分かっていないわ」
「……他の奴らは?」
「あなただって掟は知っているでしょう? 基本、子のしでかした不始末は親が責任を取る、あの子は助力も請わなかったしねぇ……」
真咲はそう言って笑みを浮かべた栞子を、真咲は苛立ちのこもった目で睨んだ。
「あんたからすりゃあ、孫だろうが!?」
「だからこうして親のあなたに教えてあげたじゃない?」
「チッ……港だな?」
「ええ、急いだ方がいいわよ。分かってるでしょうけど、花は弱いから」
クスクスと笑いを残し栞子は何時の間にか開いて窓から、その先に広がる闇にその身を溶かし消えた。
「クソッ、相変わらず嫌な女だ!」
真咲が吐き捨てる様に言ったと同時に、廊下のドアがガチャリと開いた。
「珍しいですね? あなたが女性を悪く言うとは……」
「ラルフ……聞いてたのか?」
「ええ……この事務所は以前言ったように、秘密を語るには壁が薄すぎますから……それで、一体何が起きてるんです?」
パジャマ姿のラルフは肩を竦めて真咲に問い掛ける。
「悪いがこいつは俺の問題だ。あんたが関わる必要はねぇよ」
「……関わる必要はあります。あなたはもう私の中では友人ですから…………詳しく話して下さい。協力しますよ」
「……すまねぇ……花……桜井佳乃は大昔に俺が吸血鬼にしちまった子供だ」
「子供?」
ラルフはソファーに腰を下ろした真咲の正面に腰かけながら首を捻った。
彼は常々守備範囲は十八歳以上だと言っていた。
それは真咲が声を掛ける女性を見ていれば、そうなんだろうと頷ける物だった。
ラルフが知る限り、彼がターゲットとしているのは遊び慣れた大人の女性だけだったからだ。
「……昔、戦争に巻き込まれてな……この国で侍が幅を利かせてた時代だ。俺はその頃、根無し草でな。日本中を旅しながら各地の女を漁ってたんだが……」
「……梨珠さんでは無いですが、最低ですね」
「うるせぇよ、あの頃は今よりおおらかだったんだよ。 話を戻すぞ……俺は戦争に巻き込まれて、敵に囲まれた城にその国の百姓たちと一緒に閉じ込められたんだ……」
真咲一人なら簡単に逃げ出す事も出来ただろう。しかし、世話になった人々を見捨てて逃げる事は彼には出来なかった。
その城の主は戦わせる為に村人達を集めたようだが、寄せ集めの女子供や老人を含む集団では敵に勝つ事は出来そうになかった。
しかし、城主は諦める事はせず徹底抗戦を選んだ。
兵士は押し寄せる敵軍に徐々にその数を減らし、真咲には城が落ちるのも時間の問題と思われた。
その予想は当たり、程なく火矢を射かけられた天守は炎上、城は瓦解した。
その城の倒壊に真咲は巻き込まれ、咄嗟に助けた花と共に生き埋めになった。
上手く瓦礫の残骸が作り出した空間に入り込めたが、その上では敵の兵達が残党狩りを行っていた。
彼らが去らない限り花を無事連れ出すのは難しいだろう。
「でもよ、二日待っても奴らは城から動く事は無かった……後で知ったんだが、友軍との合流を城で待ってたらしい」
「いつの世も戦争で迷惑するのは民衆という訳ですか……」
「まあな…………水も食い物も無くてな……その薄暗い瓦礫の下で弱っていく花を見てられなくて……俺はあいつの血を吸った」
「ふむ……それで?」
「抜け出せたのは、あいつが完全に吸血鬼になってからだ。霧に姿を変える方法を教えて一緒に瓦礫の下から逃げ出した」
「その花さんの子……子というのはそのままの意味では無いのでしょう?」
ラルフの問い掛けに真咲は頷きを返す。
「子っては吸血鬼に変えた人間の事だ……さっき話してた緋沙女は俺の親、花は俺の子だよ……」
「その花さんの子が血狂いになったと……真咲さん、血狂いとは何なのです?」
「……吸血鬼は文字通り血を吸う鬼だ。その吸血で数を増やすんだが、ごくたまに血と力に酔う奴がいる……必要以上に血を求め、一晩に何人も何十人も人間を襲う奴が……」
「それが血狂い……」
「ああ……血狂いは普通は親が責任を持って始末する。不用意に吸血鬼の数を増やされちゃ困るからな。だが、花は……あいつは梨珠よりも小さい、吸血鬼化した時、恐らく十歳前後だった……吸血鬼は血を飲む程強さを増す……あいつじゃ多分……」
俯き口を閉ざした真咲を見てラルフはソファーから腰を上げた。
「着替えて来ます」
「手伝ってくれるのか?」
「協力すると言ったでしょう? それにその花さんは真咲さんにとって、私のエーファと同じ存在……家族なのでしょう? だったら友人としては放ってはおけませんよ」
「……恩に着る……」
笑みを浮かべ廊下のドアに姿を消したラルフに真咲は深く頭を下げた。
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