エピローグ

 一段と冷え込んだ朝、繋と波田の目線が重なっていた。波田の問いに、繋は一瞬うつむく。


「何がしたかったのかな。もう、わからない」


 しかし、垣間見えた暗さを表現したかと思えば、繋は舌を出して波田をからかった。


「なんてね」

 

 雨が降り続ける中、二人のアーティストは動こうとはしない。永遠に降り続くように、パラパラだった雨脚はどんどん強くなっていく。繋はスウェットのポケットに手を突っ込んだまま、黒い瞳を輝かせた。


「波田洋介さん。話をしましょう。今、私が何をしているのか。あなたは知る必要がある」


 ボブカットで、年相応ではない態度。波田には一人だけ心当たりがあった。声色も、一度聞けば忘れない。


「―君は、もしかして」


 口角を上げて、繋は口の前に人差し指を置く。


「過去は野暮ですよ。波田さん」


 もっと、冷えろ。雨よ、限りなく降り続けろ。情緒のある風景なんざ、繋の心には必要ない。


 そして、波田は笑う。懐かしい思い出をなぞるように。


 繋も笑う。頂きに登り着いたことに。



「じゃあ、俺に話を聞かせてくれ。純粋に、君が知りたい」


 濡れた黒髪は光り輝く。光を生み出していたのは、大空の残骸だった。

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