俺、言いたいことだけを言う小町先生の話を聞かされる
ボランティア部室で俺は
「小町先生、食べちゃダメですよ」
俺は小町先生の餌食か。
「また投書があったのよ」
「例の?」
「それがどうも違うみたい。フォントの字体や大きさ、一行の文字数、余白などが違うの」
「今までのもプリントアウトした投書だったのですか?」
「決まっているじゃない。自筆だと筆跡でわかるでしょう?
「俺は書いてませんが」
確かに俺の字を小町先生はいやというほど見ている。俺が投書の主だとしたら自筆にはしないな。しかし印刷だからといって俺を疑うのも短絡的だ。
「千駄堀君を疑っているわけではないわ。あなたは介入しないもの。ただ傍で観ているだけ」
「俺だって気まぐれを起こすことはありますよ」
「そうなの? で、やったの? 君」
「やってません」尋問だな。
「遊ぶのはほどほどにして」遊びなのかい。
「投書の内容だけれど」ふんふん。
「
「それだけですか?」
「たくさん書いてあったけど言っていることはまあそれだけね」小町先生はよそ見した。
絶対に
一行の文字数がどうのこうのと言っていたから何行も書かれていたはずだ。
「俺には見せてもらえないので?」
「大事な証拠だからね」
「それ、小町先生宛てだったのですか?」
「二年生担任団となっていたわ。だから私の一存で生徒に見せるなんてことできないの」
「それを担任団の先生方全員で見たのですよね?」
「ふふ」何だよ、その笑い。「一部の先生だけよ」
「そんな大事なことを職員会議にもあげなかったのですか?」
「脅迫文には思えなかったもの。何かをしろとも書いてなかったし。ただ単に何かが起こる、と」
気になる。実に興味深い。俺の野次馬根性をとてつもなく刺激するではないか。
「どう? 行きたくなったでしょう? 観てみたくなったでしょう?」
「あ、俺、
「何だ……」小町先生は珍しくあっさりと引き下がった。
「俺が行ってもただ傍観しているだけですし」
「そういうと思ったわ。だから手を打った」
「どのような?」
「それは言えないわ。秘密」小町先生の口から発せられたその台詞は禁断の香りがした。
「ずるいですね、何でわざわざそんなことを俺に言いに?」
「面白いじゃない。毎日退屈しているのよ。たまにはイレギュラーなことがあっても良いと思うわ」
「暇なんですね」
「暇ではないわ、決して。毎日雑用ばかり。夏休みも宿題を見るので大変よ」
「宿題は二学期に入ってから提出でしょ?」
「何を言っているの。できた人からどんどん提出するように書いてあるでしょう? 早い方が内申点が高くつくのよ」
「シラナンダ」俺には無理だな。補習課題も多すぎるし。
「話は変わるけど
「そうですね、絶好調ですよ。
「何かあったのかな」
「知りません」
避暑会に呼ばれたのが良かったのではないかと俺は思う。あいつは
と言って、渋谷に告白のようなことはしない。されるのを待っているのか?
渋谷にその気があればとっくの昔にしているだろう。可哀相だが脈はないと俺はみた。
「村椿さんが良ければそれで良いけれど、まだ村椿グループが横暴だと投書した件はそのままだわ。あれから音無しになっているけれど」
「そうですか」
「そうそう、夏休み期間中の私の出勤日を教えておくわ。何かあったら私がいる日に学校に来なさい。宿題はみてあげないけれど」見ないのかい。
俺は小町先生の出勤日を画像保存した。
「何か……二十日以上ありません? 出勤日」
「そうよ半分以上来ているの。生徒みたいにずっと休みではないのよ」いや、生徒も毎日宿題に悪戦苦闘してますが。
小町先生は結局言いたいことだけ言って出ていった。
俺はひと息ついてからようやく席を立った。やれやれだぜ。
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