俺、いろいろと誘われる
真夏の昼休みでも俺は外に出ることがある。人影が少ないからだ。
俺だって観劇で疲れることはある。特に陽キャ連中の
だからひとりになろうと校舎の外に出たのだが、同じようにボッチを好むヤツがあちこちにちらほらといた。
まあひとりが好きなヤツばかりだから大丈夫だと
「
「いかにも」
俺は振り向いた。ギャグのつもりだった。そいつの相手をまともにはしていられない。誰彼構わず声をかけて勧誘するヤツだったからだ。
同じクラスの
武道部というのは柔道、空手、剣道など何でもやっているイカれた部だった。おそらく柔道だけとか剣道だけとか単独だと部員数が足りなくなって同好会になってしまうからまとめたのだろう。男女合わせて、全部まとめて部になるような部活だった。
「日光浴かい?」
「違うわ」死ぬだろ。熱中症で。日陰にいるだろうが。
「グラウンドで汗を流す部活が羨ましいよ。日に焼けて健康的じゃないか」昭和の価値観だな。
「武道部はほぼ室内だからずっと色白なんだよね。海とかに行けば良いのかな?」
こいつの語り口はいつもソフトだ。身長も俺と変わらないから並だ。ぱっと見ただけでは凄さがわからない。
目が細くていつも微笑んでいるような顔だ。音もたてずに歩き、いつの間にか懐に入っているようなヤツだから俺はこいつを忍者だと思っている。
とにかく何を考えているかわからないヤツだった。
もちろんクラスでは浮いている。B組では異端だ。休憩時間になると教室にはいない。いつも親善試合の助っ人を探し歩いているのだ。
「千駄堀くん、剣道の試合出てみない?」
「何言ってんだ?」
俺だぞ。明らかにインドアじゃねえか。まあ剣道もインドアか。俺はひねた笑みを浮かべた。
「五人いれば男子も団体戦出られるんだよ。竹刀持って立っているだけで良いからさ」
枯れ木も山の賑いになれってか。いったいどういう神経をしているんだ。
「ダメだよ、ムリムリ」
一応俺も体育の授業で剣道をしたことがある。だからはっきりと言える。ムリだと。
「そうかあ、残念。次当たるよ」
佐田は外にいるボッチに一人ずつ声をかけているようだ。プレッシャーをかけて無理やり出させるのだろう。そんなことが可能とは思えないが。
「おっと、ついてるな。次の獲物がやってきた」獲物かよ。
肩をいからせて髪を逆立てたいかつい男とその後ろをトコトコついてくる眼鏡男。別のクラスだが俺でも知っている。
いかついのはH組の
「無糖のコーヒーっつっただろ! 何だよトマトジュースって!」
「美味しいよトマトジュース。ボク、好きだな」
「お前のこと聞いてねえよ」コントか?「ったく、パシリにもなんねえな」
ぶつぶつ言いながら鮫島は仕方なさそうにトマトジュースを口にした。
何だかシュールな光景。俺はその場にとどまって佐田が声をかけるところを観劇した。
「良いところに。まさに運命の出会い」
「あ?」
「武道部が君を待っている」
「お前に任せた」鮫島は鮎沢を前に押し出した。
「お、鮎沢くんが出てくれるのか? 剣道」
「むり」
「君の
「ボクではないよ」
親戚はあくまでも親戚だ。てか、鮎沢の従兄って剣道やっているのか。
「勝ち負けは良いんだよ。参加することに意義がある」
そうやってとにかく活動実績を作って部費の割り当てを維持していると聞いた。どこの運動系部活も助っ人頼りだ。
そこまでして部活を維持する理由があるのか?
本来はやりたいヤツがいて部活というものがあるはずだ。ほんの一握りのヤツのやりたいというわがままに他のヤツを巻き込むなよ。
その刹那、ふと
俺は三人をおいてそこを立ち去ろうとしたが鮎沢に肩を叩かれた。
「千駄堀くん、夏休みに遊ぶ約束覚えてる?」
「そんな約束したか?」
「ほら、
「お前に助けてもらったんだよな。あの時はありがとうな」助けにはなってないが。
「那須高原のホテルのクーポンが何枚かあるんだ。君にも是非行って欲しい」
「何で俺?」旅行に行く間柄じゃないだろ。
「行かないなら君と遊ぶ予定はなくなったと小町先生に言うことになるよ」脅しかよ。
「わかったよ。タダなんだな?」
「旅費はね。お小遣いは自分で持ってくるんだよ」
「仕方ないな」夏休みの二、三日くらい構わないかと俺は思った。「
「H組中心だけどマイペースでゆっくりしていて良いよ。そんな人の集まりだから」
何だよそれ。どんな集まりだ。
俺はよく理解せず返事をしてしまった。後で後悔することになるとはその時は思わなかった。
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