俺、試験後の解放感を味わう
土曜日、午前で期末試験は終わった。
この解放感は特別だ。俺みたいな出来の悪い人間でも、一夜漬けすら適当にやっている人間でも、なぜかやり遂げたような充実感がある。
腹痛に耐えてトイレに駆け込み一気に排泄したような爽快感。今ならまだ脳内モルヒネが分泌されているな。
今日は家に帰ったら動画視聴やらゲームやらを堂々とできる。来週のテスト返しは考えないでおこう。
あちこちで打ち上げの話が上がっている。ボッチの俺には縁のない話だ。
一班のモブ女子三人の声も聞こえた。最近よく聞こえるな。俺のセンサーも感度が良くなったものだ。
「お昼、何にしようか」
「制服のままでお店入って大丈夫かな」
「今日は先生たちも見回りどころでないよ。ランチの寄り道くらいは大目に見ている」
そうなのか……。だったら陽キャグループは忙しそうだな。
「マジかよ、練習ないのだろ? 話だけなら行かなくても」駄々をこねているのは
「こどもか」同じテニス部の
部会だけ開かれるらしい。運動部の練習は今日までできないことになっている。だから多くの部活で部会のみ行うのだ。
さて、さっさと帰ろうと教室を出た俺を
「
「いただきます」俺は条件反射的に答えていた。
なんで見つかるかな。気配を消していたのに。
俺は廊下を前薗の後について歩いた。
「ごきげんよう」通りすがりに出くわす生徒に前薗はいちいち挨拶する。そして「さようなら」
下級生たちは揃って一礼した。
まさにプリンセス。何だこの世界は?
そして俺が前薗の後を歩いていることは誰にも気付かれなかった。
部室には専属部員しかいなかった。俺と前薗そして
三年生の専属部員は幽霊部員だし受験を控えて不参加だ。
兼部している
「夏休みまであと一週間だな。これでバイトに専念できるわ」
こいつバイトしているのか。
我が校はバイトについてもいろいろ制限がある。誰でもできる訳ではない。許可制だ。
「何をやってるの?」俺はつい訊いてしまった。
「ファミレスの接客」
小早川はイタリアン・ファミレスの名をあげた。俺がよく利用する店だ。店舗は違うようだが。
「いらっしゃいませ、ご主人様」突如小早川が変身した。声が高い。メイド声だ。
俺が目をみはっていると「間違えた! これは昔やった舞台劇の役だ」小早川は頭を掻いた。
なんて明るいヤツだ。眩しすぎるな。
「演劇部の公演だったわね。よく覚えているわ」前薗が言う。
「
「ヤンキーウエイトレスの役だった」それって演劇ではなくてコントではないのか?
「演劇部のサイトで動画視聴できるわね」
「
「そう言いつつ今でもその役に成りきるでしょう?」
「染み付いたな」
いやきっとバイトでもヤンキーウエイトレスをやっているのだろう。後で動画視聴しておこう。
ボランティア部の定例会は簡単に終わった。俺は前薗がいれた紅茶を飲んでいれば良かった。
小早川はなかなか面白いヤツだ。黙っていれば美少女なのだが喋らせると男っぽい性格が出る。小原がたまに「番長」と呼ぶのもわかる。面倒見が良いのだ。
そして今でも一桁ランカー。二十位以下になってしまうとバイトの許可が取り消されるらしい。成績が落ちるようならバイトはやめなさい、というのが我が校の方針のようだ。
俺ははじめこいつがS組十傑の一人だとわからなかった。過去のランキングを見ても「小早川明音」の名がないからだ。
しかしランキング表をよく見ると「
親が離婚して自分の小遣いは自分で稼がねばならなくなったらしい。おまけに小学生の双子の弟妹の面倒をみるために部活はせずに帰宅するという。
この学園にもこうした生徒が、少ないものの何人かいるようだ。
「そろそろ来るかな」小早川が
それが合図だったわけでもなかろうが扉をノックする音がしたかと思うと、おもむろに扉が開き、一人の女子が入ってきた。
ストレートの黒髪ロングヘア。
生徒会副会長の
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