俺、観察を続ける
その日、俺たち二年B組は理科実験室にいた。化学の時間が実験だったのだ。
正直、俺は予習もしていないし、何をするのか、何をしているのか、さっぱりわからなかった。俺はたぶん理系には行かないな、と改めて思い知らされた。
進学校なら二年生の段階で理系クラスと文系クラスに分けられるのが当たり前かもしれないが、我が
選択科目の時間でそれぞれ必要な科目を選択する形式になっている。
それに
文系志望で、志望大学も決めているヤツなら数学Ⅱを採らない選択肢もあるわけだが、さすがにそこまで割りきれる人間はいないらしく、全員が数学Ⅱをとっていた。
俺は右に
いや嘘だ。本当は
話を戻そう。化学の実験だ。
この時間は班で一つのグループとなり実験を進める。俺たちの班は一班。右端縦一列の六人からなる。
班長は
三人女子は俺の後ろの席ということもあるが目立たないタイプなので俺もよく知らない。三人とも中高一貫生だから二年生になって初めて顔を合わせた。
なかなか可愛い女子たちだと思うが、
実験は村椿の指示で進む。それが最もスムーズに、間違いなく進行するからだ。
みんなよくわかっていた。
実験は俺たちの班が最も早く終わり、結果も担当教官に褒められる出来だった。
レポート作成も村椿が割り振り、最終的に村椿がチェックして訂正して仕上げる。それをみんながコピーしてノートに手書きだ。
何の問題もない。ただ実験中に村椿の叱咤の声と日暮の悲鳴が上がるだけだ。俺とモブ女子三人は素直に村人になっていた。
よその班からは、女王の恐怖政治におののく臣民たち、に見えたかも知れない。班だけでなくクラス全体が村椿に支配されていると感じる生徒がいても不思議でないだろう。
化学の実験が終わり、俺たちは自分たちの教室へと移動した。
これから昼休みだ。学食へ出かけたり、机の上に弁当を広げる生徒がいる。
俺は朝コンビニで買ったおにぎりを頬張っていた。
日によって持ち歩く教科書の量が異なる。その日は重かったので弁当は持参しなかったのだ。だからおにぎり二つ。
後で絶対に腹が減るな、と思い、何気なく後ろを振り返った。
日高、松山、川島の三人が机をつなげて仲良く弁当を食べている。
そのさらに後ろに村椿がひとりでいるのが見えた。目の前に弁当があるが包まれたままで手をつけていない。
俺はふと教室の真ん中、そして窓際に目を向けた。
渋谷と前薗の姿がなかった。二人は実験室からまっすぐこちらに戻ってきていないようだ。
学級委員の二人、
やがて渋谷と前薗が揃って戻ってきた。我がクラスのプリンスとプリンセスのご帰還だ。
村椿がおもむろに立ち上がった。渋谷たちのところへ移動するのだろう。
その時、俺の後ろにいた三人の女子から声が上がった。「やっぱりお似合いね」
渋谷と前薗が並ぶ姿を指していることは間違いがない。その声は村椿にも聞こえたはずだ。
俺は村椿がどんな顔をするのか注視した。
村椿はわずかに片眉を上げただけで聞こえなかったように渋谷たちの方へ歩み寄った。
「遅かったじゃない」
「悪い、
「部活連に呼ばれたの」
三人は前薗の席を囲んで適当な席に腰かけた。
そこに大崎と三井、
六人は揃ってランチタイムを堪能した。
「
村椿が自分の弁当から渋谷に分け与えている。渋谷の分も用意していたのは明らかだ。
「俺のは?」大崎のガラガラ声が響く。
「あんたのもあるわよ」
「サンキュー」
陽キャ・リア充真っ盛りだ。
俺は目がつぶれそうだったので横目で見ていた。そして教室内を見回し、誰がそれを見ているか、誰が目を
誰も六人を見ていなかった。
村椿たちのところだけ色がついていて、それ以外はモノクロになっているように俺には見えた。
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