うちのこと。
鈴ノ木 鈴ノ子
出会いのこと
秋の宵闇にあたりが取り憑かれてゆく。
数時間前まで、紅葉で美しかった山々の木々は、宵闇に取り憑かれて色彩を失い、単色に染まり始めていた。
大型バイクのエンジンで山間部の峠を抜けた私は、ふと、路側帯に座る奇妙な人影を見つけて、通り過ぎたのちに、やはり気になって方向転換をしてその人影の元へと向かった。
坂道の路側帯、道幅は車一台がようやく停車できる程度、その、狭い幅のちょうど真ん中のアスファルトとの上に、先ほどと寸分違わぬ姿で座り込んでいる。バイクのヘッドライトの光が照らしても、その時、ようやく女性と分かったのだが、こちらを見ることもなく、地面のアスファルトを見つめていた。
「こんばんは」
ヘルメットのバイザーを挙げて、女性へと声をかける。驚いた事にこんな山の中だというのに、その姿は女子高校生の制服を着て、宵闇で分かりにくいが、ヘッドライトの光に照らされる部分は健康的な小麦色で活発な、まぁ、ギャルと呼ぶにふさわしい、若さ溢れる女性だった。
「あ・・・こんばんは」
こちらを向いた彼女の顔に思わず息を飲む。
左側の頬は腫れ上がり、瞼の上は色が変色していた。右頬も赤く少し腫れている印象が見て撮れた。ヘッドライトが当たるように調節しながらバイクスタンドを下ろして、愛車を止めると、カバンからレスキューキットを取り出してゆっくりと話しかけた。
「手当をしたいと思うのだけど、どうかな?」
この場合、大丈夫だとか、焦ったように駆け寄っても、驚かせるだけだ。
「えっと、もう、なんでもいいっすよ」
「そう、まぁ、とにかく、手当をしようか」
「好きにしてください、なんだったらなんでもしますよ」
ニタリと笑う絶望の笑みに私は大体のことを悟りながらも、そんなことはしないことを伝えて、そして医師であることを告げた。
「あ、せんせーなんだ」
尾を引いた笑い方をする彼女に頷きながら、私は手当を進めていく。擦過傷や打撲の後が多いが、骨折はなさそうだ。顔面についてはどうか言い切れないところはあるし、一通りとは別の検査も必要であろうから、病院での診察が望ましいだろう。この場合は警察なども必要であることは確かだった。
「このあとどうするんだい?」
「え、まぁ、どうしたらいいのかな・・・」
表情を変えず、声色も変えず、悩んでいるそぶりすら見せないが、そう言った。
「まぁ、いいか。ちょっと後ろに乗りなさい。私の診療所でしっかりと手当するから」
「え・・・。バイク汚れますよ」
「シートに座って、私に触りたくなきゃ、左右に肘掛けがあるからそれにつかまんなさい」
「え、だから・・・バイク」
「そんなもん、どうにでもなる。私は医者だからね」
私はそう言ってポケットの財布を軽く叩いた。
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