ピンチ「プロット」

源ガク with ネコさん and 妻

第1話

1

「どうしよう、次の連載の構想まったく思い付かない。」

中矢勇太は焦っていた。なんせ次の小説を書き上げなくては、実際に死んでしまうからだ。

その事を中矢はヒシヒシと感じていた。

「今回の小説が書き上げなくては、小説イーターに食べられてしまう」

小説イーターとは中矢の住む世界に存在するクリーチャーで、小説家を見付けては小説家の念を食べ、小説が書けない小説家は念の代わりにその小説家を食べてしまうと言う恐るべきクリーチャーだった。事によると太宰治も殺られてしまったらしい。

時は1950年、昭和25年、終戦から5年後、太宰の死から2年後の時期である。

中矢の父は国会議員で文部科学省の副大臣を勤めていた。文部科学省の下部組織には秘密組織「小説イーター培養機構」が編成されていた。

中矢の父・為実は、小説イーター培養機構のトップでもあった。

「今月の仕送りは100円、かなり厳しいな」と中矢は思う。彼は雑誌「小説芸術」に寄稿する中堅どころの小説家であった。

世の中は戦後の混乱により野蛮と粗野とそれ押さえつける格差により分裂していた。中矢の小説はその上流の暇潰し的に社会を伝える役を負っていた。

世は大創作時代、誰も彼もが小説を書いていた。町の電機屋さんも、近所の肉屋さんも、お隣の高校生も、新聞配達のお兄さんも、皆ここぞとばかりに小説を書いていたのである。

「小説王に俺はなる!」幼い中矢は心に決めた。それには父の影響もあった、為実は息子に小説による世論の形成の一躍を担わせようとしていたのだった。

当時の中矢は小説家の過酷さをしらなかった。一作出来上がれば小説イーターに念を食べられ空っぽに成ってしまう。次々に小説を産み出さないと、白知化してしまうのである。ついに新たな小説を書き上げられなくなってしまったら、小説イーターはその小説家を食べてしまう、小説イーターは獰猛なのだ。

中矢には才能があった、予言能力と言ってもいい、彼の書いた小説の出来事が実際に何年か後に起こるのである。

今彼が書いている小説は大学の事務職員が5万円を強奪し、彼女と一緒に豪遊すると言うものだった。決め台詞をそのまま題名にして「オー・ミステイク」と言う何をミステイクしたか謎な小説だった、捕まった時に供実で「オー・ミステイク」と言ったのならかなりふざけた犯人である。

話の展開を思案していると、雑誌「小説芸術」の編集長から電話がかかってきた。「中矢くん連載の方はどう?鰻でも食べに行く?」との誘いに中矢は乗った。

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