真実
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未音が蒼龍を見つけようと奔走している頃、麻上が住まう洋館の一室にて。
男女の二人組が縄で縛られて身動きを封じられ、周囲を麻上とその取り巻きたちに囲まれていた。
「ア“アアァァァァァァ……!!」
女性が美しい声音に似つかわしい悲鳴を轟かせ、麻上の取り巻きたちを湧かせる。
───麻上が、女性に火の点いた煙草を左額部へと押し付け、その熱さで悲鳴をあげたのだ。
満場一致の拍手喝采、その中でポツリと二人だけが味わう阿鼻叫喚。
きっかけは些細な事だった。
ただ、女性が肩をぶつけた。それだけだった。
「しかし、相変わらず容赦ねぇなぁ巴。
不満でも溜まってんのか?」
茶化す取り巻きに、麻上は笑みを浮かべながら、答えた。
「当たり前じゃーん。
前にも話したけどさぁ、あのクソッタレた女のせいでオレ、日々日々追い込まれてんのよ?」
「あぁ、生きてたんだっけ?
あの生真面目委員長サマ。自殺したって聞いてたから俺らも嬉しさで叫び散らしたってのになぁ」
ホントだよー、と頷いて麻上がさらにもう一回、次は眉に煙草を押し付ける。
ジュウ、と肉と毛が焼き上がる音。
それと共に奏でられるは、先程同様、女性の悲鳴だった。
「春にさぁ、タピオカ屋に並んでたらたまたま出くわしてよぉ。
生意気にも言いやがったぜアイツ、『貴方をぜったいに許さない。トモくんとお父さんを返して』…ってよォ。
死人が返るわけねぇだろ、大人しくお前も死んどけってんだバーカ!!」
その場にいない少女への罵倒と共に、男の顔を蹴り上げる。
そして、女性に唾を吐き捨てた。
女性の方は縄で縛られているだけでなく、一糸まとわぬ姿となっており、集団に犯された痕跡が未だに残っていた。
取り巻きの男が一人、ある事に気付いて麻上に尋ねた。
「アレ、巴もしかして生で
「え、だってピルはもう持ってるし。
飲まなかったらカレシの方を同じ目に遭わせればいいしね、ちょうどゲイの知り合いいるし」
「うっわ、女の子カワイソー」
かもねと笑い、麻上が女性の髪の毛を掴んだ。
「でもさ、コイツがぶつかってきたのが悪ぃんだぜ?
ねぇ聞いてるー?」
女性に呼び掛け、麻上が頬を打つ。
そんな中、ふとある話題が麻上達の周りで盛り上がった。
「そういやさ、ドレイ君だっけ?
アイツってまだ生きてるんだっけ?」
「ドレイ君……あぁみおとね、生きてるよー。
なんなら、多分だけど今も事件の犯人追跡してると思う。
今さー面白い事件があるんだよね。
知ってる? 無差別に鬼が殺害されてんの」
麻上が周囲に問うと周囲は頷く。
「その調査やってるみたいでさー、どーせ今はアレだろ、風魔か因幡、んで煌月のどっかに張り込んでるだろ」
「え、なんでその家なんだ?」
取り巻きのそんな問いに対して、麻上が灰皿代わりに煙草の日を男の頭に押し付けて消してから、答えた。
「んー、たんにあの家が鬼狩りの名門だからだよ。
んで、確か……因幡、いや違う。
風魔。風魔ってさー、二十代以降から鬼に対して殺害衝動がすげぇ速さで芽生えるみたいなんだよねー。
現に蒼龍の弟もソレに芽生えて秘密裏に殺されたって噂あるし。
みおとはそれ知らないと思うけど、鬼を殺せるってなったらシンプルに鬼狩りの一族を疑ったんだと思うぜ」
「へぇ……え、じゃあ犯人ってもしかして?」
「そ。多分だけど蒼龍じゃね?
あ、そうだ。みおとに蒼龍捕まえたらオレの家に寄越すように言おうかな。
アイツには心底ムカついてたから、ゆっくりいたぶって殺してやりたいんだよなぁ」
そう呟いて、麻上が携帯の画面を開いてメールのアイコンに指を進める。
が、麻上は電源を消して、携帯をポケットにしまい込んだ。
「アレ、送んねぇの?」
「んー? うん、そういやみおとと蒼龍って仲が良かったしさ。
こういうので変に手を噛まれてもなって思って。
ソレに、ちょっと欲情しちまってさ。
おい、アバズレとクソもやし」
そう麻上に陵辱の限りを尽くされた二人に声を掛け、麻上は笑う。
その姿はまさに悪魔。
しかし、本人にとっては慈愛ある天使のつもりであった。
「先に言っとくけど……チクっても警察には意味ねぇからな?
マスコミにもだ、親父が口止め料払ってくれるからさぁ。
寧ろ、分かったらオレらがまたてめぇらのこと嬲ってやるよ。
免許証も見たから、住所とか知ってんからな?」
しかし、二人にとってはそれは”いつでも家に乗り込んでやる“という、悪魔のようなお告げだった。
そして、麻上が服を脱ぎ始め、
「さぁて、第二ラウンドといこっか♥
あ、男の方はしっかり見とけよ?
彼女が犯されてる光景を、無力だって嘆いて、おっ勃ててよぉ!!」
さらに二人に追い打ちを掛けるべく、行為を始めるのだった。
その行動に周囲は呆れながらも、麻上と共に陵辱を再開させたのだった。
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───結局、蒼龍は見つかることはなく、追跡を打ち切った。
が、その代わりにオレは、蒼龍の家の前へと着き、中に入ろうとしたところを侍女の人に止められていた。
「お待ちください、令状は持っておられるのですか!?」
「あります、ここに」
……これは偽物だ、こんなことバレたら大目玉食らうが知ったことではない。
とにかく、蒼龍は加害者側ということではない、それは本人も言ってたし信じたい。
だがしかし、ならばこそ蒼龍のやろうとしていることが知りたい。
彼は何をなそうとしているのか、それはある程度予想はできた。
───まだ、仮定の段階だが藤也は被害者側で、蒼龍は藤也の為に何かしらの調査を手伝っている……のだろう。
なぜ休職をする必要があるかは、恐らくは鬼狩りの名門の家に関する事だろう。
以前、オレは楓季さんに聞いたことがある。
鬼狩りは殺人、または無罪の鬼の殺害をすることで鬼と同じ処遇になると。
それは、鬼狩りの名門達の出生に関わっていることだと。
彼らの先祖は殆どが粗暴な人柄であり、鬼を殺さなければ人を殺す可能性が高かったらしい。
それを、当時の幕府が鬼狩りとして仕事を与えて、存在意義を持たせたようだ。
戦後になってもその名残は残ってしまったようで、鬼狩りは解体されることなく、続いていた。
……つまり、彼らの一族の誰かが罪を犯し、蒼龍と藤也がそれを追跡、及び処罰を下そうとしている、それがオレの仮説だ。
捜査対象ということもあるが、二人だけにそんな汚れ役をさせたくはない。
なぜ家に来たのか、それは犯人の正体を確定させる為だ。
多分、資料かなにかに写真が貼られているはずだし、そこで手掛かりを得たい。
犯人像を確定さえさせてしまえば、二人よりも先に見つけれる可能性がある。
「中に入らさせて貰います。いいですね?」
事務的に、機械的に侍女の美江さんに訊ねる。
しばらく沈黙を貫いた後に、美江さんがため息をぽつりと吐き出して、
「……今、蒼龍様がなされていることを言えばよろしいのでしょうか?」
そう、オレに訊ねた。
オレは頷いて、無言で言葉を促す。
観念したのか、美江さんが口を開いた。
「─────蒼龍様は、この家では処刑人という役割が御座います。
それは、他の鬼狩りが殺人という罪を犯した場合にのみ動くのですが、つい先日の連続鬼殺害事件において蒼龍様は確信があるのか、その犯人を追っています」
「その犯人は?」
「…………………………」
美江さんが黙り始める。
目元には涙が溜まっており、犯人になにか思うところがあるのだろうか。
美江さんに申し訳ないなと思いながら、心を魔にしてオレは再度、美江さんに言うように問い詰めた。
「もう一度聞きましょう。
犯人の名前を口にしてください」
さらに数秒の間美江さんが沈黙した後に、呼吸を整えて美江さんが答えた。
「───藤也様。
蒼龍様な、幼い頃からのご友人を心を鬼にして……」
美江さんの仮面が剥がれる。
それと同時に泣き崩れ、その場で過呼吸じみたこととなる。
……予想は、出来た。
けど、違って欲しかったし、違うとも思った。
だって、そんなことをする奴ではない。
告げられた真実に、オレは思わず歯を噛み締めるのだった───。
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