メビウスの帯

双葉 黄泉

第1話凶行

「おいっ!大丈夫かよ!?さすがにヤバくねえか!?」

「今更何言ってんだよ!ここまで来たらヤルしかねえだろうよ!」

「それにしても、この女……なんかおかしくねえか?こんな事されてるのに無抵抗だし、叫び声一つ上げやしねえ……」

 

 闇夜の一面が深夜から明け方へとその姿を変えようとしていた頃。人の気配一つ感じない雑木林の奥深くで白いワゴン車に乗った三人の男達が凶行に及んでいた。被害者である少女は表情一つ変えずに男達の様子を見つめていた。


「終わったか?もういいか?」

「ああ、もういいよ。なあ、アキラ?」

「そうだな……にしてもこの女ときたら。まさかのマグロ対応かよ……」

「どうでもいいよ。スッキリしただろ?この女はもう用済みだ!」

「はい!お疲れ様です、お嬢ちゃん。パンツを履いて、お洋服を着ましょうねぇ~!」

 

 三人の男達は笑みを浮かべながら、乱れてしまった少女の衣服や髪形を直してあげていた。

「しかし、この子は不思議ちゃんだねぇ。感情というものを失くしているような……」

「よし、そろそろ行くぞ!その子はここで降ろして!」

「なんだかいろいろごめんね。痛かったろうよ……」

「謝ったってしょうがないだろうよ!運が悪かっただけだよ!」

「じゃあ、まだ暗いから気を付けてね。ありがとう……」

 

少女はそのまま雑木林の中で解放された。男達が乗った白いワゴン車は雑木林の地面に堆積していた落ち葉を掻きむしるように徐々に明るくなりかけていた景色の中を走り抜けていった。少女はワゴン車の行方を見届けた後、解放する時に返してもらった携帯電話を手に取った。

空がようやく明けてきて、雑木林に生い茂った草木の隙間から微かな光が差し込んできた頃、少女は落ち葉を踏みしめながらゆっくりと明かりが差し込む方へ向かって歩き出した。



 あの事件から十二年の歳月が流れようとしていた。

 少女はあの時の事をまだ誰にも喋っていない。

 両親は一晩中帰って来なかった娘に何度もその理由を尋ねたが、答えようとはしてくれなかった。


明梨あかり!ねえ明梨、ちょっといいかな?」

 都内の高層ビルの二八階にオフィスを構えるIT系企業「株式会社 ムーブメント」

総務部で働く山科やましな は、同期入社でその仕事ぶりには社内の誰もが一目置く存在のもりさき 明梨あかりに、今日の午後三時から始まる会議の資料の最終チェックをお願いしてきた。これは、今日に始まったことではない。沙希にとって明梨は、とても頼りになる同僚であり、お互いに何でも話し合える親友でもあった。


「う~んと。ここはね、背景の色をもう少し明るい色にして、このグラフは参考指標を表示させた方が、データが分かり易くていいと思うよ!」

「そっかぁ~!いつもありがとう!あ、後ね、明梨!」

「ん?どうしたの?沙希」

「あんまり大きな声で言えないから……」

 沙希はそう言って何か書いてあるメモ用紙を明梨に渡した。

「何だろう?」

 明梨はそのメモ用紙を暫くの間眺めていた。

「じゃあ、また後で!サンキュー!」

 そう言い残して沙希は自分のデスクに戻っていった。


「マーケティング部のイケメン男性陣から飲み会の誘い有り!今の所女子の参加予定は総務部では私と明梨だけだよ!日時は今週の金曜日の午後七時から。場所は駅からちょっと離れた居酒屋「カスミ」ってお店だよ!私は参加するつもりだけど明梨も勿論来るよね?ヨロシク!」

 明梨はメモ用紙に書かれた沙希のメッセージを読み終えると自分のパソコンのメールボックスを開いて軽やかなタッチタイピングで文章を打ち込み、送信ボタンをクリックした。


「夜の九時までなら参加できるよ!その後用事があるから二時間だけ!」

 明梨が送ったメールは直ぐに沙希のパソコンに届いた。その内容を確認した沙希は、この飲み会の幹部であるマーケティング部の斉藤さいとう はじめにその旨をメールで送った。


「よしっ!私も明梨もいい人と出会えますように……」

 沙希は、そろそろ彼氏が欲しいこの時期にタイミング良く舞い込んできた飲み会のチャンスを決して逃すまいと意気込んだ。それに対して明梨は、特に浮ついた様子を見せずにいつもと変わらずマイペースに仕事を淡々とこなしていた。

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メビウスの帯 双葉 黄泉 @tankin6345

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