サクラが舞い散る時、新たにサクラは咲く

黄色いキツネ

第1話 学園のアイドルとのファーストコンタクト



 学校の裏には林があり、そこを抜けると広い草原が広がる。

 その辺り一面に広がる草原の中央には、一際目立つ立派な一本桜が存在する。


 樹齢600年とも言われる立派な大山桜。


 ここは、ある一部では有名なスポット。


 それは・・・


 この桜の下で女性から想いを遂げ、それが受け入れられたのなら・・・

 その2人は永遠に結ばれて幸せになれる。


 そんなジンクスが、まことしやかに伝わっている。


 その為、この場所は告白スポットとなっており、ここで告白する者は多い。


 どうしてその様なジンクスが生まれたのかというと、一つの諸説として・・・


 不思議な事に普通の桜の木と違い、3月下旬から5月中旬くらいまでの長い期間も桜の花が咲き続ける。


 本来、淡く儚い桜の花がそれだけ長く咲く。

 それが、恋が長く成就するという事に結びつき噂として広がった・・・


 というのが、一番有力な説とされている。


 しかし、もちろんこの場所で告白したからといって、必ずしも成功するわけでは無い。

 数多の人達がここで告白した結果、その内の大半の者が玉砕し、わずかの者だけが結ばれているというのが実情である。


 とはいえ、結ばれた者は本当に幸せになっているという噂も多くあり、そのジンクスにすがるだけの価値はあると考える者も多い。


 実際に幸せになれるかどうかは置いといても、その噂のせいでこの場所が告白スポットである事には間違いない。

 だからここに呼ばれた時点で、告白以外の目的はないと言っても過言では無い。



 そして俺は今・・・


 その有名な桜の木の下にいる。


 なぜなら・・・


 俺はある女子に呼び出されていたから・・・


 その俺の目の前には、緊張したように佇む1人の美少女。


 その女の子は恥ずかしそうにしながらも、意を決した顔つきへと変える。


 そして・・・


「・・・好きです!私と付き合って下さい!」


 俺は生まれて初めて女の子から告白された。

 そのせいで、俺は動揺し・焦り・舞い上がり・・・


「えっ、あっ、は、はい・・・」


 と、言った・・・


 言ってしまったのである・・・


 その瞬間に一筋の突風が吹き抜け、地面に落ちた桜の花びらが舞い、桜の木から花びらが全て落ちたような錯覚に陥った。


 そして・・・

 その時から、僅かに噛み合い始めていた運命の歯車が外れ、俺の思わぬ形で別の歯車と噛み合い動き始めてしまったのだった・・・




 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・




 高校に入学して間もない頃。

 廊下ですれ違った1人の女の子を見た瞬間に衝撃が走った。


 一目惚れ・・・

 と言うわけではないが、こんなに可愛いが本当にいるんだと驚愕したのだ。


 俺がそう感じたように、学園の男子達も同様に感じたらしい。

 彼女は一躍して学園のアイドルと言われる存在となる。


 そのおかげでクラスの違う俺にまで、彼女の名前が勝手に耳に入ってきた。


 彼女の名前は佐倉瑞樹さくらみずきというらしい。


 彼女の名前を知った瞬間には、これはもしかして運命なのでは?と勝手に思ってしまった。

 そう思った理由は、また後程・・・


 それからは、佐倉瑞樹の名前を聞かない日はなかった。


 さらには様々な噂まで聞こえて来るようになった。


 入学から数日で男に告白された人数が二桁にのぼったとか、その全てが玉砕したとか、実は芸能事務所に入っているとか・・・

 どれが本当でどれが嘘なのかもわからないほどに。


 だがそれが故に、最初に感じた運命という言葉は俺の中で次第に消えていく。

 というのも次元の違う人に思えてきて、俺自身も彼女を芸能人のアイドルを見るのと同じような感覚になってきたのだ。


 いや、佐倉さんを本当にアイドルだと思っているわけではなくて、恋する相手としては遠い存在のように感じてしまったという事。


 それにどうせクラスの違う俺には接点もないし、もしあったとしても俺程度など見向きもしないだろうという思いも強かった。


 そのため恋心とは掛け離れていき、いつしか彼女に対して特別な感情を抱く事は無くなっていった。


 とはいえ、周りが佐倉さんをアイドルだと騒ぎ立てれば立てるほど、皆は彼女の事をきちんと佐倉瑞樹という1人の女の子として見ているのだろうか?と勝手に気にかけてはいた。


 俺自身については、部活には入らず金を稼ぐためにバイトを始め、バイトの無い日は友人と遊んだりする毎日を過ごす。


 そんな生活を送っている内に、気がつけば既に1年が過ぎていた。

 この1年で変わった事といえば、貯めた金が目標としていた金額に達した為にバイトを辞めたくらいか。


 まあ、それはいいとして・・・


 晴れて2年生となり、登校した俺は張り出されていたクラス替えの紙を確認した瞬間。

 心臓がドキッっと大きく跳ね上がった。


 俺が自分のクラスを確認するのと同時に、同じクラスに佐倉瑞樹の名前を見つけたからだ。


 不覚にも、忘れかけていたはずの彼女を最初に見た瞬間の感覚を思い出していた。


 俺はそのままボーっとクラス表を眺めていると、後ろから声をかけられる。


「おっす、水輝ミズキ!何ボーっとしてるんだ?お前は何クラスだったんだ?」


 と、1年の時に同じクラスで仲良くなった、松田駆マツダカケルが声をかけてきた。


 そう、駆が俺の名を呼んだ事からわかるように、漢字は違えど佐倉瑞樹と同じ名前・ミズキなのだ。


 一目惚れしかけた相手が、自分と同じ名前。

 俺が彼女の名前を知った時に、運命なのかと感じたのはその為である。


 本当に、ただそれだけなんだけどさ・・・


 ちなみに俺の名前は由比水輝ユイミズキ


 子供の頃は由比という苗字は、ユイちゃんとバカにされたりもしたので嫌だったが、ある程度大きくなってからは、ユイちゃんと呼ばれた俺が返事をした時の、俺の事を知らない周りの人達が“男かよ!”と驚く反応が楽しく感じるようになった。


 まあ、そんな事はどうでもいいとして、駆に返事をするべく振り返る。


「よう、駆。俺は3組だったよ。非常に残念で悲しい事に・・・駆も同じクラスみたいだな」

「お、既に俺の事も確認してくれてたんだな!って、なんで俺と一緒で残念なんだよ!むしろ喜ばしい事だろうが!」


 俺は自分のクラスを告げて、悲しくも駆と同じクラスだと教える。

 もちろん冗談であり駆もそれがわかっているために、笑いながら俺と一緒で嬉しいだろ?という顔を見せてくる。


「喜ばしい事かは知らんけど・・・まあ、また宜しくな」

「おう!こちらこそ」


 俺が駆の肩をポンポンと叩くと、駆は俺に肩を組んで返してきた。

 そして駆は、そのままクラス表へと目をやる。


「おお、なんと!佐倉瑞樹ちゃんも同じクラスじゃないか!」

「ああ、そうみたいだな」


「なんだよ、お前も既にチェック済みかよ!このこのぉ!」

「いや、そういうわけじゃないし。同じクラスに誰がいるのか確認するくらい、当たり前だろう?」


 人の胸に肘をグリグリしてくる駆に若干うざいと思いながら、別に興味はないという風に答える。


「ま、そうだよな。お前は周りが佐倉さんの事で騒いでいても、あまり興味無さそうにしてたもんな」


 実際の所、全く興味が無かったわけではなかった。

 だが、思いを募らせるだけ無駄だと悟ってしまってからは、彼らのように過剰に反応するのをやめただけだ。


「それはともかく、早く教室に行こうぜ」

「ん、ああ、そうだな」


 俺がいつまでもここに居ても仕方ないと促すと駆も素直に従い、玄関で靴を履き替えて教室へと向かう。


 2年の校舎は3階。

 1年の時は4階まで上がっていた事を考えると、少しは楽になるなと考える。


 そして2年3組の札が付いている教室を見つけて中に入る。


「みんな、おはよう!今日から宜しくな!」


 駆は俺に続いて教室に入るなり、教室にいるクラスメイトに向かって大きな声で挨拶をしていた。


 俺は1年の時のクラスメイトや顔見知りだけに挨拶をして、黒板に張り出されている座席表を確認しにいく。


 そして自分の名前を見つけた、その瞬間。


 ドキッ!!


 と、再び心臓が跳ね上がった。


 それはなぜかというと・・・


 席順は廊下側の前から順に男子50音順に並んでおり、その後に続いて女子が50音順に並んでいた。


 そして俺の苗字は由比なので、男子の中では後の方になる。

 従って、必然的に女子が隣に来る事になるのだが・・・


 その隣の女子こそが、佐倉瑞樹であったからだ。


 自分の隣にある名前を見ると、自分では平静を装っているつもりでも心臓の高鳴りが止まらない。


 それでも俺は何とか落ち着かせようと一度大きく深呼吸をしてから、特に何事もなかったフリをしながら振り返って自分の席を見た瞬間・・・


 本日3度目の、心臓が跳ね上がってしまう。


 というのも・・・

 俺の席の隣には、すでに彼女がいたからだ。


 心臓の鼓動が外まで聞こえるのではないかと心配になるほどの感覚を覚えながら、ゆっくりと一歩ずつ前に進み始める。


 そして、重い足取りで何とか自分の席まで来ると・・・


「あ、おはよう!え~と、由比水輝くん、だよね?」


 と、彼女の方から満面の笑みを俺に向けて話しかけてきたのである。


 まさか彼女の方から声をかけてくるとは、思ってもみなかった。

 しかも、彼女が俺の名前を知ってくれている。


「あ、ああ、う、うん。そうだけど・・・何で俺の名前を?」

「え?だって、座席表を見たからね」


 それを聞いた俺は当たり前の事すぎて、恥ずかしさで穴があったら入りたい衝動に駆られた。


「あ、ああ、そりゃそうだよね。あ、あははっ・・・」


 俺は誤魔化すように、頭に手をやりながら乾いた笑いを浮かべていた。

 しかし次の瞬間に、彼女は思いもよらない事を口にする。


「というのは建前で、本当は君の事は前から知っていたんだよね」

「え!?」


 その言葉には、正直かなり驚いた。

 違うクラスで接点は無かったはずなのに、学園のアイドルとまで呼ばれるような彼女が俺の事を知っていたと言う事実に。


「だって、由比くんの下の名前は水輝ミズキでしょう?そして、私も同じく瑞樹ミズキなの」


 うん、もちろんそんな事は承知済みだけど、それが俺を知っている事に繋がる理由がわからない。


「それでね、たまに廊下とかでミズキ!って呼ぶ声が聞こえたから、私が呼ばれたと思って振り向いたら、私じゃなくて君に向かって言っていたみたいなんだよね・・・確かに考えてみたら、男子に名前で呼ばれた事ないのに反応して振り向いた私は恥ずかしかったよ・・・」


 そう言いながら彼女は、照れ笑いを浮かべる。


 俺を呼んだ主は、間違いなくあの男だろう。

 駆の声は無駄に大きくて、よく通るのだ。


「そういう事が何回かあったから、私は君の名前が気になって友達に聞いたら教えてくれました」

「そうだったんだ。ごめんね、迷惑をかけたようで」


 彼女の話を聞いている内に、徐々に平静を保てるようになってきた。


 そして、話を聞き終えた俺は素直に謝罪しつつも、彼女が自分に興味を持ってくれていた事を心から嬉しく感じていた。


「ううん、全然そんな事ないよ。逆に由比くんの事が知れて良かったと思ってるよ」


 笑顔でそう言われてしまえば、再びドキッとするのは致し方のない事だろう。

 それをなるべく表に出さないようにしつつ、俺も出来るだけ笑顔を見せながら話しかける。


「いや、俺の事を知った所で・・・良い事なんて何一つもないでしょ」

「ええ?何でそんな事言うの!?私は本当に良かったと思ってるんだよ!?」


 俺の言葉を聞いて、彼女は頬を膨らませながらプンプン怒るような仕草を見せる。

 それが何だか可愛らしい。


「あ、ああ、何かごめん。俺を知る良さは全く理解できないけどね・・・」

「ふふっ、何それ?いいよ、君の良さは私がわかっていれば」


 自分自身の良さなんて、本当にわからない。


 だから冗談っぽくもそう言ったのだが、それに対する彼女の返しにドキッとさせられてしまった。


 ほんと、何度俺をドキドキさせれば気が済むんだよ・・・


「それはそうと・・・同じミズキ同士として、これから宜しくね!由比くん」

「ああ、こちらこそ宜しくお願いするよ、佐倉さん」


 これが彼女・佐倉瑞樹と俺のファーストコンタクトであった。






 ―――――――――――――――



 お読み頂きありがとうございます。


 本当は最後まで書き上げてから載せようと思っていた作品ですが、最近全く気合が入らないため気合を入れ直すために未完のまま投稿しようと思います。


 タイトルは変更するかもしれません。


 本日はこの後に2話を予約投稿しております。

 それ以降は書き上がっている所までは毎日投稿致します。

 そこまで長い話ではありませんので、どんなに長くても15話前後だと思います。


 途中行き詰まったりはしていますが、ストーリーそのものは決まっています。

 なので、温かい目で見守って頂けると幸いです。


 よろしくお願い致します。

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