兄妹
フィールドスコープを覗いて何分立っただろうか?
腕時計を見てみると20分が経過していた。
そろそろ良いだろう。
スコープを机の上に置いて部屋のドアで寛いでいる男性に体を向く。
それに「やっとか…」と男性は言い、ため息を吐く。
「あの怪物は貴方に7。私に3。どう?これは適正価格よ。」
「良いのか!?」
男性は驚いたように目を開く。
しかし、それには理由があっての事だ。
「当たり前よ。まだ死にたくないしね?」
そう言うと男性は理解したのか諦めたように、または降参を示すようにまたため息を吐いた。
今度は大きく吐いた。
「…なるほどな。勘が良いって事か。待ってた甲斐があったってもんだな。」
「それは良かったわ。そして、邪魔しなかった事に感謝する。」
「それはしないよ。俺は女たらしって自称してるんだ。」
「その頬の傷をスナイパーから付けられたからじゃなくて?」
そう言うと男性は怪訝な顔をした。
「カマを掛けたらすぐに反応が出たわね?」
「…チッ。じゃあな。7:3。だったな?」
「ええ。7:3。全額からね?」
そう言うと男性は背を向けて歩き始めた。町に戻るのだ。
コツコツと足音が遠ざかって行き。そして、耳に聴こえなくなるまで離れたのを確認したらスナイパーライフルを構えた。
カーテンは張り直して穴が塞がっている。
フィールドスコープで怪物は確認している。
そろそろか、と怪物を監視から狩る事にした。
ビルに頭が隠れているが、あれはT型だ。
強硬な毛と筋肉に守られている怪物だ。
狙うはアキレス腱。
あの怪物の唯一露出した弱点とでも言える部位だ。
片方の脚が動かなければ立つ事も這う事だって出来ない可愛そうな動物だ。
人間だって片方の脚があればピョンピョン跳ねて逃げる事が出来るのに。
「すやすやと眠っている可愛そうな動物。助けは無いけど救いはあるよ?大丈夫。痛いのは数分だから。出血多量で死ぬ人間の言い分だけどね?」
微笑みを作り、しっかりと計算する。
ここから向こうまで約600mだろうか?
そこまで離れていない。
ちょこっとライフルを上げて横を合わせる。
観測によると今は風が吹いていないらしい。
「スゥーッ…」
先ほどよりもしっかりと息を吸い、体を固定する。
そして、トリガーがまた指に食い込んだ。
撃針が後退し、ストックから肩に反動が伝わり、3脚がまた後ろに下がってスコープの奥が何もない広場を写した。
…いや、何もない訳ではなかった。
硝煙とカーテンで見えづらいが、そこには子供が2人。
男の子と女の子が居た。
詳細はわからないが、これは早とちりした自分が悪い。
焦りは禁物だ。
瞬きをしてしっかりと獲物をもう一度捉える。しかし、そこには居なかった。
外した…!?
それだけはダメだ。
現実的にそれは本当にダメだ。
スコープをブンブン振り回して獲物、いや。殺害対象を探す。
そして、砂煙を発見した。
居た…!でも、あの方向はマズイ!?
すぐに砂煙の一番前へとスコープを移動させる。
建物の間から黒く大きい影が見えた。
間違いない。外した…
次の射撃ポイントへとスコープを移動させる。
幸いにも今さっきよりも離れてはいない。
これなら対象が出てからでも間に合う。
狙うは対象の目。
あそこなら高確率で脳ミソを震盪させれる。
コッキングをした。
「スゥッ!」
一気に吸い込んだ。
肺が突然の事に圧迫するが、スコープはまったく揺れない。
カランカランと空薬莢の鳴る音が収まったその瞬間。トリガーは限界まで引かれた。
その時の景色は今でも覚えている。
怪物が建物へと突進したのは…
~???~
妹が泣いている。
脚が痛い。
腕も、腹も。
「…てて!い…た……るから!」
瓦礫の向こうから声が聴こえる。
女性の声だ。
頭が動かない。
視界がしっかりと瓦礫を捉え始めた。
いや、目の前にあるこれだけは瓦礫じゃない。
これは、怪物だ…
「ッ!大丈夫!?」
妹が助かったようだ。
良かった…
そう安心した。
でも、女性は妹だけじゃなく。僕まで助けてくれた。
「ウンッショ!!良かった…今助けるからね?結構痛いけど我慢して!」
「アッ!?グゥ~ッ!??」
とても痛かった。
でも、あの時よりはマシだ。
このぐらいなら我慢できる。
「ハァ…ハァ…良かった。しっかりと捕まってね?貴方が一番の重傷なんだから…」
その後はあまり覚えていない。
覚えているのは遠ざかる瓦礫と女性の服。
ビルの上まで息を切らしながら走る女性の音。
部屋の天井を見たのが最後だった。
その後は疲れて眠ったんだと思う。
とても怖かった。でも、助かった…
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