【IFルート】偶然助けた女の子が俺が激推ししている大人気バーチャル配信者だった
遥透子@『バイト先の王子様』書籍化
神楽芽衣(不可思議ありす)編
神楽芽衣との出会い
IFルートが始まりました。まずは神楽芽衣編です。
こちらでもよろしくお願い致します。
本編と被る導入部分なので、この話は駆け足気味に進みます。
本編未読の方は是非そちらから読んでみて下さい。
『偶然助けた女の子が俺が激推ししている大人気バーチャル配信者だった』
https://kakuyomu.jp/works/16816700426593017233
◆◆◆
『あら……カフェオレが切れてしまいました。このマッチが終わったらコンビニに買いに行ってきますね』
電車に揺られながらぼーっとこおりちゃんの配信を観る。俺にとってこおりちゃんの配信を観ることは医療行為に近い。
華麗にキャラクターを操作するこおりちゃんに見とれているうちに、気が付けばこおりちゃんはチャンピオンになっていた。こおりちゃんはバーチャル配信者の中でもダントツでエムエムが上手で、見ているこっちまで上手くなったような気になれるんだよな。
『じゃあ皆さん、ちょっと行ってきますね。始まったばかりなのにごめんなさい』
こおりちゃんがカフェオレを買いに離席する。多分十五分は戻ってこないだろう。
丁度よく電車が最寄り駅に到着し、俺はミュージックを音楽再生に切り替えた。聴くのは勿論この前リリースされたこおりちゃんのオリジナル曲。バラード調の楽曲がこおりちゃんの甘々なロリボイスと妙にマッチしていて、中毒性が高いと評判になっている。
「…………」
ホームに降り立ち、死んだ顔で帰路に着く。
生きていて楽しいことと言えばこおりちゃんしかない。
後のことは全て、どうでもよかった。
◆
街灯のない真っ暗な道を十分ほど歩くと俺が住んでいるマンションに辿り着く。
八畳一間のワンルーム。
家というよりは寝床という認識が近い。ここには寝に帰るだけだ。
適当にリュックを放り投げると、パソコンを操作してこおりちゃんの配信ページにアクセスする。こおりちゃんはもう帰ってきていた。今は次のマッチングまで待機しているところだ。
『「もうすぐ第二回MMVCですが、緊張していますか?」 うーん、緊張はしていませんが優勝したいとは思っています。誘って下さったメモちゃんにお返しがしたいですから』
MMVCというのはバーチャル配信者オンリーのエムエムの大会だ。
こおりちゃんは第一回MMVCに出場したことがきっかけで大きく知名度が上がった。こおりちゃんの腕前はプロ級と言っても差し支えなく、多くの視聴者にその実力が知れ渡ったことがきっかけだ。あとはペアを組んだ相手がトップバーチャル配信者の姫こと
「…………次は優勝して欲しいなあ」
冷蔵庫から取り出した缶チューハイを開けながらつい呟く。
実力ではこおりちゃんは間違いなくダントツに上手だ。次に上手いのは多分前回優勝者のバレッタという、これまた大人気なバーチャル配信者なんだが、それでもこおりちゃんとは実力差があるように感じた。ランクもこおりちゃんの方が上だしな。
『マッチングしましたね。次もチャンピオン目指して頑張ります────うーん、これは被ってしまいますね』
次の試合が始まった。
エムエムというゲームは序盤は戦闘を避けた方がいいんだが、こおりちゃんは早々に戦闘に巻き込まれてしまっていた。これだと拾った武器が強い方が勝つといった運の勝負になってしまいやすい。そして、運悪くこおりちゃんの周りには最弱クラスの武器しか落ちていなかった。負け濃厚だ。
けれど。
『…………よしっ、何とか勝てました』
こおりちゃんは建物のドアを上手く利用して相手の弾を避けるとそのまま押し切ってしまった。これが実力差か。俺だったら間違いなく瞬殺されていただろう。
『開幕から戦闘は冷や冷やしますね』
口ではそう言うが、戦闘中こおりちゃんは完全に落ち着いていた。まるで自分が勝つことが分かっているかのようだった。やはり上手い人はどんな状況でも焦らないんだなあ。
「…………ぷはっ」
こおりちゃんの配信を観ながら勢いよく缶チューハイを喉に流し込む。この瞬間の為に生きていると言っても過言ではない。
自分でもどうかと思うが、今の俺には本当にこれしかない。
…………もしこおりちゃんが配信を辞めてしまったら俺はどうなるんだろうか。
死ぬのかな。いや、死ぬ勇気もないような気がする。多分今までのようになんとなく生きていくんだろう。
◆
「バーチャル配信者と────仕事!?」
驚いて、思わず口に出してしまった。
許してほしい。とんでもない事が起きているんだ。
「ああ」
課長はさほど興味がなさそうに紙の束を丸めてパンパンと手を叩いている。あれが資料なんだろうか。
「だっ、誰なんですか!?」
「なんだ岡、そんなに慌てて。こういうの好きなのか?」
課長は丸まった紙の束を投げてよこしてくる。俺はそれを急いでキャッチすると、焦る手を押さえつけながらページを捲った。
「
「なんだ? 凄い人なのか?」
「バーチャル配信者の中でもトップの中のトップですよ! 確か全員チャンネル登録者百万人を超えてるはずです」
「それは凄いな。…………よし、何か詳しそうだしこの件はお前に任せるから。喜べ、本人たちと会えるぞ」
「えっ!?」
課長の一言に心臓が早鐘を打つ。
俺はこおりちゃんの配信ばかり見ていて他のバーチャル配信者は正直あまり興味ないけれど、それでもメディアなどでよく目にする大人気バーチャル配信者達と会えるというのは嬉しかった。恐らくファンの中には百万円払ってでも会いたいという人も沢山いるだろう。それくらい貴重な機会だ。
「大体のことは資料に書いてあるから。結構軽い案件だと思うから片手間に頼む」
課長が何か言った気がしたが耳に入っていなかった。俺の意識は既にバーチャル配信者との邂逅を夢想して大空に羽ばたいていた。
◆
課長から案件を任されて早二週間が経った。
今日は待ちに待ったバーチャル配信会社『バーチャリアル』との打ち合わせの日だ。
待ちに待ったとはいえ、緊張はするもので。
「…………うう……」
俺はさっきからキリキリと胃が掴まれるような痛みを戦っていた。
一足先にミーティングルームに来たはいいものの、いつ来るんだと気になって心が全く落ち着かない。こんなことならギリギリに来ればよかったな。
「…………はあ」
トイレにでも行って気持ちを落ち着かせるか────と思ったその時、スーツ姿の若い女性を先頭に彼女たちはやってきた。
急激に速くなる鼓動。酸素を求めて必死に呼吸を命令する脳。極度の緊張に頭が全く回らない。やばいやばいやばい。
俺が内心あたふたしていると、先頭に立っていた女性がこちらに歩み寄ってきた。慌てて席から立つ。
「初めまして。魔魅夢メモのマネージャーをしております平田と申します。本日は代表として私が窓口を担当させて頂きます」
「あああえーっと、初めまして! 本日担当させて頂きます岡と申しますよろしくお願いします!」
空回り気味だがなんとか挨拶を交わすことに成功。何度も繰り返してきた挨拶を口が覚えていてよかった。
「じゃあ皆自己紹介して」
平田さんが三人に呼びかける。怖くて目を合わせられないが、目の前にあの大人気バーチャル配信者達がいるんだ。
呼びかけを受けて、茶色のショートボブを綺麗に巻いた綺麗な女性が口を開いた。
「ちは────じゃないえーっと…………初めまして、不可思議ありすです。よろしくお願いします」
────それが、俺と神楽芽衣との出会いだった。
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