第15話
「初めまして。私、グロスマン商会のエーミール・キルンベルガーと申します」
六ヶ月目。教会の建設が進んでいる時のことだ。
青髪をしっかり後ろに撫でつけ、この世界では高価なメガネをかけた営業マン、いや商人が城にやってきた。
商会というのは雑に言うと前世の世界でいうところの大企業といったところか。
そうか、もうこのイベントが起きる時期かと時の速さを実感する。
エーミール・キルンベルガーは第二の攻略対象である。
クライヴが赤担当とすれば、エーミールはクールな青担当である。怜悧な瞳がメガネによりさらに眼光が鋭くなっている。
まあ攻略対象だからどうということはない。
ごく普通に接するだけだ。
「グロスマン商会というと、
彼の差し出す『名刺』を受け取る。
名刺には彼の名前と所属が記されており、つるつるとした材質でやや分厚い。
「ご存知でしたかクラウセン様。いかにも我が商会では
エーミールは僕をクラウセン様と呼び、くいと黒縁メガネに手を添えた。クラウセンとは領地の名前であり僕の名字である。
どうやらこの名刺は名刺であるのと同時に携帯のような機能があるらしい。いや形状やメッセージの容量からすると携帯よりポケベルに近いだろうか。
よく見ると小さなボタンが付いている。このボタンを押してメッセージを入力するのだろう。
「安い物ではないだろう、もらってしまっていいのか?」
ロベールも
「勿論でございます。何かご用命の際はその名刺を通していつでもお申し出ください」
エーミールのメガネがきらりと光を放った。
領主に顔を売ったついでにいつでも注文が入るかもしれないとなれば、この名刺をただでくれてやるだけの見返りはあるといったところだろうか。
恐らくだがこの名刺は誰にでも渡している訳ではないはずだ。間違いなく僕たちが領土を持っている貴族だから渡しているのだ。あるいはダンジョン村の経営者だから、だろうか。
「それでは早速ですが今日私がクラウセン様を訪ねた目的に関してお話しいたします」
目的に関しては知っているからスキップしたいが、それでは話が進まない。大人しく聞くことにする。
「我々はこのグリーンヴィレッジにグロスマン商会の支店を設立したいのです」
エーミールは真剣な眼差しで口を開いた。
「具体的な内容を三つのポイントに分けてお話ししたいと思います。一つ目は具体的に村にどのような建築物を建てたいと考えているのか。二つ目は我が商会が支店を設立することでこの村にどのようなメリットがあるのか。三つ目は開店後どのような商品を扱うつもりであるかでございます」
エーミールは空中に映像を照射する
ロベールはこのような
僕の執務室はあっという間に大企業の会議室めいた雰囲気を醸し出す。
こうしてエーミールのプレゼンテーションが始まった。
映像を照射する
ポイント1 建築物について
・店舗となるグロスマン商会グリーンヴィレッジ支店を建てます。
・
・支店の従業員や職人の寝泊まりする住居、社員寮を建てます。
・彼らが食事をする為の食堂、グロスマン食堂を建てます。この食堂は社員割引はありますが部外者も利用できます。
ポイント2 メリット
・ダンジョン探索に役立つ様々な
・生活に役立つ
・大人数で移住しきちんと税を納めるつもりなので税収が上がります。
ポイント3 メインの商品
・ダンジョン内で通信が出来るイヤリング
(違うフロアにいると通信不可)
・呪い除けの指輪などの耐性リング
・オートマッピングブレスレット
・小型ランタン
・その他多数
「このイヤリングに関しましてはもちろんダンジョンの外でも使用できます」
「ほう……」
ロベールが興味を示す。
彼の思考が透けて見えるようだ。内緒で買って僕にプレゼントしようと思っているのだろう。
エーミールもそれを察知したのか、きらりと目を光らせる。
この場で考えがバレていないと思っているのはロベールだけだ。
「さて、説明は以上です。質問はございますか?」
「丁寧な説明ありがとう。質問は特にない。グロスマン商会の支店設立についてロベールと前向きに検討しようと思う。だから、そうだな……また三日後に訪ねてきてくれたら結論を伝えよう」
「ありがとうございます」
エーミールは綺麗な礼をして踵を返す。
そのエーミールの後をロベールが追い、部屋から出ていく。
イヤリングを購入させろと伝える為だろう。恐らくエーミールは三日後にイヤリングの現物を持って現れるに違いない。
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