第13話

 ゲームオーバー時のロベールとの結婚生活が何故愛憎渦巻くものになるかと言えば、攻略対象の存在が要因の一つである。

 自分以外に大事な存在が出来てしまったアントワーヌに、ロベールは嫉妬を隠し切れなかったのだ。


 まあ今は関係ない。

 ゲーム内の攻略対象もロベールと結ばれた今となってはただの人間の一人だ。


「ギルドもない辺鄙な土地だから、マップの買い取りはやっていないのかと思った」


 不遜な態度を隠しもしないツンツンとした赤髪のイケメンはゲームの中でも特に人気の攻略対象であり、某人気声優の声帯を持つ。名前はクライヴだ。


 マップの買い取りはダンジョン村やダンジョン街ならどこでもやっている。やはりどこでも探索の進捗は知りたいのだ。


「おい貴様、タメ口とはいい度胸だな」


 あ、ロベールが喧嘩を売りにいった。


「なんだあんたは?」

「見ても分からないようだから特別に教えてやろう、貴様の目の前にいるのはこの村の領主だ」


 ロベールは僕を示す。


「へえ、それであんたは? 領主さまの召使いってわけか?」


 相手の言い草にロベールはピキピキと青筋を立てる。嫉妬云々を抜きにしてもロベールとクライヴの相性は悪い。


「貴様の目は節穴か! 私はアンの伴侶だ!」

「伴侶……?」


 その言葉にクライヴは不思議そうに僕とロベールとを見比べる。それからふっと笑った。


「領主さま、悪いことは言わないからこの男はやめた方がいい。権力を笠に着る怯懦な男だ。こういう男は大事なところで裏切るものだ。どうだ、オレに乗り換えておかないか?」


 クライヴが僕の顎に気安く手をかけようとするのを、すっと後ろに一歩下がって避ける。


「そういうところが彼の愛おしいところだから」


 僕の言葉にクライヴは驚いたように眉を上げると、降参だとばかりに両手を挙げた。


「まさかそっちがべた惚れだとはな。分かった分かった、どうやらオレの出る幕はなさそうだな」


 クライヴはわざとらしく肩を竦めると、くるりと背を向けて酒場を出ていく。


「さてと、それじゃあ早速ダンジョン攻略に行くとするかな」

「待て待て待て」


 ロベールがそんなクライヴを慌てて呼び止める。


「なんだ? まだなんか文句でも?」

「そうではない、貴様パーティはどうした。ダンジョンのソロ攻略は禁止されている!」

「そんなの知るかよ。オレは常に一人でやってきたんだ。一人で潜る」


 クライヴはソロ攻略主義者だ。

 だがクライヴに関しては心配はいらない。分け前を分けるのが嫌で浅い層を無理矢理一人で徘徊しているような冒険者とは違って、たった一人で深い層まで潜っていく実力がある。

 ゲームの中でもそうだったので彼に関しては放置するつもりだ。


「第一オレがソロ攻略することがあんたに何の関係がある? ああ、罰金でも取るか?」


 クライヴはからからと笑う。


「いや、関係も罰金もないが……貴様が危ないだろう」


 ロベールの言葉に、彼は目を丸くした。


「へえ、オレの心配をしてくれるのか――――あんた面白いな。なるほど領主さまが惚れこむワケだ」


 クライヴは愉快そうに目を細める。

 なんでロベールがクライヴとフラグ立ててるんだよ!


 クライヴが去ると、ロベールは僕にこっそり聞いてきた。

 ところで『そういうところ』とはどういうところのことだ、と。

 僕はあえて答えてやらなかった。

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