第4話 最初の事業完了です

 隣村から僕たちが住む城まで馬車が一台通れる程度の道を整備する、が一番最初の事業となった。


 僕はその場でロベールの従者の一人にそのように手配するように命じる。

 はい、これで最初の事業完了。後は道の完成を待つだけである。


「時にお前、字は読めるのか?」


 まだ床に這い蹲っているボニーに声をかけた。


「い、いいえ……!」

「他の者は?」

「いいえ、この村の者は誰一人……」


 この村の識字率はゼロパーセントである。

 知っていたことだがあえて尋ねた。


「ならば字を読めるようになれ。この先発展していくこの村の村長は文字くらい読めなければ困る。字が読めるようになった者を次の村長に据える」

「そ、そんな……!」


 突然の無理難題にボニーの顔は真っ青になった。


「そんなこと言われたって……一体どうやって文字を学べばよいのか……」


 途方に暮れた様子だ。


「おや、何も村民全員に文字が読めるようになれと言っている訳ではないぞ? 村長に就任する一名が読み書きが出来ればそれでいい」

「で、でも……」

「ところでボニー。お前は家で疎まれているそうだな?」

「へ?」


 急な話題の方向転換にボニーは目を丸くさせる。


「疎まれている理由は何でも少年の頃隣村の学校に通って勉強をすることを望んだからだとか。だがそんなことよりも農業に従事することを求められ、叶わなかった」


「な、なぜそのことを……!」


 何故も何もRTAするくらいやり込んでるから知ってるんだよ。


「何故かは今はどうでもいい。お前にやる気さえあればこの城でお前に文字を教えてやってもいいと思っている。どうだ?」


 僕の言葉にボニーはわなわなと震える。


「そ、それって、つまり……」


「別に何もお前を次の村長に指定すると言った訳ではない。ただこの城で文字を学ぶかと聞いただけだ。そしてたまたま次期村長に必要とされている能力が文字の読み書きというだけのことだ。簡単に考えるといい。お前は文字を学びたいのか? 学びたくないのか?」


 こちらは仕事できる人間を村に作りたいだけなので、彼が頷かないなら誰か別の人間を村の外から連れてきて村長にさせるだけだ。

 ロベールがじろりとボニーを睨み付ける。


「どうなんだ? さっさと意思をはっきりさせろ。こちらは貴様などにかかずらっている余裕などないのだ」


 まるでロベールは僕がRTAしたがっていることを知っているみたいにボニーを急かす。ロベール、相当短気な性格なんだな。


「お、おれは……文字をまなびてえ、です」


 ボニーがたどたどしく紡いだ言葉に僕はほくそ笑みを浮かべた。


「よく言った。よし、さっそく今日から学んでいくといい。爺や!」


 パンパン、と手を叩くと爺やが素早く現れる。


「ボニー様、あちらの空き室へ移動いたしましょう。私が指導いたします」

「は、はい、ありがとうございます……!」


 本当に文字を学んでいいのだと理解したボニーの顔はパッと明るくなる。夢を見ているかのような表情で爺やに連れられて執務室を後にした。

 ボニーは二十代前半くらいの見た目に見えるが、勉強をしたいという熱意はこの年になっても消えていなかったのだろう。


 ゲーム内で語られる彼の過去話では、自力で勉強する為に自分で金を貯めて勉強道具を買ったりしても家族に捨てられてしまうと言っていた。


 彼の渇いた知識欲がこれから満たされていくことを願う。


「それにしてもアン、考えなしに飛び出してきたと思ったのに実は村の現状ばかりか村長の息子のことまで下調べを済ませているとは、大したものじゃないか」


 ロベールが口を開いて僕を誉めそやす。

 僕が前世でこの世界をやり込んでいたとは知らないロベールには、僕が事前にこの村について調べておいたように見えたらしい。


「君がしっかりとした考えと決意をもってこの村の統治に臨んでいることが窺えて安心した」


 勝手に見直してくれているので、勘違いはそのままにさせておく。


「村に居着いてくれる商人に心当たりがあると言っていたが、そちらについてはどうするんだ?」

「ああ、その為にこれから隣村に向かう。付いてきてくれるね?」


 ロベールは案外役に立ちそうだ。

 僕が誘うと、彼はニヤリと笑う。


「もちろんだとも」


 あらかじめ従者に言いつけて馬は用意させてある。

 後は鞍に跨り、隣村に向かうだけだ。


 そこで僕たちが行うのは――――行商人狩りだ。

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