第3夜

「ローザ、出かけましょう」


ぼんやり窓の外を眺めていると、不意に彼が背後から声を掛けて来た。


「あれ?レリアナは?」


振り返るといつの間にか彼と一緒にいたはずのレリアナの姿が見えない。


「彼女なら告白部屋へ行きました」


「へ?何それ?」


「何ですか?知らないのですか?告白部屋とは信者が自分の犯した罪を神に仕える者に告白し、赦しを得る部屋の事ですよ」


彼は腰に手を当てて私を見る。


「え…?何それ?エグイ話ね…」


「エグイ?何故ですか?」


「だって、それって誰にも言えないような秘密を知ってしまうって事でしょう?いざとなったらその話をネタに強請やたかりなんか出来ちゃうじゃない」


「…」


すると、彼は何やらものすごい目で私を見ているではないか。


「な、何よ…その呆れたような、軽蔑したような目は…」


すると彼はポンと手を叩くと言った。


「すごい!良く僕の考えていることが分かりましたね?」


「やっぱりそんな事考えていたのね?!」


「ええ。それだけじゃありません。ローザこそ告白部屋に入って自分のよこしまな考えや罪を告白して、赦しを得た方がよいかもしれませんね」


「失礼ね!私には告白したい事なんて無いからね!」


そう、たった一つの事だけを除いては…。そして少しだけ頬を赤く染めながら彼を見る。


「どうしましたか?ローザ。顔が赤いですよ?」


「そ、そ、そんな事無いけどっ?!」


「あ!分かりました!」


突如、彼が大げさな態度で私を指さした。


「な、何よ?!」


まさか私の気持ちに気が付いた?!


「さてはお腹が空いたんですね?僕もそうですから。考えてみれば今日の朝食は粗食でしたからね。幸い、今日はこの町は夜からカーニバルで、もうすでに屋台が立ち並んでいます。安くて美味しい料理が出回っているでしょうから行きましょう!」


彼が私の右手を掴むと言った。


「ちょ、ちょっと!は、離してよっ!」


恥ずかしくてパッと手を離した。


「ローザ、でも外は凄い人混みですよ?もし僕とはぐれて迷子になったらどうするのですか?僕はこの町の事は良く知っているけれど、ローザはこの町に来るのは初めてでしょう?」


「で、でも手を繋ぐなんて…ち、小さな子供じゃるまいし…」


心臓をドキドキさせながら言う。


「う~ん…仕方ないですねぇ…どうしても僕と手を繋ぐのが嫌だと言うなら。袖でも握りしめていてください。本当に人が今日は多いですから」


「わ、分ったわよ。要は…トビーからはぐれなければいいんでしょう?」


私は彼の右袖をつまんだ。それを見た彼は満足げに笑みを浮かべると言った。


「よし、それではカーニバルを見学に行きましょうか?昼間ならブギーマンも出てこないのでカーニバルの雰囲気を楽しめるはずですよ?」


「はいはい、どうでもいいけど早く行きましょう、いい加減お腹すいちゃったわよ…」


そこまで言いかけて私は何所からともなく強い視線を感じた。


「!」


慌てて視線の先を見ると、そこは教会の2階の窓からこちらを睨み付けているレリアナが立っていた。


「え…?レリアナ…?」


レリアナは…憎悪に満ちた目で私を睨んでいる。何故?どうして?レリアナは私をあんなに恐ろしい目で見ているのだろう?おまけに今は告白部屋で信者の秘密の告白を聞いているはずでは…?

レリアナは私と視線が合うと、フイとそっぽを向いて部屋の奥へ引っ込んでしまった。



「ローザ、どうしましたか?」


不意に彼が声を掛けて来た。


「え?何が?」


「何がって…顔色が悪いですよ?青ざめています。熱でもあるのですか?」


言いながら彼が私の前髪をかき上げて、突然自分のおでこを私のおでこにくっつけて来た。眼前に美しいトビーの顔が…!イヤアアアッ!は、恥ずかしいっ!


「な、な~にするのよっ!この痴漢!」


バッチーンッ!!


気付けば私は彼の顔を引っぱたいていた―。


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