第2夜
「え…?ブギーマンに変装して…町を練り歩くカーニバル…?ちょ、ちょっと冗談はやめてよね?いやだな~…人の事からかわないでよ…」
笑ってごまかそうとした。ここでいつもの彼なら『ええ、今の話はほんの冗談ですよ』と言って返してくれるのに今回ばかりはそうではない。
「冗談ならいいのですけどね…」
彼は腕組みすると周囲をぐるりと見渡しながら言った。
「今夜は何月何日か分かりますか?ローザ」
「何よ、馬鹿にしてるの?10月31日じゃない。でもそれが一体どうしたって言うのよ?」
「この10月31日は…悪霊が住むと言われ門が開いて、悪霊たちが人間界へやって来る日だと言われています。そして血に飢えた悪霊が人間たちを襲う…と言われています。古くから有る言い伝えですよ」
「え…?」
「しかも今宵は新月…月が見えない夜です。いつにまして闇が濃い夜…。僕にはわかります。今夜、カーニバルに紛れて‥この町にブギーマンが現れます。本来であれば町の人達を全員家から一歩も出ない様にさせたいところですが…最悪な事に今夜は1年に1度きりのお祭りです。このお祭りを楽しみにしていた町の人達や、お祭りにかこつけて一儲けを考えているお店の人達の野望を打ち砕くわけにはいきませんからね…」
うん?最後の方は神官らしからぬ物言いをしていたけれども…。
「ちょ、ちょっと!そ、それじゃどうするのよっ!町の人達が悪霊や死霊の恰好をして夜にうろついていたら誰がブギーマンか区別つかないでしょうっ?!おまけに大勢の人達を血に飢えたブギーマンから守りながら戦うなんて事出来るのっ?!」
私はトビーの襟首を掴みながら彼を揺すぶった。
「お、お、落ち着いてください。ローザ。大丈夫ですから。」
彼は私に大きく揺すぶられながら必死で声をかけてきた。
「こ、この教会のシスターと僕は知り合いなんです。だ、だから今夜は宿の心配はありませんよ」
「だ、誰が宿の心配なんかするのよ~っ!!」
私の声が町に響き渡った―。
****
「まぁ。トビー。よく来てくれたわね」
トビーが私を連れてやってきたのはこの町で一番大きな教会だった。そして出迎えてくれたのは…。年若いシスターだった。
「やぁ。レリアナ。お久しぶりです」
トビーは右手を軽く上げて挨拶した。
「ええ、そうね。3年ぶりくらいかしら?」
「アハハハ…正確に言えば2年と10カ月ぶりですよ」
トビーは笑いながら言う。
「まぁ。相変わらず細かい人ね」
レリアナと呼ばれたシスターはまるで宝石の様にキラキラ輝く紫色の瞳を持つそれは美しい女性だった。うう…それにしても…この2人…何だか妙に仲がいいみたいだけど…一体トビーとどんな関係なんだろう?シスターと神官…それだけで十分怪しい物を感じる。私のそんなモヤモヤした気持ちに全く気付くことなくトビーがレリアナに私の事を紹介した。
「レリアナ、紹介します。彼女はローザ。僕の弟子です」
「はぁっ?!弟子っ?!」
誰が弟子よっ!私はそんなものになったつもりはないわっ?!
「あら?弟子じゃないのですか?それならトビーとはどのような関係ですか?」
「え…?」
レリアナの問いかけに言葉が詰まってしまった。関係…関係…?
トビーも不思議そうな目で私を見ている。
「え…っと‥あ、相棒…かな?」
「まぁそうだったのね?初めまして、相棒さん」
レリアナが握手を求めて来たので私も彼女の手を握りしめながら言った。
「言っておくけど、私の名前はローザ。『相棒』って名前じゃないからね?」
****
「成程…今夜、この町に貴方の敵である『ブギーマン』が現れると言う訳ですね?」
「ええ、そうです。彼らが動き回るのは完全に日が沈んでから。それまではこの教会で待機させてもらえますか?」
「ええ、勿論です。大体亡者があの世から蘇ってくることなど、断じて許されませんわ。死者は全員神様の元へ逝かなければなりません。どうぞ『ブギーマン』を倒し、神のみ元へ送ってあげて下さい」
「ええ、勿論です」
彼とレリアナが教会のベンチに座って真剣に話している声を背中で聞きながら私は窓から外を眺めていた。…本当に皆怖い仮装ばかりしている…。
今夜…トビーは無事にブギーマンを倒す事が出来るのだろうか…?
私は一抹の不安を感じるのだった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます