天使補完計画! 元ヤンを隠して、望月優君を守り抜け!
おしゃもじ
第1話 天使な望月優君
俺、山田隆の幸せな記憶は6歳までだ。
それは
出会いは3歳のあの日。
引っ込み思案で友達のいなかった俺の手を引っ張って、あっという間に俺のことを砂場まで連れて行ってしまった。
優君とはあっという間に仲良くなった。
優君のお母さんはバリバリのキャリアウーマンで、シングルマザー。
忙しいことが多く、優君は俺の家でご飯を食べたり、お泊りなんかもしていた。
本当の兄弟のようだった。いつもいつも、二人でくたくたになるまで遊んだ。
キラキラ輝いた日々。
このまま優君と小学校にあがり、幸せな日々は続くのだろうと、当然に思っていた。
小学校だって優君と一緒なら楽しいに違いない!
だけど、状況は一変する。
根っからのお坊ちゃま育ちの父が、祖父から引き継いだ会社をあっという間に破産させてしまったのだ。
俺たち家族は引っ越さなくてはならなかった。
優君のとの別れ。身を切られる思いだった。
それだけでなく、家計は火の車。
元々気が弱く、優君も失ってしまった俺は、小学校では、あっという間にからかわれる対象に。辛い日々。
しかし、母と俺は覚醒した。
これまた根っからのお嬢様育ちの母は実家に頼ることなく、父を見かねて、働きだした。
俺はというと......、「こんな俺の姿をみたら、優君が悲しむ!」と思って、いじめっ子たちと戦うようになった。
いじめっ子達はちょっと言い返せば、意外と大人しくなり、やがて子分のようになり、そしてその子分がイジメられていれば助けるようになり、そしてだんだん喧嘩が強くなり、めちゃくちゃに強くなり、気が付いたら……、中学に上がるころには上級生も恐れるテッペンのヤンキーになっていた......。
やがて母は、就職した会社の資格などを順調に獲得していき、営業成績も良好と、意外な才能を発揮。出世し部長に昇格した。
俺たち家族は優君のいた街に戻ることになった。
優君の隣の、元の家を買い戻すことができたのだ。
そうそう、父はお坊ちゃまのまま。こちらも家事という意外な才能が開花し、主夫として家のことをこなしている。
優君と別れて10年。
すっかり変わってしまった16歳のヤンキーな俺。
こんな姿……、優君が悲しむ……。とても優君には見せられない。
高校は優君と同じ学校に通えることになった。クラスまで優君と一緒。
俺は決意する!
自分がヤンキーであることを、隠すことを!
まず、オールバックだった髪を下す。
これで隣町のヤンキーとの抗争で出来たトレードマークの額の傷を隠す!
伊達眼鏡をかける。
からの、シャツはズボンにIN!
このちょっと、オタクっぽい感じ、いいんじゃないか?
どうだろう。元の俺にもどっただろうか。
洗面台の鏡を凝視している俺のことを、父がのぞいていてくる。
「どうしたの? 全然、強そうにみえないけど!? 転校デビューなのにいいの!?」
成功したようだ。
自分の息子が、転校先でメンチを切ることが当たり前みたいな感覚になってしまっている父に対して、多少の申し訳なさも感じるが、まあ、成功だ!
高校に登校する初日、玄関の扉をあけると、スラッとした高校生が立っている。
俺の気配に気づいて、振り返る美少年。
間違いない! 優君だ!
もちろん、母が優君の家に引っ越しの挨拶に行ったが、まだヤンキー感が残っている俺は、すぐさま優君に会いたかったが、控えていたのだ。
「タカシ…君? 全然変わらないね!」
優君があの時と、全然変わらない笑顔で俺に話しかけてくれる。
俺は優君に駆け寄る。
「もももも、望月君こそ! 全然変わらないよ! あの時のまま!」
優君がキョトンとして、俺に言う。
「望月君?」
優君がニコッと笑う。
「優で、いいよー」
優君が、優君のまますぎて、ヤバい! 背中に翼が見える! 天使なの!?
俺は慌てて答える。
「ゆゆゆ、優君!」
優君がハハッと笑う。
優君と一緒に学校に通える日がくるなんて!
優君と一緒に、学校に向かって歩いていると、後ろから、思いっきりタックルされる。クソッ、どこのどいつだ!?
振り返ると、同じ高校の制服の女子高生だ。
「タカシ君でしょ!? 私だよ! クララ! 草間クララ!」
「は? 誰?」
「いや、望月君とタカシ君と三人で一緒にいつも遊んでたじゃん!」
そういえば、もう一人誰がいたような。口から生まれたような子が。
「あ~、......ぼんやり」
「ぼんやり!? 確かに、あんたは優君、優君って、そればっかりだったよ!」
まあ、一緒の学校に通うわけだし…、一応名前くらい覚えておこうかな。
「草間だっけ?」
「え? 昔みたいにクララでいーよ」
「いや、いいや。草間で」
「何それ!」
「ハハハッ!」
突然笑い声がしたので、見ると、優君がすっごい笑っている! 嬉しい......。
「昔もそうやって、二人で言い合ってたよ!」
優君の、笑顔にみとれてしまう。優君が笑ってくれるなら、何でもいい! サンキューな、草間とやら!
教室の扉を開けると、優君がクラスの女子に囲まれていく。キャーキャー、叫んでいる。転校生の俺ではなく!? なんていう人気!
あっけにとられながら、草間に案内されて、机に座る。ていうか、草間まで同じクラスなのか。しかも前の席みたいだ。
草間が、ぐるりと体をひねって、俺の机に頬杖をついて、優君の方をみていう。
「すごいっしょ? 望月君。アイドルだよ。小さい時は泣き虫だったのに…。あんた達がヘタレすぎるから、私が虫とか倒してあげたのに!」
「そうだったけ?」
「本当に、あんたは望月君のことしか、覚えてないんだ!?」
俺は草間の両肩をガシっと掴む。
「な、なに!?」
草間の顔が少し赤くなる。なぜだ?
まあ、草間に聞きたいことは一つしかない。
「俺に10年間の優君を教えてくれ!」
「い、いいけど。まあ、ずっと、あんな調子。あのルックスだし、昔から勉強もスポーツも出来たし、何より、めちゃくちゃ性格がいいからさ」
「さすが、優君! てか、お前は何で『望月君』って呼んでるの?」
「察してよ! あんなアイドルと幼馴染なんだよ? 小学生までは『優』って呼んでたんだけど、中学入った時、上級生の女に囲まれたことあるんだから!」
「……苦労してるんだな! だが、俺は全力で優君と一緒にいたい! そんなことは気にしない!」
俺は席を立つと、恐れることなく女子達を払いのけて、優君のところに行く。
「ねえ! 優君! 学校案内して!」
俺は上目遣いで優君におねだりするように言う。
自分でも驚く。鷹の目と呼ばれた俺のメンチが、こんなに、「きゅるん!」とすることがあるなんて!
優君が笑顔で快諾してくれる。
「もちろんだよ、タカシ君」
女子達のブーイングと、白い目が俺に突き刺さる。
「何、あのブリッ子な男は!」
女子達の声のほかに、俺は小さな声をキャッチする。
「望月、調子に乗りすぎだよな……」
優君に良からぬ感情を抱く奴が。マークする必要がありそうだ。
俺は、決めた!
俺は望月優を幸せにするために生きる!
望月君の天使な笑顔が曇ることは俺が、絶対にさせない!
名付けて「望月優君、天使補完計画」だ!
元ヤンが、オタクのような恰好をしているだけでなく、本当に俺はオタクだったりする!
優君に学校案内をしてもらい、優君と一緒にお昼を食べ、優君と一緒に帰る。女子達が、優君に纏わりついてきたが、阻止した!
スゲー、ブーブー言われたけど、頑張った!
さすがに、女に力技を使うわけにはいかないから、ブリッコで乗り切った! なんつー、転校デビューだ、俺。
こんな転校デビューある!?
あと、常に草間がウロチョロしてた。
下校時は優君と、草間と、ファーストフード店に入る。
夢のようだ。
草間はいらないけど、昔馴染みだから、許してやろう。
下校時に、いそいそと寄ってきた。きっと草間も優君のことが好きなんだろうな。でも草間もこの10年間、優君に近づくことができなかったんだろう。女子も大変だ。
優君は俺にだけでなく、誰に対しても優しい。まるで天使だ!
みんな好きになるのも仕方がない。
優君はこのまま家路に着くのでなく、予備校に行くという。
俺たちは、優君とそこで別れる。
しかし、俺にはやることがある。
優君のことを、やっかんでた奴らのことだ。優君と楽しい時間をすごしつつも、俺はそいつらの動向に神経をとがらせていた。
人気者の優君に対して、カツアゲか何かして、少し締めて溜飲を下げようっていう計画らしい。どこにも、そんな不良はいるもんだな。
優君に声をかけようとするそいつらに、先に声をかける。
「ねえ? 優君に何かするつもりなの?」
そいつらが気だるそうに、俺を見る。
「あ? もさい転校生か。オタクは引っ込んでろよ」
「優君に何かしようってしてる奴らを前に、引っ込むわけにはいかないじゃん?」
「は? オタクが何言ってるんだよ…。やんのか?」
気迫からして、大したことない。俺はニヤっと笑って言う。
「いいよ? お先にどうぞ」
度胸があるのか、俺が相当なめられたのか、本当に殴ってきた。
伊達眼鏡が吹っ飛ぶ。
こっちの方が都合がいいけど。
俺はおろしていた髪を、元のオールバックに戻して、そいつらにメンチを切る。殴ったヤツの髪をつかんで、思いっきり頭突きをする。
そいつの痛みに耐える声が漏れる。
そしてそいつに、そのまま話す。
「おい、優君になんかしたら、分かってんのか?」
「……お前、誰だよ? 何でわざわざ、オタクのふりしてんだよ」
「うんなことは、どうでもいいだろう。優君に手出しすんな。後、このこと言うなよ」
「……、分かった……」
俺は髪をもとに戻し、落ちていた伊達眼鏡をかける。そして、きゅるん!と、振り返って、そいつらに念押しする。
「約束だよ!」
スキップして、俺は家路に着く。
優君のためになったかな!? 俺の目標は、優君を幸せにすることだから。
次の日、教室で優君と話していると、優君が俺の額が赤くなっていることに気づく。
「タカシ君、それどうしたの? 前髪で隠れてるけど、額にケガしてない!?」
「これ? ボーっと歩いてたら電柱に頭をぶつけちゃって!」
「電柱に? タカシ君はおっちょこちょいだなー」
あはははと、優君と笑い合う。そして、一応、クラスの不良グループにメンチを切っておく。すると、クラスの不良グループが俺に近寄ってくる。
「山田さん! 何か用っすか!? 山田さんS街の鷹なんすよね!? 昨日、額の傷が見えたんすよ!」
バカなの!? 言ったよね!? 内緒にしておくって! 今のメンチの意味をどう勘違いするの!? 内緒だよ?っていうアイコンタクトのつもりだったんだけど!
俺は、優君にきゅるん、きゅるん、しながら言う。
「昨日ね、みんなと、お友達になったんだ!」
「友達なんて、めっそうもないっすよ! 俺は山田さんの舎弟っす!」
本当にバカなの!? もう嫌だ! 俺はとりあえず、そいつらを連れて教室を出る。
「なあ!? 昨日言ったよな!? 内緒にするって!」
「何でナンスか!? 山田さん! その額の傷、『S街の鷹』っすよね!? 中学にしてテッペンとって、弱きを助け強きを挫く英雄じゃないっすか!」
「いやね? もう、やめたのね? もともと、その『鷹』だなんだって恥ずかしいし! 俺は、優君のために生きるの。優君は、そういうの嫌いだと思うの!」
「山田さんは、山田さんのままでいいじゃないっすか! くっそ、望月のせいで山田さんが!」
俺は、そいつを睨みつける。
「おい、優君になんかすんじゃねーぞ」
「す、すみません!!!」
ああ、なんなんだ、こいつは。なんか、やっかいな奴が。
「お前、名前、なんつーの」
「桜井翼っす」
「翼。いいか? お前が守ることは二つだけだ。優君に何もしないこと、それと俺のことを黙っておくこと」
「山田さんに名前を呼んでもらって、俺、感激っす」
「ねえ!? 聞いてる!?」
「大丈夫っす!」
大丈夫? なのか? 俺が翼と言い合っていると、ひょっこり草間が顔を出す。
「ねえ、何してんの? ケンカ?」
「とんでもないっす、山田さんとケンカだなんて!」
俺は翼と肩を組む。俺が元ヤンなことを知られる人数は少ない方がいい。
「そうだ、草間! ケンカだなんて! 俺と翼は友達だ!」
「山田さん! 本当に、俺、友達でいいんすか!?」
翼の瞳がウルウルしている。
そんな俺を見て草間が穏やかな顔で話し出す。
「そう。よかった。子供の頃、あんた優君、優君ってそればっかりだったじゃん? 優と私以外と会話できなかったし。あげく、今や私の事さえ覚えてないし。だから……、安心したんだ。あんたが、結構しっかりしてて」
うん? 何言ってるんだ? 草間。
俺は優君がいるから、俺でいられるんだぞ? だから、俺は天使な優君のために生きるんだ! 優君が天使のままでいられるように!
ーーー
それから俺は、翼から情報をもらいつつ、優君を守った。
優君をやっかんでる奴らは結構多かったが、基本的には頭突きくらいですませつつ!
優君が女子達の色恋沙汰に巻き込まれそうなときは、ブリッコ対応で阻止!
体育祭の時は、優君のお母さんのために、優君をいっぱいカメラに収めた!
一緒にリレーの選手に選ばれてしまったけど、優君が1番で俺がアンカーだったから、大丈夫だった! 抜けてる翼には頼めないから! 周りにドン引かれたけど、そんなことは構わない。
その頃には、優君の取り巻きとも、多少仲良くなって、優君の写真の見せ合いっこなんかもした! 大丈夫! 俺も取り巻きも節度は守っている! 優君の悲しむことはしない同盟だ。
前の街にいる時は、恐れられるだけだった。でも優君と一緒にいるだけで、俺の環境は変わる。
優君と草間だけでなく、翼や、取り巻きの女子との日々も楽しい。
優君と一緒にいるだけで、こんなにも、あっという間にあの日々に戻れる!
ある日、優君と一緒に下校していると、不良たちに絡まれる。
同じ高校のやつらじゃない。
ガチなタイプのやつらだ。
これは、優君がらみじゃない。俺がらみだ。
俺のせいで、優君を危険な目に合わせるわけにはいかない。俺が俺であることがバレなければいい。すべてオーケーだ。オタクな山田を貫き通せばいい。
「おい、お前S街の山田だろ?」
「やだなー、違いますよ」
前髪をつかまれる。
「嘘つくなあよ! ほらみろ! 額の切り傷! 間違いない」
クソ…。調べ済みか。こいつらケンカのことしか頭にないからな…。
優君にバレてしまう。
優君に嫌われてしまう。
この日々が終わってしまう。
そんなのは嫌だ。優君に嫌われたくなんてない。
不良グループの一人が優君の方に目をやる。そして、怯えだす。
なんだ? どういうことだ? 優くんがこんな奴らと関係があるわけがない。
「おい、こいつ、望月組の…組長の息子じゃね?」
「は? 何いってんだよ。こんなヒョロヒョロしたのが」
一人が優君に問いかける。
「お前? 名前は?」
優君がだまる。優君が自分の名前を言わない。
優君? いったい何がどうなってるんだ?
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