第5話 目線①

祖父母が亡くなってもう両手以上の年数が過ぎた

同居していた祖父母と仲が良かった

末っ子孫の私をすごくかわいがってくれた

共働きの両親に代わり育ててくれた

祖母のご飯は世界一おいしかった


先に祖母が倒れ、祖母を大切に思う祖父は自宅で祖母を見ると老々介護

訪問入浴と訪問看護を受けながら祖父はがんばった

それを両親が支え、その頃別居していた私も時々参加した

下の世話を祖父以外から受けることを嫌がっていた祖母の想いを

私たちは守った


半年後、祖母は他界

祖父が介護疲れを起こすことなく

介護をしたと祖父に思わせてくれたほどよい時間だった

なんていい祖母なんだと思った


その後、祖父が倒れた


祖父は倒れるその時まで自分の力で歩いていた

高齢で転びやすく、歩いても足が思うように動かなくなることがあったが

「自分でやる」と家族の手を借りることを許さず、自力で立ち上がる


お正月に、働いている私がお年玉を祖父にあげようとすると

「なんで孫にもらわなくちゃいけないんだ。お年玉はあげるものだ」と怒り

私は渡そうとした金額以上にお年玉をもらっていた


人の為に動くことが好きで、手先が器用な祖父

地域からもいろいろな役を頼まれ、それらを喜んで引き受けていた

世話役から、壊れた仏壇の修理や製本などありとあらゆることをしていた


本が好きで、近所の本屋さんに通い、常に本に囲まれていた

いいと思った所には黄色の蛍光ペンで線を引く

祖父の本は、蛍光ペンでたくさん線が引かれまぶしい 

祖父の本を読むときは、サングラス必須

その本屋さんが閉店する時には、本屋さんのご主人がわざわざ祖父に挨拶に来られた


倒れる数日前に、転んでベッド柵に頭をぶつけたようだった

転んでもすぐに家族に言わず、右側こめかみあたりに内出血痕があり、

どうしたのかと問うも

「わかんねぇ」年齢相応の物忘れもあり、

「あおたんあんのが?」とキョトン


内出血ができた数日後の朝、トイレに行った後にベッドに戻って

急にうなり声を出して意識が無くなった

救急搬送し、父から連絡を受け私は急いで病院へ向かう


救急科の先生から 父に向けて

「硬膜下血腫です。これは外部からの力が加わらないとできないものです。

頭の右側に内出血の痕があります。虐待として警察へ連絡する義務があります。

連絡します。」

このような説明がなされた。

「父は暴力は振るいません。祖父は今朝まで歩いていました。

数日前に転んでベッド柵へぶつけたようです。転んだのを家族は見ていませんが

その時のアザです。ベッドの柵と痕が同じです。」

私はそう説明したが、虐待案件となった。

「治療のために集中治療室へ入院となりますが、死亡したら検視を行います。

自宅を警察が調べます。」と言われた


虐待なんてしていないので、父も私も「こんなことあるんだね」なんて話していた


2日後、呼吸状態に変化ありと連絡が来て父と私が急いで病院へ向かい2人で祖父の最後を看取った。呼吸が止まっても20分間心臓が動いていた

強い祖父だった


医師からの死亡確認後、すぐに警察へ連絡され別室で警察官と話をした

父と私の身分証明書を見ながら書類になにやらいろいろ書いている

父と私は別々に話を聞かれる

普段の生活、祖父母と両親の関係、祖母の介護の事、その後の祖父の生活の事

私の事などたくさんの事を聞かれたが、ちゃんと伝えた


「虐待していないと皆さん言うんです」

「していないから、していませんとか言えません。」にっこり笑って私は答えた


たっぷり話を聞かれてから、次は自宅を見せてもらいますと。

自宅とは、私にとって実家の事。


やましいことは何一つないが、

(パトカーで来られるのかぁ・・・近所の人に聞かれたらなんて答えようかなぁ)

そう思って聞いていた


車で実家へ向かい、間もなく警察官が5名できたが、パトカーではなく普通の車

警察官5名は、何も書かれていない、青いつなぎの服に青い帽子をかぶっていた。

ぱっと見、工事関係者に見える。

正直、私はほっとした。


家の周りを見る人、家の中を見る人と分かれていた。


私と父で、祖父が倒れた日の動きや、数日前に転んだベッド柵の説明をすると

警察官一人が祖父役でベッド柵に頭をつけ、別の警察官がそれを写真に撮った

他にも、転んでできた古い傷に合う家具の角やぶつけていた所、

常に座っていたリビングの椅子とダイニングの椅子、

歩く時につかんでいた家具やリビングと廊下の手すりの説明

その都度写真をたくさん撮っていた


5人の中でリーダー的存在の警察官は、一通り動きの説明を書類に書き

写真を撮ってから、祖父の部屋の隣の和室へ入った

和室には、家族がもらった賞状を飾っている

父が職場で行った研究がどこかで賞をもらっていたり、何かでもらった賞状など

それらをみて、明らかに空気が変わった

「帰るぞ」と他の4名へ話した


父と私に

「虐待の事実はありません。病院へ伝えます。お二人も病院へ戻ってください。

虐待がある家庭に必ず見られることがありますが、ここには全くありません。」


そう言われて父も私もほっとした。疑われるというのは、決していい気分ではない

しかし、していないから、堂々としていられる。

でも、きちんとわかってもらえるまでは落ち着かないのも事実。


病院へ戻ると、自宅へ来ていた警察官から

「虐待の事実はないことは、きちんと先生に伝えました。先生を恨まないで。

先生は仕事をしただけだから。」と言われた

思わず、当時は精神科で勤務し、虐待をする先輩方を見ていたため

「うちの職場に来てください。虐待山ほどあります!!」小声で言った私に

苦笑の警察官


別に怒るわけではないが、虐待通報した先生に、父に対して謝って欲しいと思った

祖父を自宅に連れて帰る時まで、最後まで顔を出さなかった先生


父に謝ってほしかった 

いまだにちょっぴり思う事












































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