蟲夢

京衛武百十

蟲夢

泰規

そこは、近畿地方のとある県の山間やまあいにある小さな集落だった。


人口は百人足らず。家々の間隔は百メートル以上離れ、その間には田畑が広がっているという、それ自体はさほど珍しいものでもない様相だった。


そんな集落の竹林の脇に、決して大きくはないものの比較的新しい平屋の一軒家が建っていた。非常に家賃が安いその物件を知人を介して紹介してもらって他の地から移り住んだ夫婦と二人の男児が住んでいる家だった。


男児は、上が六歳、小学校一年生。下は三歳で保育園に通っている。夫婦は共働きで、父親は、葬儀会社に葬儀の際に使う諸々の道具を貸し出す仕事をしていた。<葬儀会社>ではない。<葬儀会社に道具や設備を貸し出す仕事>である。この頃にはまだ、葬儀において宗教的な様式が重視される傾向があったため、小さな葬儀会社ではそれぞれに合わせた道具や設備を揃えるのは費用も保管場所も大変だったこともあり、必要なものはレンタルという形で用意する業者もあった。そのための商売である。


とは言え、それだけでは生活が厳しかったこともあり、母親も、山の麓の医院で事務の仕事をして、この家の生計は成り立っていた。


決して豊かではないものの、かといって食べるものにも困るほど困窮もしていない。


そんな家で、泰規やすきは育った。小学校一年生の兄の方である。


泰規は、必ずしも愛想のよいタイプではなかったが、同じ集落に住む年齢の近い子供達とは毎日のように遊ぶ、おおむね<普通>と称しても差し支えのない子供だった。


ただ、片付けるということが苦手で、母親が買い与えてくれた玩具おもちゃを片付けることをせず散らかし放題にしていたことで、それにしびれを切らした母親に、玩具おもちゃをすべて裏の竹林に捨てられてしまうということもあったりもした。


すると泰規は、母親に特に抗議するでもなく、ただ黙って竹林に入り、特にお気に入りだった玩具おもちゃ数点だけを拾って子供部屋としてあてがわれていた部屋の押し入れに隠すように戻しておいた。当時人気だった<超合金>と呼ばれるロボットの玩具おもちゃだった。


もっともそれは、頭部、胸部、腹部、脚部、足の五つの部位に分かれていて、五つ揃えなければロボットの形にはならないものだったが、母親はなぜか胸部と腹部だけしか買ってくれなかった。


泰規は、それがいつか揃うことを期待して残そうとしたというのもあったのかもしれない。


しかし同時に、母親に対しては、玩具おもちゃを捨てられたことは、内心、恨みにも思っていたようだった。


『ものを大事にしなさい』


と口煩く言うクセに、玩具おもちゃを竹林に捨てるという、


<ものを大事にしない振る舞い>


に、子供心に強い矛盾を見てしまったのだろう。


だからもしかすると、『体をバラバラにできる』その玩具おもちゃが特に気に入っていたというのもあった可能性もある。


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