イフの世界 ー可能性違いの私達ー

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 もうじき、この世界には危機が訪れる。

 世界の果てから、膨れ上がる蝕という化け物がやってくるらしい。

 それからは絶対に逃れられない。


 でも、私達は死にたくなかった。

 生まれた時から、死ぬことを定められていたこの世界と共に、死にたくなかった。






 私が生まれた時、世界の寿命はわずか二十数年ほどしか残っていなかった。

 皆が恐れるその化け物がやってくるまで、わずか二十数年。

 私の心は、立ち向かうより前にすでに折れていた。

 戦って、抗ってみようなんて思えないほどに。


 それでも私は、生きたかった。

 大人になって、おばあちゃんになっても生きたかった。


 だから、心は折れても絶望はしなかった。

 まだこの世界には、生き残るための希望が残されていたから。


 それは、もう一つの世界を作り出すという研究だ。

 複製の世界を作り出して、身代わりに蝕へ差し出すという目的で始められた。


 生き残るためにはその方法しかない、そう思った私は、双子の世界を作り出すその研究を始める事にした。


 研究は大変だったけれど、世界中の人々が知恵を出し合ったから、一歩一歩ゆっくり着実に進んでいった。


 そして、余命三年といった時に、双子の世界が完成した。


 私達の世界そっくりの偽物が。

 私達とそっくりの者達もいる。


 けれど、またその偽物に複製をつくられてはかなわないから。研究にまつわる事だけをなかったことにした。


 複製を完成させた私達は、希望に満ち溢れていた。


 これで生きられると、そう思っていた。


 なのに。






 滅びた世界は、私達の世界の方だった。


 向こうの世界になにがあったのか?


 偽物の世界は、偽物の彼等は、生贄として蝕に差し出されるはずだったのに。


 滅びゆく世界の中で、私は研究対象であるその世界をのぞきこんだ。


 すると、彼等は抗っていた。


 彼等は誰かに犠牲を押し付ける方法ではなく、自分達が戦う方法を選んだらしい。


 蝕と戦って、勝つ事はできずとも退ける事に成功したようだ。


 彼等は希望に満ち溢れていた。






 そうだ。


 なら間違っていたのは私達の方。


 本物の方が、複製した偽物に劣る劣化品だった。


 考えてみれば道理。


 心折れた私達が、生き残れるはずなどなかったのだ。


 滅びゆく世界の中で、私達は間違ってしまった事を知ったのだった。


 もう取り返しは、つかない。


 取り戻す事もできない。


 ただ、命尽きるだけ。


 どうしようもない後悔と嫉妬と羨望に身を焦がしながら。


 できるなら、叶うものなら、私達だってあんなふうに強く生きたかった。 


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イフの世界 ー可能性違いの私達ー 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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