センター英語6割がやばい英語企画に参加した話
大鑽井盆地
第1話
関西にあるとある教育大学3回生のPさんは、大学で社会科、主に世界史を学んでいました。そんな彼女がまだ小学校の教育実習に行く前のこと、母校の私立高校に世界史の先生として就職しようとしていた彼女は「このまま海外行かんと世界史の先生になるのはなんか違う気がする、大学の間になんか海外と関わることしてみな面接がやばい」と思っていました。
そんなとき、大学からひとつの企画提案が舞い込んできました。内容は「海外の学生2人と日本の学生2人でペアを組んで英語でESD、SDGs関連の学習指導案を作り、実際に日本の小中学校で実践後、報告書を作って発表」というなかなかにハードなものでした。
しかし彼女は自分の所属するサークルの先輩方が参加することや、英語科の方々が参加することなどから、「やらずに後悔するよりやって後悔した方が」と思い勇気を出して挑戦してみました。
その結果、見事に英語科だらけの空間でアウェー社会科は大学5回生の英語科の先輩とペアを組ませていただきました。のちに海外の相手のペアが決まったのですが、日本チームは時差が少ないということで、軒並みフィリピンの方とペアを組むことになっていました。しかしそこで一つの事件が起こります。なんとフィリピンのとあるペアが間違って企画登録フォームに二重登録してしまっており、彼女と英語科の先輩のペアがいなくなってしまったのです。
主催者側はなんとか対応してくれ、同じく二重登録が原因で余ったらしいベルギーの大学の方と、そこに留学に来ているデンマークの方とペアを組むことになりました。英語科の先輩は時差を心配していましたが、彼女は時差なんかよりももっと気になることがありました。「は?ヨーロッパ圏の人間やんどうしよ。あいつらインド=ヨーロッパ語族やん。どう足掻いたって英語で会話って向こうのフィールドやんか。こっち圧倒的に不利すぎ。せめてお互い韓国語で会話とかにしてくれ、絶対イエローモンキーっつってバカにされる」などと無駄につけた社会科の知識で不安感を募らせていました。
しかし「マッチングしてしまった以上やるしかない」と腹を括り、とりあえずメールはGoogle翻訳で頑張って読解、送信をすることにしました。この頃には彼女は進路を公立小学校に切り替えていたので、「正直モチベがない」と思っていたのですが、「まあ何かしらの経験になるはずやから」と辞めたい気持ちを抑えて頑張っていました。
そして何度か4人でメールを交わした結果、水曜日にzoomミーティングをしよう、ということになりました。彼女は「なんかあったら全力で先輩に頼ろう」などと碌でもないことを考えていました。
ベルギーの方がホストでミーティングを立ち上げてくださっていたので、そこに参加すると、長髪の金髪の映像が映っていました。「どうやら相手は女性らしい」などと思いながらミーティングに参加し、「どうしよう。なんか挨拶とか言わなあかんかな」などと思っていると向こうから「Hi」と声をかけられました。彼女は、「うわ、本物の英語や」と思うと同時に「え、声男やん。ロン毛の男の人やった」などと能天気なことを思っていました。彼は「How are you?」と声をかけてくださったのですが、英語に戸惑いまくっていた彼女はフリーズ、やっとの思いで「え、えっとわからん。アイムファイン?」と言いました。彼は「fine?HAHA.」と失笑しました。彼女は「なんで一生懸命喋ったのに苦笑いやねん」と思いました。
そんなやりとりをしつつ残りの2人の参加を待っていたのですが、待てど暮らせど2人はやってきません。彼女は「そもそもミーティングが直前に決まったから、もしかしたら何か用事あったんかも」と思いましたが、「でも先輩おらなこの人と意思疎通できん」と思い、ラインで助けを求めました。
しかし、一向に返事は返ってきませんてました。ベルギーの方はミュートにして何か作業をしています。どうしていいかわからず困っていると、彼が英語で何か喋り始めました。しかしセンター英語6割の彼女は、「え、何いうてるかなんもわからん」となってしまいました。しかしなんとか聞き取った単語とジャパニーズスキル「空気を読む」を組み合わせた結果、「多分この人はおそらくあと10分以内に2人が来なければ別日にミーティングしようていうてるんやな」と解釈しました。
なのでアホみたいに「イエスイエス」と繰り返して、10分間無言で待ち続けました。「何か雑談した方が…」と思った彼女ですが、そんな能力はありませんでした。
結果、10分経っても残りの2人は現れず、彼の「see you.」に対しひたすらジェスチャーのバイバイを繰り返したところでzoomが終了しました。
彼女は「もう無理かもしれん」と思いながら、これからの指導案づくりを憂いつつ夕食に向かいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます