第27章 駅テロ開始

 12月24日、小津中央駅。

 小津市一大きい駅であり、都会などに行くならばここに行けばだいたい大丈夫と言えるほどの交通設備があり、人も多い。

 結衣の情報曰くここが青空のテロの始まりの場所らしい。

 焔、フレア、犬飼、ルナ、鬼丸、ウメ、井草の7人はそれぞれ駅の中や駅前の広場にて警備をしていた。

 焔とフレアのコンビは広場を、犬飼とルナは駅の中を、井草と鬼丸とウメは両方を行き来して2つのコンビのカバーをする。

 ウメは鬼丸と同行、井草はひとりぼっちに。

 内山と結衣は青空側として活動し、工作員として居るという事になった。

 時間は6時になり、日もとっくに暮れ、広場などにはイルミネーションで飾られた木々やそれを見に来るカップルで溢れていた。

 その光景を見ながら、焔とフレアは物思いにふけていた。


「この景色……良いな」

「こんな時に見なきゃ良かったかもな」


 焔があまり縁起でもない事を言うも、フレアはいつものように感じた。

 こんなのが焔であり、それが好き。

 フレアはそんな彼をずっと見ていられた。

 

「なあフレア」

「な、何?」

「今までさ、こんなイルミネーション、ただの電飾って感じがしてたけど。なんかこう、大切な人と見ると、一つ一つの明かりがただの電流じゃなくて、暖かく感じるんだな」

「何柄に合わない事言ってるの」


 フレアは少し笑って返した。

 こんな会話がいつまで出来るだろうか、明日も明後日も明明後日も、1週間後も1ヶ月後も、1年後でも出来るだろうか。

 未来は全く予測出来ない。

 魔法少女として生まれた彼女は、1人の女として、

 そんな時、黒いマントを羽織った男が、目の前に現れた。

 2人はすぐに警戒し、身構える。


「……そこの君、こんなおめでたい日になんて格好してるんだ。気分が悪くなるから消えてくれないか」


 黒いマントを羽織った男は、ため息を吐き、その黒いマントを脱ぎ捨てる。

 その顔に2人は見覚えがあった。いや、むしろ忘れる訳が無い。

 あの日、と相手の顔を。


「猿渡……」

「言ったよな烏丸。次会ったら、命を取り合うかもしれないって」


 猿渡健次は魔獣に変身する。

 背中からはコウモリのような翼が広がり、両目はトカゲのように細く鋭い目付きに。そして竜のような鱗をまとった、竜人のような姿に変わった。

 この姿を猿渡自身は翼竜ワイバーンと読んでいる。


「やるからには……本気で行くぞ、烏丸」


 フレアと焔は極炎乃不死鳥になり、剣の切っ先を猿渡に向けた。

 猿渡もまた、深呼吸し翼を広げ、口から白く息が漏れる。

 周りの人々は騒然とし、みんな逃げていた。

 2人にとってはちょうど良い環境だ。

 思う存分、やり合える。

 最高の環境だと。

 2人はすぐに間合いを詰めた。

 剣と爪がぶつかり合い、火花を散らす。

 猿渡は鋭い恐竜のような爪で極炎乃不死鳥を切り裂こうと攻撃する。

 それを極炎乃不死鳥は剣で弾き、そのトカゲのような皮膚を剣で斬ろうとするも、その皮膚はまるで鋼鉄のように硬く弾かれ、火花か飛び散る。

 そして剣が弾かれた一瞬の隙をついて猿渡は極炎乃不死鳥の胸ぐらを掴み、そのまま地面に擦り付けるように引きずり回し、噴水に投げ入れた。

 そして追い打ちをかけるように空を飛び、極炎乃不死鳥の正面に着くと、口から火球を発射した。

 その大きさは焔がなった魔獣の時の5倍はあるであろう大きさだった。

 その火球の攻撃に噴水は粉砕され、極炎乃不死鳥の上に噴水の瓦礫が崩れ落ちる。

 しかし極炎乃不死鳥は瓦礫をどかしながら起き上がり、剣で出来た翼を広げる。

 そしてその剣を数十本空中に固定し、猿渡に切っ先を向けミサイルのように発射した。

 猿渡はその剣の弾幕を避けるも、肩に1つ剣が貫通する。

 猿渡はその肩に突き刺さった剣を引き抜き、その剣を使って極炎乃不死鳥に切りかかる。

 そして極炎乃不死鳥も、それに応じるように剣で斬ろうと振り上げる。

 剣と剣はぶつかり合い大きく火花を散らしていく。

 互いの剣は吹き飛び、地面に突き刺さる。

 猿渡は極炎乃不死鳥の胸に有り余る力を込めた拳を放つ。

 それと同時に極炎乃不死鳥も炎を纏った拳を放ち、2人は互いに吹き飛ばされる。

 もはや、2人の間に言葉など無い。

 もし話している暇があるのなら、身体を動かすのを最優先にする。

 そんな思考に陥っていた。

 その思考に辿り着いたのは、もう戦うと決めた以上、語り合う事があれば殺すことに悔いがあるからなのかもしれない。

 2人はそれを無意識にしていた。

 吹き飛ばされた2人の内、先に反撃をしたのは極炎乃不死鳥だった。

 炎を纏った剣を出し、猿渡に斬りかかる。

 猿渡はふらつきながらも避けるが、その時左翼が綺麗に切断された。

 猿渡は苦痛の叫びを吐いてしまう。

 その叫びは極炎乃不死鳥の手を緩ませた。


「構うな!」


 猿渡の叫びは極炎乃不死鳥の剣を持つ手を再び強く握らせた。

 極炎乃不死鳥いや、焔は剣を振り上げ猿渡にまっすぐ振り下ろす。

 傷口から血が吹き出し、猿渡は倒れる。

 しかし、猿渡は火球を吐き出し、極炎乃不死鳥を牽制し、体勢を整え、極炎乃不死鳥の腹の鎧に連続して爪を突き刺す。

 極炎乃不死鳥の固い装甲をはひび割れ始め遂に焔の腹が表面に現れた。

 そのチャンスを逃してはならない。

 そう思った猿渡は爪を腹に突き刺そうとした。

 その時、その鋭い右手の爪は焔の腹の目の前で止まってしまった。

 そして猿渡の左胸を極炎乃不死鳥の剣が貫いた。


「……烏丸」

「何怯んでんだよ……」


 極炎乃不死鳥が剣を引き抜くと、猿渡の左胸の大きな穴から血がダラダラと流れ、猿渡の手足の先から灰が落ちていく。


「……ありがとう」


 猿渡はそう言うと、ただの灰へ変わってしまった。

 極炎乃不死鳥は焔とフレアに戻り、その灰に両手を拝んだ。


「良かったのかな……これで」

「良いんだフレア……もう、過去に戻る事なんて出来ないんだ、これからを見なくちゃ、未来を託した奴らに……失礼だからな」


 そんな言葉を言う焔の瞳には、涙が静かに流れていた。


「駅の中は大丈夫かな、ちょっと見に行こう」

「わかった」


 フレアがそう言って駅の中へ向かおうとする時、彼女は咳き込んだ。

 すると、何かが口から出てきて、それをフレアは手のひらに吐く。

 それは鉄の破片だった。


「えっ……」

「どうした?」


 焔が心配すると、フレアはその鉄の破片を捨てた。


「う、ううん。大丈夫」

「そうか、なら行くぞ」


 2人は小津中央駅の中へ向かった。



 その頃、犬飼とルナは、瓦礫が飛び散る駅の中で血を流し、倒れていた。

 時は遡ること数分前。

 犬飼とルナは駅内を観察していた。


「怪しい居ねえな」

「ね」


 すると、黒いマントを羽織った何者かが、何かをコインロッカーの前にぽとりと落とした。

 それは、小さな小包のようなもので、紐である程度縛られている。

 2人はすぐに確信した。


((あ、怪しい!))


 犬飼は黒いマントを羽織った何者かをひっ捕らえようと追いかけ、ルナは小包の中身を確認する。


「おいお前……何落とした?」


 すると、黒いマントを羽織った何者かはマントの隙間から何かを犬飼に突きつけた。

 犬飼が下を見るとそれは、銃口だった。

 引き金が引かれると同時に犬飼は避けるも、弾丸が脇腹を掠める。

 ルナは小包を開けると、それはコードの付いた装置のような物だった。

 タイマーが付いており、残り時間と思われるものが3分を切っていた。


「裕二! 爆発しそうコレ!」

「はぁ!?」


 黒いマントの何者かが、再び発砲する。

 犬飼は避けて、ルナの元に転がり込む。

 2度の発砲に人々はざわつき、即座にその場から逃げる。


「貴様……また邪魔をする気か」

「また? 何言ってんだ」

「貴様……私を忘れたとは、言わせない」


 黒いマントを剥ぎ取るとそれは犬飼にその顔はすぐにわかるほど覚えている物だった。

 白い帽子に白いスーツの四、五十代の男。

 前との違いと言えば片目に眼帯を付けているくらいだった。


「……アポロ。生きてやがったのか……」

「貴様を倒すまで何度でも甦るさ。私は貴様にとってとても面倒な奴なのだ」

「だったら来るな」


 ややジョークを交えつつもアポロは魔獣へと変身した。

 その赤い炎の体は変わらないが、やや前よりも勢いが強く感じるのを犬飼は肌で感じ取った。


「さぁ、今度こそ死ねぇ!」


 アポロは銃口の5倍も大きな火球を放つ。

 犬飼は咄嗟に避けると、火球は柱に当たり、柱は蝋燭のように溶けていく。


「なんつー火力だよ……」


 アポロはさらに火球を発射し、駅の壁をドロドロに溶かしていく。

 犬飼とルナは一体化し、アポロに近づこうとするも、火球を連射され、中々近づく事が出来ない。


「ゆーじ! 装置が! 装置が!」

「ああなんだよ?! 今面倒な奴が」

「装置が後1分で動く!」

「あ? 装置?」


 犬飼は周りを見渡すと、ロッカーの隣に装置があるのが分かった。


「……あれが?」

「あれはNEW WORLDだ。人を魔獣にし」

「んなもんわかってる!」


 犬飼はすぐに装置の方へ向かうが、アポロが火球を発射し、中々近づけない。


「馬鹿め、そう簡単に近づけさせると思うか」


 残り時間は40秒を切っている。

 犬飼は少しでも近づく為に火球を避けながら走る。

 しかし、アポロの火球は止まらない。


「終わりだ」


 そして火球は犬飼に当たった。

 火球は爆発し、炎が立ち上がる。

 駅の中のスプリンクラーはとっくに作動しているが、もはや焼け石に水と言っても過言ではなかった。


「全く……困ったガキだ……ん?」


 瓦礫の中から、何かが動き出した。

 炎を纏いながら立ち上がる何かが。


「困ったガキで……悪かったな……義務教育……まともに受けてねぇんで」


 犬飼だった。

 装置は既に作動し、NEW WORLDが漏れている。

 しかし、人々は既に避難しており、効果はあまりなかった。


「そういやこの姿……名前付けて無かったな」

「うーん……ねぇゆーじ。超雷電光地獄番犬ライトニングケルベロスってどう?」

「……お、おう。それにするか」

「よくも、計画を……死ねぇ!」


 アポロは火球を撃ち込む。

 しかし超雷電光地獄番犬はそれを殴り返し、アポロに命中する。


「あっちぃ……」


 アポロは吹き飛ばされ、柱にめり込み、吐血する。


「なんだ……この力は」

「「知るか」」


 2人の言葉が揃い、さらにアポロに追い打ちをかけるように超雷電光地獄番犬は拳を連続して放つ。


「「うぉりゃあぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!」」


 柱は粉々に砕け、アポロは灰と化した。

 そして、超雷電光地獄番犬は2人に分離し、2人はふらっと地面に倒れた。


「……疲れた」

「……うちも、寝るか」



 そして今に至る。

 その2人が倒れている現場に、鬼丸とウメがやって来た。


「お主、あそこで犬飼殿とルナ殿が倒れておるぞ」

「あっほんとだ」


 鬼丸はすぐに脈を確認すると、普通に脈打っていたので生きているのを確認する。

 すると、鬼丸は自販機からコーラを2本購入し、犬飼とルナに飲ませると2人は飛び上がるように起きた。


「「ぶっぼぉ! 喉に刺激物はアカン!」」

「うわぁ2人揃ってツッコむな」

「鬼丸おめぇな……」

「コーラなんて初め飲んだグゲェ」


 鬼丸は女の子のゲップなんて見たくなかったと後悔した。

 するとコツコツと誰かが改札から現れた。

 既に改札は壊れており、バーは人を防げるような状態では無かった。

 黒髪のセミロングでパッと見は一般的な30代の女性と言ったところである。

 顔つきも優しく、母親の様な包容力があるのを鬼丸は感じた。


「あら、あの人は亡くなりましたか」

「誰だお前」


 鬼丸はそんな雰囲気に惑わされずに女性の名を問う。


「私は篠澤玲しのざわ れいセイレーンです」


 そう言うと彼女は魔獣に変貌した。

 鳥の翼を持ちながらも、人魚のような尾ヒレを持つ魔獣、セイレーンに。

 To Be Continued





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