第24章 刀の魔法少女

 鬼丸は腹を抱えてメモリアに戻ってきた。


「……ただいま」


 すぐさま犬飼とルナが寄ってきて、すぐさま救急車を呼ばれ、病院に搬送された。

 幸い傷は浅く、鬼丸は全治2週間と言われた。

 こうして鬼丸は腹に包帯を巻かれたまま病室のベッドに寝かせられた。


「……弱えな……俺」


 そんなことを言っていると井草がフルーツの盛り合わせを持って来た。


「げげー!? お前はあ!?」

「……お前に用はない。ただフルーツを置いてきただけだ」

「それお見舞いだろ、わざわざそんな水臭い事すんな」


 井草はフルーツを置いて、病室を去ろうとしたその時、彼は立ち止まって振り返った。


「魔獣にも、良い奴は居るのか?」

「は? そりゃ……居るだろ」

「……そうか、なら良い」


 そういうと、井草は病室を出た。


「……なんだアイツ」


 数分後、鬼丸は点滴袋を持ちながら病院の廊下を歩いていると、車椅子に乗った女性とすれ違った。

 鬼丸は、その女性に既視感があった。


「……あ、あなた!」


 鬼丸は思わず振り返って車椅子の女性に近づくと、やはりその顔に見覚えがあった。


「三河さん……ですよね」


 そういうと、彼女は包帯で巻かれた片目を見せるように振り向いた。


「……はい」

「どっ、どうしたんですか!?」

「ちょっとね」


 鬼丸は彼女はとんでもないことになっているのは見てすぐにわかる。


「あれ、そういえばあの女の子はどこに」

「……ああ、結衣の事? あの子は……多分、青空に居ると思う」

「えっ……」

「あの子、見てて思ったんだけど。何かと、失った物ばかり数えて、前に進めないというか……心が脆いという感じなのかな。最近まで私、昏睡状態だったから回復したの知らないで、失いたくないから青空に入ったんじゃ無いかなーって。あくまで推測だけどね」

「そうですか……」

「そういう君はお腹にサラシみたいな腹巻巻いてどうしたの?」

「腹を斬られたんですよ!? サラシの腹巻ってなんですか!?」


 由香は笑って、鬼丸は少し恥ずかしくなってお腹を隠した。


「君、面白いね」


 そう言うと、由香は病室へ戻って行った。

 そしてこの時、鬼丸は確信した。

 自分は弱いと。

 このままだと、あの人を守れないと。

 鬼丸は、ルナとフレアを病室に呼んだ。


「何よ、話って。私ゆーじと本買いに行きたいんだけど」

「鬼丸、焔とかじゃなくてなんで私達魔法少女なのよ?」

「いや実はな……俺正直弱いんじゃないかって思ってさ……だからその……他に魔法少女居ないかなーって」

「つまり……」

「鬼丸専用の魔法少女が欲しい……?」

「そうそうそうフレア、そゆこと」


 2人はちょっと引いた。


「魔法少女にも人を選ぶ権利はあるよ……」

「わかる……鬼丸そんな奴なんだ」


 鬼丸は慌てて発言を訂正しようと2人を引き止める。


「うぉおおおお引くな引くな引くな引くなぁ!? 居なけりゃ頑張るよ! でもさ! フレアを使った時案外戦いやすかったし!」


 フレアはあの時の戦いにあまりいい印象が無い。順手かと思いきやまさかの逆手でいつもとは違うトリッキーな動きに酔ったのだ。


「ああ……正直逆手持ちは酔うからごめん」


 フレアは遠慮気味に言う。


「私も篭手だし」


 ルナはもう呆れてスマホの画面を見ている。


「他に居ないのかよー、魔法少女」

「「うーん………」」


 2人は鬼丸に聞こえないように相談を始めた。


「さっき思いついたんだけどジェニー今何してるの」

「ジェニーちゃんは小町ちゃんの所にいるから無理」

「コルトスは」

「霧峰結衣さんの所」

「となると……」

「あの人……だけかあ」


 2人はため息を吐き、鬼丸の元に戻ってきた。


「おっ、誰かいるの?」

「え、ええ……」

「まぁ……」


 2人はあまり乗り気ではなかったが、鬼丸はとても目を輝かせている。その瞳はまるで宝石の様に。

 そんな目をされては2人もいよいよ断りづらくなり、互いに顔を合わせて言う事を決意した。


「私たちの生みの親のところに居るんだけど……」







 2週間後。

 鬼丸、フレア、ルナの3人はとある屋敷に来ていた。

 それは小町のとは違い、最近作られた屋敷では無く、古くから残る屋敷であり、塀の役割を果たす草には椿の花が咲いていた。


「……ホントにいるのか?そのウメって魔法少女が?」

「「……うん」」

「いやーお前らの中で1番の年上の魔法少女なのかぁ……」


 鬼丸は鼻の下を伸ばし、更には浮かれに浮かれルンルンとスキップしていた。

 正直2人はしばき倒してやろうかと考える。

 鬼丸はノリノリで門の扉にノックする。


「ごめんくださーい!」

「何か用か……」


 出たのはなんと、割烹着を着た坂崎井草だった。

 鬼丸はこの世の終わりを予期した老人のような顔をした。


「どうした、ゾンビだったのか、鬼丸君」

「どうしてお前がここにいる正義野郎」

「どうしてって言われてもここが私の住んでる所だからな……」

「俺は焔二美加って人が住んでる御屋敷って聞いてんだが?! お前何!? 居候?! 家政夫!?」

「二美加さんは病気でな。私が身の回りの世話をしているんだ。それで、3人は何を?」


 フレアがやや不安になりながら答える。


「ウメさんを呼びたいんですけど……」


 井草はそういうと、やや困りながらも、家に入れることにした。

 縁側から射す光は長机の上に置かれた湯呑みの中の緑地が輝きと湯気を登らせ、長机を境に井草と鬼丸は対峙していた。


「……おい」

「どうした、鬼丸君。お茶が冷めてしまうぞ?」

「あの二人はなんで俺を置き去りにした!?」

「知らん。女の子なんだ、それくらい好きにさせた方がいい」


 ルナとフレアは蔵に行って、ウメを探しているらしい。


「ってか、焔二美加ってどんな人なんだ」

「まず、焔家についての説明から始めよう。焔家は代々陰陽師の家系でな。時代に合わせて医学にも精通し、そして蘭学との混合によって禁忌の術も産まれた。それが、魔獣を人為的に作り出す方法と、武器に魔力を込める方法だ。前者は特殊な材料を混ぜたガスを吸入すれば、魔獣になれるというやり方だ。この方法は焔家の中でも禁忌として封じられた物だ。そして後者は、魔獣になった者が、魔力を武器に注ぐことで、その武器に魔力を与え、武器であり魔獣でもある物を作り出すという方法だ。正直こっちの方が焔家は良いと判断したのか、よく分からないがそれで作られたのがウメという者らしい。そして4人の魔法少女をその方法で作り出したのが、焔二美加というわけだ。しかし、前者の方法を使って、魔獣で世界を支配しようとしているのが、元孤児院の組織、青空という訳だ」

「んで、魔法少女の祖となったのがウメと……」

「そういう事だ」


 鬼丸はお茶を飲もうとするも熱くて舌を火傷したので諦めた。

 すると、襖を開けて誰かが部屋に入ってきた。

 その人物は女性であり、顔つきはまだ若々しいのではあるが、髪の毛は老婆のように白く、儚げな印象を与える。

 手足の動きも弱々しく、病弱な印象も与えられた。

 そして何より右腕が無かったのが大きく印象に残る。

 井草は慌てて彼女に近づいた。


「二美加さん! ……まだ寝てて大丈夫ですよ! お身体に悪い……」

「良いのよ、久しぶりのお客さんだもの」

「ああ、あなたが焔二美加さん……」

「君が……ああ、井草君の言ってた変わった魔獣か。覇道鬼丸君だよね?」

「え、ええ……ってお前俺の話他人にしてたのかよ!?」

「そりゃ鬼丸君は変わった奴だからな」


 鬼丸はお茶を飲み干してぐむむと恥ずかしそうに頬を膨らませて拗ねているのを見ると、二美加は微笑んだ。


「あら、可愛いこと」

「ど、どこが可愛いんですか……」


 鬼丸は顔を赤らめて照れていると、ルナとフレアの2人がやや大きめで長い木箱を運んできた。


「重たいのと、ホコリ多っ」

「仕方ないよルナ、何百年も開けてないんだから」


 その木箱は古く、所々虫に食われた様な跡があり、蓋には何か呪文が書かれている御札が大量に貼られている。

 鬼丸はおぞましい魔物が入っていそうな箱を見て背筋がの凍りつくように感じた。


「そ、その箱は大丈夫なのか?! なんか魑魅魍魎出てきそうなんだけど……」

「大丈夫でしょ。もし魑魅魍魎が出てきても」

「私達で倒すから」

「お前らは武器になれるだけだろ……」


 鬼丸は恐る恐る箱を開けてみる事にした。

 御札を剥がして開けようとする行為自体初めてではあるのだが、いかんせんこういう御札は剥がしては駄目だと身体に刻み込まれた彼はしては行けないことをしてると思うと五臓六腑がキンキンに冷やされる感覚がしてもはや生きている心地は無いに等しかった。

 木箱の蓋がパカッと外れてそこから出てきたのは、日本刀だった。

 朱に染まった鞘に収まったその刀は歴戦を乗り越えたように汚れ、傷ついていた。


「これが、魔法少女……?」

「「多分」」


 魔法少女の2人は口を揃えて言った。

 鬼丸が刀を持つ。

 歴史が積み重ねた重みが腕全体にかかり、持っているだけで気を失いそうなほどの威圧感を感じる。

 鬼丸はその刀を鞘から抜こうとした。

 その瞬間、刀身が紅く光り出す。

 鬼丸は思わず刀を落としてしまった。刀は地面に突き刺さり、少女の姿に変わった。

 その姿は正しく一般大衆のイメージする侍その物であったが、刀を帯刀していないのが唯一違和感と言うべきか。

 長い髪を後ろに纏め、一つ縛りにした少女の髪も紅く、顔つきも凛としていた。

 覚悟を決めた侍の様に。

 彼女は、鬼丸の方を見る。

 鬼丸は緊張が走った。

 彼女が鬼丸の方に振り向くと、彼女は小さく呟いた。


「……政景まさかげ……殿か?」

「……え?」

「政景……その顔は……政景殿!」


 彼女は鬼丸に抱きついた。

 突然のハグに鬼丸は困惑し、脳にバクが大量発生しフリーズを起こし始めた。


「生きておったのか……良かった……服装はかなり変わったが……無事で……」

「あ、あの……政景とは……?」


 鬼丸は恐る恐る返事をした。


「……政景殿? 何を……言うておる。わしじゃ、ウメじゃよ。あの時隠れる為に咄嗟に封印されてからお主は処刑されたかと思うとったが……こうして生きておったとは……良かった」

「あ、あの。うーん? 処刑?」

「……何を言うて……」


 ウメは周りを見て違和感に気づいた。

 今まで生きていた空気とはまるで違う。

 自分が味わっていた感覚は全て消え、何もかもが未知なる物に変わっているという事に。

 もうあの頃の風景はなかった。


「……ま、政景。一つ聞いても良いか?」


 おそらく自分の事だと鬼丸は思った。


「なんだ?」

「わしらは確か、藩の者に蘭学をつかい、日本を支配する悪と呼ばれ、殺されかけていた筈じゃ、それでわしを封印し、お主は自ら藩の者と戦った……それを覚えておるか?」

「……知らない」


 鬼丸は正直に言った。


「……な、何を言うとる。お主が藩に歯向かうと言って」


 ウメはその言葉に心を全て砕かれた。

 最悪の形で。


「……は……そんな」

「もう徳川の時代も終わった」


 ウメは膝から崩れ落ち泣いた。

 その涙は地面にゆっくりと、染み込んだ。

 彼女の永き悲しみを受け止めた。

 その後、ウメは屋敷に来て、鬼丸から詳しく事情を聞く事になった。

 その顔はどこか暗く、あの凛とした武士の顔ではなかった。



その後、鬼丸は今の状況についてウメに説明をした。


「わしが封印されている間にそんな事が……」

「まぁな。ってかあいつらはまた俺を誰かと2人きりにさせやがって!」

「……そういえば、あの2人の少女からは、わしと似たような気を感じたが、こやつらもわしと同じ九十九神なのか?」

「つ、九十九神って呼ぶんだ……まぁそうだな。今じゃ魔法少女って呼ぶがな」

「まほう……しょう……じょ?」

「まぁ名前だけだからあんま気にすんな」

「そうか……んで鬼丸殿。お主がわしを封印から解いたようじゃが……何故そのような事を」


鬼丸は頭を机につけて深々とお辞儀して言った。


「頼む、俺と一緒に戦ってくれないか」


ウメはその言葉に動揺した。

そしてしばらくの沈黙を経て、彼女は答えた。


「それは、無理じゃ」

「……どうして」

「わしは、もう戦いとうない。これ以上……誰かが死ぬのは無理じゃ」


彼女のその言葉はとても悲しく、辛い悲鳴の様だった。

 To Be Continued

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