第22章 死神
降りしきる雨の中、1人の少女が鎌を振るう。
その一振は周りのホムンクルス達を消し飛ばし、灰へ変えていく。
全ては、
例え誰が邪魔しようと、彼は絶対に殺す。
小町は復讐に飢えていた。
そして、それを支える怨霊がいた。
怪人の1件から数日後。
学校は校舎が壊れたので、修復の為にまた休校になった。
焔はくいなと2階の自分の部屋でテレビゲームをしていた。
「ねぇ焔兄ちゃん、聞きたいことがあるんだけどさ」
焔が戻ってきてから、くいなは以前の元気な性格に戻りつつあった。
前の様な無鉄砲さは無くなったものの、相変わらずの明るさは戻ったとも言える。
「なんだよ、っておい空中で赤甲羅は辞めろ」
「焔兄ちゃんって好きな人居るの?」
テレビゲーム内の焔のカートは見事にコースアウトし、雲に乗った亀に釣り上げられて、コース内に戻って、硬貨を3枚ほど奪われた。
「……んな訳無いだろ」
「え? フレア姉ちゃんの事好きじゃないの?」
再びコースアウト。
「はぁ!? なんであいつのこと好きになんなきゃいけねぇんだよ」
「いやだって焔兄ちゃん、最近フレアとよく居るじゃん」
実は戻ってきたあの日以降、焔とフレアはよく一緒に雑談をしたり出かけたりしている事が多くなった。
だが、焔は自覚していなかった。
フレアのことを。
「す、好きとかわかんねぇもん! そもそもフレアは剣だぞ! 剣! Swordだよ?!」
「そんなに顔を赤くしてるって事は風邪引いてるのか?」
「話の流れ的にぜってぇ違うだろ!?」
「風邪にはネギで首を吊るといいって聞いた事あるよ」
「死ぬよ!」
話のキャッチボールが暴投を繰り返している中、焔は思った。
あの日から、なんだかんだであいつの事を放っておけないと感じつつある事を。
病院から退院したあの日も、彼女は遊園地に行こうと言い出したが、今考えればあれもそういう事だったのではと思うとコントローラーを操作する指がおぼつかなくなる。
焔にとって初めての気持ちにゲームの画面に集中して見づらく感じ始めるほど、胸が熱く、鼓動が大きくなる。
その夜、焔は寝ていると尿意が来たので、トイレに行こうとすると、フレアが売上を慣れないパソコンに入力していたのか、そのまま寝ていた。
顔にキーボードをうつ伏せていて、入力欄に同じ文字が大量に入力されている。
「……風邪ひくだろ」
焔は毛布を持ってきて、フレアにかけてあげた。
するも、フレアはふやけたようや寝言を吐いた。
「……むらぁ……ほ……むらぁ」
焔は可愛げがあると思い、少しだけ笑みがほころぶ。
その時、メモリアのドアがゆっくりと開いた。
ドアの隙間から、1人の少女が顔を覗く。
「……小町?」
「焔さん、すみません。こんな夜遅くに」
「どうした? 家出か?」
「ちょっと用事がありまして」
「ん? どうした」
「あの、入るとちょっと迷惑になりそうなので玄関で良いですか?」
「ああ、構わないけど」
焔がドアに近づくと、腹に鋭い痛みが走る。
腹を見ると、そこにはナイフが深く突き刺さっていた。
そのナイフを持っていたのは、小町だった。
「……なんで」
「…………」
小町は何も言わなかった。
焔は急いで小町から離れるとナイフが抜かれ、腹から血がじわじわと服に染み込み、服が赤くなっていく。
小町は血に染ったナイフを持ち、虚ろな目で焔を見る。
「小町……俺が何をしたんだ」
「分からないの、そんな事も」
小町は痛みで倒れた焔に再びナイフを突き刺そうとするが、焔は避けて、フレアを起こす。
「おい起きろ」
「……ふにゃ?」
焔はとりあえず置いてあったコップの水をフレアにかけて起こした。
「ひゃ! ちょっと何を」
「死ぬ……」
フレアはすぐに状況を察し、焔を庇った。
「小町ちゃん?! 何をしてるの」
「私が……殺るんだ……お兄ちゃんを殺した……こいつを」
小町の息は荒くナイフを持つ手は震えていた。
小町は勢いよく走り出し、ナイフを焔に突き刺そうとするがフレアが焔をどかして避けたのでカウンターの上の物が落ちる。
「ちょっと! よくわかんないけどなんで焔を殺さなきゃならないの!?」
フレアの言葉を聞かずに小町は震えながら三度焔にナイフを突き刺そうとする。
フレアと焔は外へ避難し、路地裏まで逃げた。
「焔、大丈夫?」
「ああ、めちゃくちゃ腹から血がで……ん?」
不思議な事に刺傷はいつの間にか埋まっていた。
「あっ意外と治り早かったわ」
「どうゆう事よ……」
「分からない」
その時、目の前の塀が真四角に切断され、小町が現れた。
小町の手には、大鎌があった。
フレアはその鎌に見覚えがあった。
「ジェニー……ちゃん」
「ん? あっそうか知ってるのか」
「焔も知ってるの?」
「まぁちょっといろいろとうわ待て待て待て」
小町は大鎌を振り下ろし、地面にヒビが入る。
「フレア、やるぞ」
「……え、ええ」
フレアと焔は極炎乃不死鳥に変身し、剣を構える。
「……なんで、あんたが……」
小町は更に鎌を振るう。
極炎乃不死鳥はそれを受け止め、彼女腹に掌底を放つ。
小町は嗚咽し、鎌を落とし、その場に倒れる。
「小町、辞めろ。俺らが何をしても変わらない」
小町はその言葉に耳も貸さずに、攻撃を仕掛けるが、まだ8歳の彼女にその武器や戦い方は無理があり、ふらついていた。
そして、そのまま鎌に引っ張られる様に小町は倒れてしまった。
極炎乃不死鳥は焔とフレアの2人に戻り、小町をメモリアで休ませてあげようと近づくと、突如小町は起き上がり、焔の首を締め始めた。
「……かっ」
「焔!」
その目はまるで人形のように光が無く、誰かに操られているようだった。
「小町ちゃん! やめて!」
フレアは小町の顔面を殴り飛ばした。
焔の首から手は離れたものの、小町は再び立ち上がった。
「……烏丸……殺す」
「小町? なんでそれを……」
すると、小町の身体から何かが現れた。
髪の毛を前面におろし、まるで
「烏丸裕二ィィィィ!!!!!!!!!」
その怨霊は平坂真由美だった。
あの時の優しい顔とは違い、憎悪に満ちた、まさに怨霊そのものだった。
「真由美……どうして」
「お前のせいで……お前のせいで……」
8年前。
平坂真由美は1人の男を好きになった。
その男は、真由美ととても仲が良く、いつも遊んでいた。
産まれてから一緒に過ごした日々は忘れられない物となっていた。
しかし、その日々はあっさりと壊された。
烏丸良二によって。
本来であれば、平坂真由美は魔獣になれる体質では無かった。
無論、その男もその場で死んだ。
しかし、彼女は魔獣になった。
烏丸良二を殺す。
それだけの為に、烏丸とその仲間達に近づき、青空の連中に先に烏丸をやられないように烏丸の味方を演じていた。
その演技でさえ、
怨み重ねて8年、その恨みが今爆破していた。
真由美は再び小町の体に入り、大鎌を振るう。焔はそれを避けるが、電柱が真っ二つに切断させるのを見て、冷や汗をかく。
「お前の! せいで! あの人はぁ!」
喉が張り裂けそうな程叫ぶ声は小町である筈なのだが、焔には真由美が話しているように聞こえた。
小町は鬼気迫る表情で大鎌を振るう。
焔は気づいた。
彼女は、俺を怨んでいると。
「……ごめん」
焔がそういうと、彼は魔獣になった。
「焔! その姿は……暴走しちゃうんじゃ」
「なら良いんだけど……な」
魔獣の姿になっても、焔は暴走しなかった。
真由美は容赦なく鎌を振るった。
焔は右肩から袈裟斬りにされ、傷口から血が吹き出す。
更に真由美は鎌を振るい、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、と繰り返し鎌を振るった。
しかし焔は全く避け無かった。
むしろ、受け止めた。
「焔辞めて! 死んじゃう!」
フレアがそう叫ぶも、焔は彼女の
「……なんで死なないんだよ! さっさと死ねよ! このクソ野郎!」
真由美の声は悲しみを帯び、焔の体は血で染る。
焔の息は荒くなり、意識も朦朧とし始めた。
そして真由美は鎌を降ろした。
焔は倒れ、真由美も小町の身体から離れる。
真由美の体はただでさえ怨霊で透明なのにも関わらず、少しずつ薄くなっていった。
「ふざけんな……」
「……ああ、ごめん。俺は……この罪を一生背負う。だからさ……もう辞めろよ。復讐なんて」
地面に血溜まりが出来上がり。その光景を真由美はなんとも思わなかった。
「……最低」
真由美はそう言うと消滅した。
焔が目を覚ますと、既に日が昇っていた。
布団の上で寝ており、身体中には包帯が巻かれ、所々赤くなっている。
真横には疲れ果てていたフレアが焔の隣で寝ていた。
「……焔」
フレアは眠りながらふやけた声で言う。
「……ありがとう」
そう言うと、焔はフレアの頭を撫でた。
その頃、青空にはとある人物が来ていた。
それを見て、内山は意外だと感じていた。
「……信用していいんですか?」
内山は勅使河原に聞く。
「ニトロもやられ、ろくなホムンクルスが育たたないんだ。青空の子たちは出来るだけ戦わせたくない。もう既に何人かやられているしな」
「ふーん、とは言ってもあれと一緒に入るのは……」
「背に腹はかえられん。裏切るならその時に始末すればいい」
「そうですか」
その人物は、
「霧峰結衣さん、ようこそ。青空へ」
彼女の隣にはメイド服の魔法少女、コルトスが居た。
結衣はポケットから煙草を取り出して一服して、内山に近づいた。
「よろしく」
「お、おう……いいのか」
「何が?」
「一応その、魔法少女と青空は敵対関係にあるというか……そもそもお前は、魔獣であるのを嫌う側の奴だったんじゃ」
彼女は煙草を吸い終え、地面に捨てて足で踏み潰してから答えた。
「もう私は、誰も失いたく無いの。だから、失わない道を選んだ。それだけだから」
「……そうか」
彼女はそう言うとすぐにどこかへ行ってしまった。
内山は過去に結衣にこんな事言った。
いずれわかる。人間の頃の常識なんて無くなると。
しかし、内山は今人間として生きようか迷い始めていた。
そして、結衣は魔獣として生きようとしていた。
自分の言った事に内山は後悔した。
To Be Continued
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