第14章 死亡志願

 その頃、青空の者達は志津美の死亡の報告を虎津から聞いていた。


「志津美さんが……亡くなりましたか」


 三幸はその事実に涙していた。


「私が現場に戻ったら人が沢山居まして、そこに血溜まりが大量にあったんで遺体は原型とどめてないと思いますよ」

「……ありがとう、久美」


 すると、ドラム缶の上でパソコンを操作していた女が、立ち上がった。


「彼女の失敗はこの私、勅使河原玲子てしがわら れいこが何とかします。芦原君を貸して貰えますか?」

「ええ、構いませんよ。とはいえ勅使河原さん。彼女の弔いと思ってはいけません。そのような感情はこの世に不要なのですから」

「十分承知しております」


 勅使河原はコツコツとヒールの音を立てながらその場を去った。


「……全ては、新たな世界の創造の為」


 同時刻、メモリア。

 犬飼と鬼丸は雄一に怪我の治療をして貰っており、カリスはテーブル席のソファにうずくまっていた。


「……いって」

「鬼丸くん、無茶しないでよ〜」


 既に足に包帯がグルグルと巻かれているが、まだ巻くようなので鬼丸はちょっと多いのではと思い始めている。

 犬飼は既に治療は済んでおり、怯えているカリスを少し遠くから見ていた。

 どうやら、あの時の自分を見ていたらしい。

 今まであの姿をカリスに見せたことは無かった。

 流石にそんなので嫌う訳では無いとは思うが、今までのトラウマを想起させるのだろう。

 犬飼も少しだけ距離を置いておこうと思った。


「……ごめん、隠してて」


 犬飼は小声で言った。

 カリスは涙ぐみながら、犬飼に返した。


「そっか……」


 その言葉は犬飼への失望なのか、それとも寛容なのか。

 その受け止め方は犬飼次第だった。


「君、カリスちゃん……だっけ? 大丈夫?しばらくうちに居る?」

「ああ、大丈夫です。ホテル取ってるんで……」


 カリスは荷物をまとめ、メモリアを足早に出ていった。

 そしてすれ違うようにルナがメモリアにやって来た。


「あんた……勝手に出てって何勝手に怪我してんのよ……」

「お前は寝てただろうが、昨日夜遅くまで本読んでたくせに」

「あんたが急に居なくなって寂しかったのよ!」


 2人で痴話喧嘩を始め出したので鬼丸と雄一はとりあえず放っておくことにした。


「大体あんたねぇいつもいつも勝手にほっつき歩くんじゃないのよ! 私1人怖いんだから!」

「てめぇはガキか! あそこで1人でも大丈夫だろうが! と言うか魔法少女だろ!」


 ルナは少し涙目になっていた。


「ばっか、お前言い過ぎだろ……」

「嫌だってよ……」

「……ゔぁぁか!」


 ルナはべそをかいて、カウンター席について、雄一に注文をした。


「店員! ココア!」

「ああっはいはい、ちょっと待っててね〜」


 鬼丸は犬飼に近づいて耳元で話した。


「女の扱いは下手なんだな」

「うるせえ」


 その頃、小津警察署では、結衣はスーツ姿に着替えていた。


「これ……似合ってます?」

「おお、いいじゃん!」


 八咫烏総悟は拍手して褒めた。

 結衣は照れていたが、由香は少しだけ不服そうな目で見ている。


「……新入社員みたいね」

「ふえっ!?」

「色気が無いわね、スーツって女の色気をだけすなら最高なのに、あなた色気が皆無ね」

「なんで色気重視なんすか先輩」

「何言ってるの! 女はね! 色気がないとダメなの!」


 結衣は目が点になった。


「……へ?」

「色気ってのは女の専売特許なのよ、それだけで男はズボンを降ろすわ」

「……へぇ?」


 結衣は言葉の意味を理解すると顔を赤らめ始めた。


「ちょっ! 何言ってるんすか?!」

「良いのよ、言葉でいくら言おうと相手が傷つかなければ」

「……ごめんねぇ、先輩意外と下ネタを出す人だから」

「は、はぁ……それはまた随分と」

「まぁあんたは控えめな体型だし、そんなもんよね」

「それじゃあ行きましょうか、結衣ちゃん。魔獣の捜索に」

「はい!」


 意外にも由香はちゃん呼びであった。

 こうして、霧峰結衣は小津警察署の1人になった。


 場所は戻って大山組。

 焔は2人に頼み込んでいた。


「俺を……殺してくれ」


 陽炎は、席を立った。


「断る」


 そしてそのまま部屋を出ていった。

 ジェニーは、焔のその無様な姿を見て少し呆れていた。


「……バカ?」


「好きに言えば良いさ、いつまた暴走するか分からない爆弾を抱えたくないんだよ」


 ジェニーはみっともなくあぐらをかきながら、焔に1つ聞いた。


「あんたあれでしょ? 烏丸」

「……知ってんのかよ本名」

「そりゃあ二美加が助けたって言う子だし? なんならアンタが青空の魔獣全員作ったようなもんだし」


 それを聞くと、焔は心の傷を開かれたような気がした。

 今まではそんな痛みなど忘れていたが、今となってはとても痛々しい。

 すると、引き戸の開く音が聞こえた。

 どうやら雄一が来たようだ。

 しかし、小町何とか言いくるめたらしく、その後、また引き戸が閉まる音がした。


「んでさ、あんたなんで死にたいん? 罪滅ぼし?」

「……それ以外あると思うか」

「いや、無いね」

「またいつ俺が暴走するか分かったもんじゃないんだ。早くして欲しい」

「あいつ、あんたなんか到底見向きしないよ? だって、私といるのだって妹の為だし」

「どういう事だ……?」

「魔力が魔獣の好物であるのはわかるっしょ? 妹ちゃんはそれをたっぷり持ってるのよ、それを魔獣は狙いに来る。でも妹ちゃんはか弱いからね、お兄ちゃんがわざわざ頑張ってるって訳」

「ま、待て、そしたら陽炎はただの人間だろ? 魔法少女は魔力の多い人間しか使えないんじゃ……」

使……ね」

「安全……?」

「魔法少女を使う条件をもっと細かく言うと。

 1、魔獣である事。2、魔力が多い人間。どちらか1つを満たしていれば、私達は安全に使うえる。でも、どちらも満たしていなければ……」

「いなければ……?」


 ジェニーは焔に近づき、耳元で囁いた。


 その日の夜。

 カリスは、ホテルの部屋でパジャマに着替え、ベットに寝ていたが、中々寝れずにいた。

 今日の出来事が脳にこびりついて離れずにいる。

 助けてくれた恩人も、あんな醜い化け物だった。

 それ自体にショックは無かった。

 でも、それを知ったことで、犬飼との間になにか壁が出来たような気がする。

 カリスは気分転換にホテルを散策しようと思った。

 部屋を出ると、洋風のランプが点々と点いており、廊下には人は居らず、あまり人の気配が無かった。

 カリスは現在、7階に居る。

 まずは降りて、2階にあるゲームフロアで楽しもうと思った。

 カリスは早速エレベーターに向かう。

 その時、ちょうどエレベーターが開いた。

 ラッキーだと思い、少し走って向かうと、そこには血溜まりがあった。

 人が2,3人、倒れており、返り血を一切浴びていない白い帽子に白いスーツの男が立っていた。

 カリスはその男に見覚えがあった。

 4年前、カリスはこの男に命を狙われた。

 

「やぁ、お嬢さん」

「アポロ……」

「おや、お名前を覚えていましたか。これは光栄な。だが」


 アポロは炎の化身の様な姿の魔獣に変わり、片手には連装銃を持っていた。


「ここで死んでもらおう」


 カリスはすぐに走り出した。

 しかし、無慈悲にも、銃の発砲音がその階に鳴り響いた。

 カリスは脚を打たれ、転んでしまった。

 脚から血がドクドクと流れる。

 アポロはカリスに近づき、彼女の顔面に銃口を向けた。


「……君は魔力が多い、それ故に、私のような狩人に殺さるんだ。世の中は弱肉強食。兎は狼に食われる……そういう運命なのだよ」

「……嫌だ……死にたくない」


 カリスは涙を流し、怯えていた。


「……確か君には、友人が一人いたな……ちょうどいい……兎も使いようだな」


 そう言うと、アポロはカリスの首を掴みあげた。


「……た……す…………け………………て」


 首が閉まる中、カリスは意識を失った。


 翌日。

 フレアがメモリアに帰ってくると、そこには頭に包帯を巻いた犬飼と鬼丸が喧嘩しながらケーキを

 作っていた。


「馬鹿お前クリームは立つまでやるんだよ」

「これ立ってないのか?」

「もっとこうピンッってピンッってすんだよ」

「そうなの……?」


 どちらといえば犬飼がやたらとスイーツに詳しいらしく、犬飼が指導している。

 ルナは不貞腐れながらダラダラと昼の番組を見ていた。


「……元気ね、みんな」

「あっフレア、おかえり」

「……烏丸の剣か」

「何よその言い方」


 犬飼の呼び方に少しフレアは鼻についた。


「……とっ、とにかく、焔は? 居るの?」

「今はいないぞ。なんつーか、ちょっと1人にしといた方がいい感じだから、あんまり関わるなよ」

「でも……」

「その後ろの幽霊に取り憑かれてんのか?」


 フレアは後ろを振り向くが、全く幽霊など見当たらない。

 しかし、鬼丸は自分の後ろを見ている。


「何もいないわよ」

「いや、ついてるって。なぁ犬飼」


 犬飼はスポンジケーキをオーブンから取り出して、フレアを見た。


「ああ、真由美か」

「なんだ犬飼知ってんの?」

「同じ孤児院居たからな、肉体がない魔獣……だったか」

「でも、私には見えてないんだけど」

「魔獣じゃないからじゃないか? あまり見ないタイプの魔獣だから、仕組みもよくわからねぇんだよな」

「真由美さーん……出てきて……」


 すると、ルナが見ていたテレビが突然砂嵐に変わり、徐々に真由美の顔が浮かび上がってきた。


「ゆーじー! テレビ壊れたー!」


 かなり気の抜けた声でルナは叫んだ。


「ああ?! 叩けば直るだろ」


 犬飼はクリームを塗りかけのスポンジケーキをキッチンに置いて、テレビを叩こうとすると、テレビから真由美の声が聞こえた。


「ちょっと! 叩かないでよ! 壊れたら弁償だよ! 犬飼君お金あるの?」

「真由美っ?! どうしてテレビに……?」


 犬飼はあの有名な幽霊を思い出した。

 真由美はあれとは違い出ては来ないが、テレビから声が聞こえてきた。


「こうしないと、魔獣じゃない人に話しかけられないの」

「はーん、変わった体してんな、テレビに入れるのか」

「うん、私もびっくりしてる。今日初めて入ったから。ラジオは何回か入ったんだけど」

「…………」


 犬飼はこのなんとも言えない気持ちをどう表せば良いのかわからなかった。


「それで、フレアさん。言いづらいんですけど」

「焔……は、居ない?」

「ええ、真反対に居ると……思います」


 フレアはあんな緊迫した感じで行ったと言うのに空振ってしまったそのやる気が恥ずかしいと思い、メモリアを出た。


「ああっ! フレアさぁん! さすがに1人は危ないですよ〜!」


 フレアは商店街を出るが、焔がどこにいるのか分からないことに気づいた。


「あっ……」


 すると、スマホから着信が届く。

 その声は真由美だった。


「ちょっとフレアさん。勝手に出ないで下さいよ……スマホ始めて入りました」

「電子機器ならほんとになんでもいいのね……」

「らしいですね。今度はワイヤレスイヤホンに挑戦してみます」

「逆に気になってきたから今から買いに行こうかな……」


 そんな冗談を言いながら、交差点を渡ろうとすると、突然怪人が空から飛び降りてきた。

 その怪人は蟻と獅子を混ぜたような姿で獅子の様な鋭い目でフレアを凝視し、ハサミの様な口をカチカチと鳴らし、ヨダレを垂らしていた。

 フレアは腰を抜かし、そのまま逃げようとするが、怪人はフレアの足をつかみ、そのまま持ち上げる。

 そして足からフレアを食おうとしたその時。

 突如怪人を蹴り飛ばした者が居た。

 フレアは吹き飛ばされるも、何者かに抱きとめられた。


「お、鬼丸?! なんでここに?」

「あまりにも心配なんでね、着いてきたらこれよ」


 鬼丸はフレアを降ろすと、魔獣に変身し、怪人に蹴りを放つ。

 怪人は素早く避け、反撃をするが、鬼丸はそれを手で受け止め、その手を掴み、怪人の脇腹に連続して蹴りを放つ。

 そしてトドメの一撃と言わんばかりに腹に大きく蹴りを放った。

 怪人は吹き飛ばされるも、すぐに立ち上がり、鬼丸に襲いかかる。

 鬼丸はまた蹴り飛ばそうとするが、蹴りを放った瞬間に怪人は突如鬼丸の目の前から消えた。

 鬼丸は周りを見回すと、背後から怪人が現れ、鬼丸の背中の羽を鋭い爪で引っ掻いた。

 鬼丸は突然の激痛に驚くも、何とか耐える。

 しかし、今度は別の場所から怪人が現れ、その方向に振り向くと、もう既に爪は鬼丸の顔面の目の前にあり、それを顔面にもろに食らった。

 鬼丸は地面に倒れ、怪人は、鬼丸の首を締め始めた。


「ぐっ……あっ……」


 フレアは、鬼丸が危ないと感じ、鬼丸の元に走りながら、武器になった。


「私を使って!」


 鬼丸はフレアに手を伸ばし、剣の柄を握り、怪人を袈裟斬りにした。

 切断にはならないが、皮膚に傷をつけることは出来た。


「ってか、俺使えるのか?」

「大丈夫!」

「なら、遠慮なく!」



 その頃、焔は。

 和室で、1人。

 苦しんでいた。


「がっ……はっ…………」


 自分の身体が何か別の物へと変わり始める感覚に慣れることは無かった。


「焔さ……大丈夫ですか!」


 その時、小町が和室に入ってきてしまった。


「来るなぁ!」


 焔は必死に叫んだ。

 しかし、小町は今まで聞いた事のない様な、鬼気迫る声に驚き、腰を抜かしてしまった。

 床に濡れる緑茶など考えられない程。

 そして焔は再び、魔獣へと変わった。

 恐ろしい雄叫びと共に。


 To Be Continued

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