第11章 激情の翼
焔は強く握りしめた拳を思い切り空我に振るった。
しかし、それを片手で受け止められ、そのまま草むらに投げ飛ばされる。
焔は諦めずに再び殴り掛かる。
空我は腹に蹴りを入れ、倒れた焔にさらに蹴りを入れる。
「ほらほら、あの子がいないと何も出来ないのかい?」
「うっせえ……」
焔はゆっくりと立ち上がり、構えた。
息は荒くなり、口から血が垂れている。
「逃げた方がいいんじゃ」
「良いんだ……今こいつを倒さないと……どうにも、俺の気が済まないんだ」
空我は魔獣に変わり、蠍の尾を焔に向けた。
「可哀想だから、楽にしてあげるよ、友達を痛ぶるのも、あまり楽しくないしね」
空我は蠍の尾の針を、焔に突き刺した。
に思えた。
焔は、それを片手で止めた。
無論針の毒は焔の手に回っている。
焔は吐血し、手は毒に犯されている。
「馬鹿かお前、そんな事してどうする気……」
すると、焔はなにかに変わり始めた。
鳥のような羽毛を生やし、その姿はまるで、
「烏丸……君」
焔は蠍の針を引っ張り、尻尾を空我から引きちぎった。
空我の尾からは大量の血が吹き出し、空我は痛みに悶える。
「いってええええええええええええあええええええあああああああああああああああぁぁぁ」
その悲鳴など聞こえていないかのように焔は空我の胸ぐらを掴み、木に叩きつける。
そして、拳を強く握りしめ、顔面を何度も殴り飛ばす。
数分後にはもう既に歯は何本か飛び、顔面は原型を留めていなかった。
更に、焔は雄叫びを上げ、拳に炎を纏わせる。
「……わかった……もうお前に……手を……出さな」
そんな空我の必死の命乞いも焔には届かない。
「烏丸君! もう良い! 空我君、もう死んじゃう!」
真由美の言葉も、届かなかった。
拳を放ち、空我の頭は破裂した。
頭の無い空我は、燃えながら灰になった。
焔は元の人間の姿に戻った。
しかし、服には大量の返り血が飛び、焔は死人の様な顔になっていた。
焔は脱力した体で歩き出した。
「……どこに行くのねえ、待ってよ、あそこまでやらなくても……」
「……烏丸…………だっけか」
「え?」
「思い出したよ何もかも」
そう言うと、焔は空我の針を拾った。
焔三幸もとい烏丸良二は、友達を殺してしまった。
かつての、友を。
翌日、小津病院にとある蠍の針が送られ、それを剣崎がそれを材料に血清を作成。
それによりフレアは回復した。
しかし、しばらく様子を見る為、1週間程入院することになった。
その間、焔三幸は来なかった。
剣崎はフレアの様子を見ていた。
「様態は大丈夫かい、フレア君」
「はい、つるのおりがみ先生」
「……
「あはは……ところで焔は?」
「それが……家にも帰っていないしらしい」
「えっ……」
フレアは自分が無茶をして、その責任を焔が背負ってしまっているのでは無いのかと思い始めた。
「一応、私も暇があれば街中を探してはいるのだが……何しろ連絡も無いのでな」
すると、突然病室のドアを誰かが勢いよく開ける。
勢いよく開けた人は息を荒らげていた。
「フレア君!? 大丈夫か! 毒で犯されたと聞いたが?」
坂崎井草だ。
ものすごく急いできたのかネクタイがあんまり綺麗にしめられていない。
「ちょっと君病院では静かにだな」
剣崎が警告するが井草の耳にそんな物は入らなかった。
「あの時はとても酷いからものすごく心配だった! 私のパトロールが疎かなのが原因だ! 悪い! 許してくれ!」
「だから病院では静かにだな」
「なっ、お前は鶴のお祭り!」
「
「えっ、お二人知り合いなんですか?」
井草は1回落ち着いて、フレアに話す。
「ああ、まぁ聖母親衛会の1人だからな」
「井草君は基本的に聖母親衛会の暴走機関車だがな」
「なんだ暴走機関車とは、私だけなんだからな。聖母鎧つけられるのは。普通の人がつけたらどんな事になるか」
「わかってるよ、私もつけて実感した」
「あの……お二人で話を進めないでください……そもそも聖母親衛会ってなんなんです? 魔獣を倒す組織ってのは分かりますけどどうしてそんな組織が……」
剣崎と井草は顔を合わせて話す事にした。
「聖母親衛会というのは、
「ああ、魔獣を倒す為に開発されたのが聖母鎧だ。今の所試作機を除けば1台しかない。そして適応したのが私のみだ」
「二美加……さん」
フレアはその名前に聞き覚えがあった。
「知ってるのか?」
「……私を、作った人だから」
同時刻、喫茶店メモリアでは犬飼とカリスがテーブル席で食事をしていた。
「いやー久しぶりの日本はいいね〜!」
「……なんでここなんだよ」
正直犬飼にはとてつもなく気まずい場所である。
カウンターでは鬼丸が冷たい目で犬飼を見ながら皿を洗い、雄一は厨房奥でワキワキとナポリタンを作っている。
カリスはワクワクしながらナポリタンを待っているが、犬飼にとっては鬼丸の目線がキツい。
確かに殺ったのは事実だ。しかし、最近焔のせいで自分の価値観は正しいのかがよくわからなくなってきてしまった。
あの言葉は、それほど彼に響いている。
「なぁ、カリス」
「なーに? あっもしかして彼氏いるとか?」
「いや、まぁ……居るのか?」
犬飼はちょっと気になった。
「いや全く」
「なんだよ」
「だってみんな私に興味無いもん」
「お前結構尻軽な感じするもんな」
「あー何それー!」
そんな中鬼丸がナポリタンを2皿持ってくる。
「はい、御注文のナポリタンです……さっさと食っててくださいよ。私の兄の様に」
最後の一言を犬飼にしか聞こえないような小言で言った鬼丸は雑に伝票を置く。
「……なにあの店員。ムカつくわね」
犬飼は何も言い返せなかった。
「ゆーじ、なんか言ってやんなさいよ」
「俺が後で言っとくから、ナポリタン冷めないうちに食うぞ」
2人はナポリタンを食べ始めた。
鬼丸は少し不快な気分だった。
「あいつ彼女いんのかよ……」
犬飼はナポリタンをむせ返した。
「大丈夫?! ほら水水!」
「ああ……げふっ、すまねぇ」
鬼丸は少し拍子抜けしてしまった。
彼女では無かった様だ。
すると厨房から雄一が来て、鬼丸に耳打ちした。
「あれ、犬飼君の彼女さん? 綺麗な子じゃないか」
「あの反応から見るに、多分違いますよ」
犬飼は余計この店を出たかったのでナポリタンを味わわずに口に全部入れようとフォークに全部丸めて食べようとした。
「ちょっ! ゆーじ?! またむせるよ?」
そのままナポリタンを丸呑みした犬飼は水を口に注ぎ込んで2000円を机の上に置いた。
「俺が奢るから早く……行くぞ!」
「どしたのゆーじ?! 急にへん」
「良いから!」
犬飼は穴があったら入りたいとはまさにこうなのだと感じた。
「……なんだアイツ」
鬼丸は首を傾げ、雄一は何故かほっこりしていた。
カリスはナポリタンを残した事が少し不服だったらしいが、後でみたらし団子を買ってあげたらチャラになった。
犬飼は余計お金が無くなり、しばらくはパン1枚で一日を過ごすことを覚悟する事になった。
「ゆーじ、久しぶりにこんな事するね〜!」
「ま、まあ……」
「ずっとこうならいいのに……」
犬飼はあの時の事を思い返す。
それは、4年ほど前である。
犬飼はある少女と出会った。
少女は命を狙われていた。
魔獣に。
犬飼は、そんな人を守るような正義ヅラをする気はなかったが、少女を守った。
後にわかった事ではあるが少女は他の人間よりも魔力が高く、魔獣にとっては格好の餌だった。
その為、あらゆる魔獣から命を狙われ、彼女はその恐ろしさで心を閉ざしていた。
犬飼はしばらく少女を守る事にした。
少女はそのうち、犬飼を好きになっていった。
そんな事が半年続いた。
そして、少女は家庭の事情でイタリアへ移住する事になった。
犬飼は安心と同時に、悲しかった。
飛行機が飛び立つ時、犬飼は、涙を流していたとルナは言う。
そう思い返し、犬飼は少しだけ、正直になっても良いのかなとも考えたが、やっぱり恥ずかしくて、表に出せなかった。
すると、目の前に2人ほど人が立ち塞がる。
1人はボサボサの長髪で痩せており、両手首には大量の切り傷がついており、リストカットの痕跡が見える。
そして顔つきはとても痩せこけており、今にも倒れそうだ。
もう1人は黒いマントを羽織り体型を隠しており、顔にも仮面をつけていた。
わかるのは白髪であるという事くらいで、仮面も取れないようになのかは分からないがホチキスの針でこれでもかと止められている。
「……お前ら」
「ゆーじ、知り合い?」
「逃げろ」
「え?」
「早く!」
カリスは恐る恐る逃げていった。
犬飼は2人を知っている。
「
「ああ、覚えてたんだ。結構変わっちゃったけど覚えてくれてて嬉しいよ。あの時の虎津久美だよ」
虎津は中性的な声で、声からも性別は分からなかった。
「犬飼……くん……私の」
「……なんだ志都美さん、俺とはもう関わらないでほしい」
「犬飼君? 忘れたの? 私が……愛を込めて……育ててあげたんだよ?」
志都美は震えた手で犬飼に触れようとした。
しかし、犬飼はそれを拒否し、払った。
「とにかく、何をするのかは知らねえが俺に関わるな」
「どぉしてぇ! なんでそんなに冷たいのぉ! 私がァああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ一生懸命育てたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃああああああああぁぁぁあああああ!!!!!!!」
志都美は周りがどうであろうと関係なく泣き叫び、その場に膝まづいて倒れた。
犬飼は少し離れ、悪寒が走る。
「あーあ、泣かせちゃった。僕知らないよ」
虎津は冷静に判断し、その場を離れようとする。
「待て、何しに来たんだよお前ら」
「何って、裏切り者の抹殺だよ。でももうこの人が片付けちゃうだろうから僕はさっさと
すると、志都美は突如血を吐き出した。
そして腹から内臓のようなものが飛び出し、醜い女の怪物へ変わり果てた。
魔獣になったのだ。
「ルナ……は居ねぇ、やるしか無いのか……」
犬飼は魔獣に変身し、身を構える。
「どうして……なんで……犬飼君……私が赤子の時から……育てたのに……」
「ほんとに……なんだよ」
犬飼は正直困惑しかない。
志都美は内臓を触手のようにしならせ、犬飼を縛りあげようとする。
しかし、犬飼はそれを噛み砕く。
だが、噛み砕いた瞬間、その中から何かが飛び出し、犬飼の顔面を包む。
それは、酸だった。
その焼けるような熱さに犬飼は顔を抑える。
「お前……育てた奴の顔になんてもんを……」
「もういい、私の犬飼君じゃない。あんたなんか!」
犬飼は酸を拭い、こう言った。
「ああそう、なら言ってやる。勝手にやってろ」
犬飼は両手から鎖を放ち、志都美を縛り上げる。
今までの犬飼であれば容赦なく喰う所ではあるが、犬飼は少しだけ躊躇いを感じた。
その瞬間、鎖が破られ、犬飼は胸ぐらを掴まれた。
「あんたなんか……犬飼君じゃない……犬飼君じゃない犬飼君じゃない犬飼君じゃないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない犬飼君じゃない! 死ねぇ!」
鋭い鉤爪を犬飼に突き刺そうとしたその時、志都美の頭が何者かに蹴飛ばされた。
志都美は吹き飛ばされ、痛みで頭を抑える。
「お前は……」
「店の前で暴れてもらうと、こっちも迷惑なんだよ」
鬼丸が魔獣の姿でやってきた。
「さっさと立てよ、彼女のとこ行ってイチャイチャしてろ」
鬼丸が手を差し伸べる。
「……悪いが、そうもしたくないんでね」
「なんだよ、あいつ彼女じゃないのかよ」
「……ただの親友だよ」
犬飼は鬼丸の手を取って起き上がり、首の骨を鳴らす。
「さてと……恨みっこ無しだぞ」
「ああ、後できっちり晴らしてやる」
志都美は血走った目をし、2人に向かって叫ぶ。
「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ! ぶち殺したらァ!」
志都美は背中からも大腸の様な触手を生やし、2人に向けて飛ばすが、2人はそれを避けながら、間合いを詰め、犬飼は拳を鬼丸は蹴りを志都美の顔面に放った。
志都美は飛ばされ、内臓のような触手も引きずられ、商店街の道にはべっとりと血がついてしまった。
「あーあ、どうする?」
鬼丸が聞くが犬飼は両手を軽くあげて『さぁ』と言う感じの動きをする。
「まっ、久しぶりにしますかね」
その時、商店街の道の屋根を突き破って何かが降りてきた。
「あれは……鳥?」
鬼丸がつぶやく。
「鳥……じゃなくて……
犬飼が指を指す方向には、不死鳥の様な怪人がいた。
その怪人は言った。
「犬飼……忘れたか? 俺だよ、
To Be Continued
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