第2話
喫茶ボックスルーム。通称、屋根裏部屋。
お客は少ない。河合整かわい ひとしは一人、今日もノートに何か書き込んでいる。
「グッドモーニング! 河合ちゃん。元気!?」
「おはようございます、五木様」
五木明いつき あきらは、ボックスルームの隣のビルでアパレル会社の社長をしている。とは言っても、従業員は一人だけのセレクトショップでWeb販売を活動の中心としていた。
「モーニング、お願いね」
「はい、たまごにはお醤油でしたね」
「うん、正解!」
五木は注文を終えるとノートPCを広げ、在庫数やメールのチェックをしていた。
「お待たせ致しました」
「サンキュー」
五木は卵を割り、とろりとした半熟の黄身を見て頷いた。
「今日もパーフェクトだね」
「ありがとうございます」
五木は黄身の中に醤油を二、三滴落とすと、綺麗に殻を剥いてパクリと食べた。
「最近はなかなか、店舗にお客が来なくてね」
「そうですか」
整は簡単に返事をすると、またノートを取り出した。
「そういえば、昨日はなんか若い女性客が来てたじゃない? ここに」
「お客様のことはお教えできません」
「守秘義務? まあ、いっか。常連さんになれば、そのうち顔を合わせるだろうしね」
ノートに何かを書き込みはじめた整を横目に、五木は分厚いトーストをもぐもぐと食べている。ポテトサラダをトーストにのせるのが、五木の食べ方らしい。
「五木様、コーヒーのおかわりはいかが致しますか?」
「うーん。今日は忙しくなりそうだからパス! ありがとうね」
五木は最後に残っていた、冷めかけのコーヒーを一気に飲み干すと言った。
「はい、700円。安いね」
「そうですか? ありがとうございます」
五木が店を出ると、整の居る喫茶店には古いジャズの音だけが響いていた。
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