第7話ほのぼのお茶会

 二人で大福を食べ終えほのぼのとした時間がゆったりと過ぎていく。

 湯飲みに入っていたお茶は少し冷めてしまっていたが、味は変わらず美味しいままだった。

 もっとも熱すぎると飲めない雪音にとってはちょうどいい温度になっていた。

 程よい渋みと爽やかな香りが冷めていても感じられ、日本人に愛されるお茶そのものだった。

 お茶の種類に詳しくないため、これが緑茶なのか煎茶なのか、はたまた玉露なのか雪音にはわからなかったのだが。

 それでも何となくだが、すごくいい茶葉を使っているのだろうと予測した。

 あるいは、雫の入れ方が丁寧でお茶の良さを引く出しているのだろう。

 そんなことを考えるくらいにこのお茶はすごく美味しく感じられた。

 「お茶のおかわりはするかの?」

 自分の湯飲みに新しいお茶を注ぎながら、変わらない爽やかな笑顔で雫が聞いてきた。

 お茶の分析をして自分の世界に入ってしまい、雫の声に一瞬反応するのが遅れてしまったが、自分もおかわりをもらうことにして湯飲みを前に差し出した。

 そんな雪音の姿を見て雫はクスッと笑った。

 「何をそんなに考えておったのじゃ?」

 慣れた手つきで雪音の分のお茶を注いでいく。

 「冷めても美味しく感じられたので、すごく良い茶葉を使ってるんだなと思って……」

 「確かにここの煎茶は冷めても美味しく頂けるのう。我もこのすっきりとした味わいが気に入っておる」

 新しく淹れたお茶の湯飲みを雪音に手渡し、雫は自分の湯飲みに入ったお茶を一口飲んだ。

 手渡された湯飲みの温かい熱を両手で感じながら、雪音は少し冷めるのを待つことにした。

 「このお茶煎茶なんですね」

 「その通りじゃが、何じゃと思っておったのじゃ?」

 「てっきり緑茶かなって思ってました」

 「あながち間違ってはおらぬが?」

 小首を傾げて言う雫の言葉に一瞬困惑してしまう。

 煎茶と言っていた気がしたのだが、自分の聞き間違えだったのだろうか?

 頭の中に?マークがたくさん浮かび上がった雪音を見て、雫が解説してくれた。

 「緑茶というのはの、日本茶全体を指しておっていわば大きなひとくくりのことじゃ。その緑茶というひとくくりの中に煎茶や玉露、ほうじ茶なんかも含まれておる。煎茶や玉露は栽培の仕方が違っておっての、遮光期間、簡単に言えば日光を浴びせる時間がそれぞれ違うのじゃ。だからこれは煎茶でもあり雪音の言った緑茶でもある故間違ってはおらぬぞ」

 雫の説明はとても分かりやすく、雪音の中のお茶の知識が少し膨らんだ。

 むしろ人間じゃなく妖怪であると言った雫がかなり詳しく知っていそうで驚いた。

 いったいどうやってそんな知識を身に着けたのか、不思議に思った半面自分が無知なことに少し恥ずかしさも感じた。

 「すごく詳しいんですね」

 「昔我に教えてくれた者がおっての、その者の受け売りじゃ。それに我は気になったり疑問に思ったことは調べたい質での、ゆえの性分かもしれぬが」

 好奇心旺盛なのだろうか、また一つ雫という存在について分かったような気がした。

 それに加えて先ほど雫の口から出てきたという言葉が気になった。

 出会って妖怪から助けてくれた時も自ら医者だと名乗っていたし、雪音に出来たけがの手当ても適切かつとても丁寧だったことを思い出した。

 ――こんなところで医者?近くに病院なんてあったか?

 ――そもそも人間じゃないのに何の医者なんだ?

 「また考え事かの?」

 考え込み始めた雪音を何だか楽しそうに見守りながら、雫はお茶をすすった。

 「あの、ずっと気になんてたんですけど、医者ってどういうことですか?」

 考えていても仕方ないと思い、雫に直接聞くことにした。

 「そのことか、言葉通りの意味じゃぞ?我はこの六花堂を診療所として医者をしておる」

 見た目は病院とは程遠いが、この六花堂自体が診療所として使われていることに何だか不思議な感覚に陥った。

 ここに来て過ごした時間はそんなに経っていないが、六花堂に興味が沸き始めもっと知りたい願望が芽生えた。

 そんな感覚に陥っている雪音だったが、次の雫の言葉の方に興味は一気に六花堂ではなく雫自身へとそそられる結果となる。


 「凛との会話の中で聞いておったかもしれぬが、我は人ではないじゃ」

 

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