怪医雫の六花堂
掟
第1話プロローグ
この世には目には見えないものも存在している。
一般的に彼らの多くは「
その妖怪たちも人間と同じように普通に生活をして過ごしている。
時にはケガや病気をする妖怪が現れてもおかしくはない。
そんな妖怪を救うためにこの男が存在しているのかもしれない……。
☆☆☆☆☆
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『待て、人の子よ』
――しつこいな……。
おれはこいつから必死に逃げていた。
慣れない山道を何度も転びそうになりながら、森の中を駆け回りもうクタクタだった。
どこかに神社や寺のようなものがないか探しながら走ってきたが、そんなもの結局見つからなかった……。
とにかく今はこいつから逃げることだけに集中しよう。
逃げる。逃げる。逃げる。
捕まったら何をされるか分からない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『逃がさぬぞ』
そう言って急に右手をのばしてきた。
おれはギリギリのところで避けきれたが、バランスを崩してしまった。
「しまっ!」
斜面にそのまま足を取られてしまい、一気に下まで転がり落ちてついには人が通るであろう舗道に出てしまった。
――なんとか骨は折れてないようだな。
自分が無事であることを確認していると誰かがおれに話しかけてきた。
「あれ?月満?」
声のした方に顔を向けるとそこには制服をきた一人の男子生徒の姿があった。
――確かこいつはクラスメートの……。
必死に名前を思い出そうとするも、なかなか出てこず固まってしまった。
「こんな所で何やってんだよ?てか上から落ちてきたみたいだけど、ケガとか平気か?」
そんなおれに構わずに気さくに話しかけてきて、ケガの心配までしてくれた。
「あ、あぁ、平気だ、それよりこの近くに神社か寺はないか?」
「え?それならこの先に『
「そうか、ありがとう!」
まだ何か言っているようだったが、それどころではなかったから礼を言ってまた走り出した。
『見つけたぞ、人の子よ』
――っち、見つかった。
心の中で軽く舌打ちをして、またこいつとの鬼ごっこに逆戻りの現実に嫌気がさしていた……。
後ろを振り返るとさっきのクラスメートがまだ何か叫んでいるようだったが、今のおれには答える余裕がない。
また今度あった時に改めて礼を言おうと心に誓い今はただ逃げる。
逃げる。逃げる。逃げる。
――それにしてもこいつが見えないなんてうらやましいな……。
そんなことを考えながら先ほど教えてもらった『稲荷神社』を目指して走り続けた。
走り続けたその先に少し古びた鳥居が見えてきた。
――見つけた!『稲荷神社』だ!
おれはようやくこの鬼ごっこが終わると安堵したその時、木の幹につまずいてしまった。
――!こんな時に!
どうにかバランスを保つことができたのだが、この隙をこいつが見逃してくれるはずもなくあっけなく捕まってしまった……。
のばされた右手におれの体は捕らえられてしまった。
少しつまずいてしまった本の数秒でこうも一気に状況が変わってしまうものなのか、自分が不甲斐ない……。
天国から地獄へとたたき落とされた気分だった。
『やっと捕まえたぞ、人の子よ』
――まずいな……。
おれはこの状況をどう回避するか必死に頭を回転させたが、良い方法が何も思いつかなかった……。
『お前からは不思議なにおいがするぞ人の子よ。我々の存在がみえるのだな。ならお前を喰えばまたもとに戻れてかえれるはずだ』
「……。」
こいつが何を言っているのか分からないが、おれを喰おうとしていることだけは理解できた。
あぁ、使いたくなかったがやはりおれはこの血に頼るしか生きられないのかとこの時のおれは半分あきらめかけていた。
——まさかあんな出会いがあるとは思ってもいなかった……。
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