隣の席のクラス一の美少女が盛大に〇〇したので、俺が罪を被ってみた
小田
〇〇から始まる物語
俺・
そして全ての生徒がエリートであるこの学園でも1番の頭脳を擁していると噂の生徒が俺の左隣、窓際最後列に座っている
花菱は1年生であるにも関わらず、3年生が主に受ける模試で全国1位を取るという快挙を成し遂げて一躍有名になった。
さらさらの黒い髪を腰の辺りまで伸ばし、出るとこ出てウエストは絶妙な曲線を描いているスタイル、そして何よりどんなことが起きても崩さない表情は男子だけではなく女子をも虜にする美麗さだ。
しかし誰もが憧れ、羨望する容姿をしているからと言って誰からも好かれるというわけではない。
彼女と同じクラスになり半年が経過した現在、彼女を妬む女子、あるいは告白して振られた男子から向けられる負の感情は計り知れないものがあった。
1年生でありながら3年の模試を受けるという大胆な行動にも、生意気との意見があった。
俺はそんな彼女とは席替えでつい先日隣同士になったばかりだが、一言も口を交わしたことはなかった。
これからも言葉を交わすつもりはーー。
ブッ!!!
ーーえ?
彼女の方を横目で見ながら退屈な数学の授業を耐え忍んでいると、まさに目の前の彼女から、派手な爆音がした。
ーーまさか、これはーー屁!??
瞬時に俺は思考する。
クラス内で友達のひとりもおらず浮いているマドンナであり、女子男子の注目の的でもある彼女が静かな授業中に盛大な屁をブッこいたともなればーー。
今後2年半の彼女の高校生活は、盛大な黒歴史として彼女の人生に刻まれるだろう。
それならばいっそーー。
「失礼しました!!」
俺がそう大声を張り上げると、クラス中が大爆笑に包まれた。
「おい和樹!少しは加減しろよ!」
友人であり、俺の属するグループの盛り上げ役でもある
「ちょっと、こっちまで匂うんですけど〜」
俺の右隣の席に座っている女子、
そして俺はさらに一言、
「あまりにも数学の授業が退屈だったもんで、油断してました!」
と言うと、数学教師が顔をひくつかせて苦笑いを浮かべた。
その間、盛大な屁をかました俺の左隣の学園一の美少女の顔を見ることはできなかった。
◆
「いや〜、さっきの和樹のおならはびびったわ」
「俺も俺も」
「そのときの
俺は昼休みにもなってまだ4時間目の屁をした張本人として弄られていた。ちなみに高原というのは、数学の教師の名前だ。
「俺もフォローするの大変だったわ!」
そう言ってくる裕太に、
「もう勘弁してくれ......」
と俺はまるで被害者のように振る舞う。
すると周りの男子数人が思い出し笑いを浮かべつつも話題は今夜のアニメのことへと移った。
◆
その日の放課後、帰宅部の俺は普段なら真っ直ぐに同じ帰宅部の連中と帰る所を断り、図書室に向かっていた。
そのことを友人達に、
「まだ屁のこと引きずってんのか〜?」
と弄られたが、
「そんなんじゃねえよ!」
と冗談混じりに返して入学以来一度も行ったことがない図書室に向かう。
というのも、昼前に花菱の屁を庇ってから、花菱が何度か俺に話しかけてこようとアプローチしてきたからだ。
俺は花菱が屁をした張本人だと疑われる可能性を恐れ、会話しようとする花菱を何度か退けた。
声を掛けようとする気配を発した瞬間に席を立ったりと。
花菱はどうしても俺にお礼を言いたいのか、俺に話しかける機会を探っていたようだ。
だからこそ、放課後誰も見ていない場を俺がセッティングすることにした。
すなわち、教室から図書室へと繋がるこの廊下だ。
「ちょっと待って、宮下くん!」
予想通り背後から声を掛けてきた花菱へと振り返る俺。
やっぱり来たか。
「どうした?」
「あの...その...昼間の件だけれど......」
「おまえが盛大にぶちかました屁の件か」
「デリカシー!!」
俺の言った冗談(?)に顔を真っ赤にして言い返してくる花菱。
お、意外と可愛いとこあんじゃん。
「普段からそういう姿、他人に見せればいいのに」
「そういう姿って、ところ構わずおならする女になれっての!?」
「いやいや、そういう意味じゃねえよ」
何勘違いしてんだこの女。
「そういうなんてーの?
隙のある姿を他人に見せれば、もっと人に好かれるんじゃないかって言ってんだよ」
「......別に私は、人に好かれたくて高校生やってるわけじゃない...」
しょぼくれた様にそう言う彼女の頬はまだ赤色に染まっている。
「まあ、とにかく」
仕切り直す様に俺は言う。
「今日のことは気にしなくていい。
数学の授業が退屈だったのは事実だしな。
いい日常のスパイスになったよ。
お互い忘れよう」
「スパイスの香りがしたってこと?」
「は?」
「私が昨日蒙古タンメン中本の本店でラーメン食べたから、その臭いがしたって言いたいんでしょ!
遠回しに!」
「いやいやいやいや、落ち着け、被害妄想だから。
ていうか本店まで行ったの?
わざわざ?」
ここから電車でも2時間はかかるぞ。
「そうよ!
常日頃から学年1の美少女として振る舞うストレス解消のために行ったラーメン屋のせいで翌日失態を犯すなんて、恥晒しもいいところだわ!」
「どうでもいいけど学年1の美少女って本人の口から聞くと寒気がするな」
コイツ、本当はどうしようもない馬鹿なんじゃないかと思う。
しかしそれは口に出さずに、
「用件は済んだだろう?」
と言って俺は花菱に背を向けて図書室の方に歩き出した。
それを花菱は呼び止め、
「待って...!
その今日は...ありがとう!
それから、今後も話しかけていい?」
「それは不味い」
俺が拒否すると、花菱の顔が固まった。
「花菱は今まで誰ともつるんでなかっただろ?
そんなおまえがいきなり俺みたいな平凡な奴と話し出したら、周りから疑われる。
今日の件が引き金になったんじゃないかと疑いだす奴も出てくるかもしれないだろ?
そうなるのはお前にとっても危惧すべきことなんじゃないのか?」
「それは...」
「それに何度も言うが今日のことは俺にとっても悪いことじゃなかった。
いい話のタネになったさ。
花菱も今後は気をつけろよ」
俺はそう言うと花菱の返事を待たずに歩き出した。
◆
その後半年間、俺と花菱は一切口を聞かなかった。
途中で席替えがあり、花菱と物理的な距離ができたこともあるが、花菱も俺の言葉を尊重してくれたのだろう。
あんな出来事をキッカケに好意を持たれても嬉しくないし、花菱にとっても忘れたいことだろうから、これでいい。
俺と花菱はこれから、別々の道を歩いていくんだろう。
......と思っていたのだが。
「お久しぶり、宮下くん」
「......」
高校2年になって1ヶ月が過ぎたある日、俺は校門の前に立っている花菱に声を掛けられた。
「なんか用か?」
俺がそう質問すると花菱は答えようとする。
しかしその瞬間、
「あれ、可恋、どうしたのー?」
と第三者から声を掛けられる。
「あ、
春乃と呼ばれたその女子は露骨に怪しげな目を俺と花菱に向ける。
「こんな朝っぱらから男子とふたりっきりって、もしかして付き合ってるの?」
「いやいや、そんなんじゃないからー!」
否定する花菱を見て俺はこの1ヶ月の間に友人から聞いた話を思い出す。
曰く、2年生になってから花菱のクラスメイトに対する態度が変わったこと。
男子に対しては相変わらずだが、女子に対しては心を開く様になり、誰とでも分け隔てなく接するようになったということだ。
春乃と呼ばれた女子を追い払うと、花菱は俺に向けて言う。
「クラスも別々になって友達もできた今なら、宮下くんと話してもいいよね?」
「ーー」
俺は思わず呆然としてしまう。
そんな俺を見て花菱はクスクスと笑った。
その笑顔を見て思う。
ーーああ、どうやらここから、俺と彼女の物語が始まるのかもしれない。
それは半年前の出来事をキッカケにした物語じゃない。
今日この瞬間から始まる、何処にでもいるありふれた2人の、ありふれた物語だ。
隣の席のクラス一の美少女が盛大に〇〇したので、俺が罪を被ってみた 小田 @Oda0417
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